> コラム > 伊原吉之助教授の読書室
2008.12.26 北京 伊藤正 「 發展には軍事力が必要 」 ( 緯度經度 『 産經 』 12.27, 5面 ) :
1 ) 今月 3日付 『 解放軍報 』 は 1面を潰し軍長老遅浩田前中央軍委副主席兼国防部長の回想記を掲載した。その數日後、軍事系など複數の中國國内サイト に遅浩田の 「 發言 」 が相次ぎ現れた。この發言は2005.4.の中央軍委擴大會議での講演で、内容の一部は當時海外に流出したが、偽造説もあった。台灣の武力解放のみか、米國打倒・日本殲滅を主張、核使用さえ肯定する過激な内容で、退任 ( 03年 ) 後の發言とは言え、荒唐無稽過ぎるとみられたからだ。
2 ) しかし 消息筋によると發言は本物であり、各サイト から削除もされていない。遅浩田がこの發言をした當時、各地で反日デモが吹荒れ、陳水扁總統ら台灣獨立派への非難が高潮していた。劉亞州・朱成將軍らの強硬論が跋扈し、朱將軍は對米核攻撃の可能性さえ唱えていた。彼らの主張は遅浩田と同工異曲。そのポイントは 胡錦濤政權の 「 平和と發展 」 戰略への批判である。 「 平和と發展 」 戰略は 1984年にトウ小平が唱え、87年の第13回黨大會以來継承されてきた黨の基本路線であり、基本的な世界認識である。
3 ) しかし遅浩田は、平和と發展戰略は今や限界に達し、 「 完全な錯誤、有害な学説 」 と一蹴する。なぜなら一國の發展は他國の脅威になるのが古来、歴史の法則であり、 「 戰爭權抜きの發展權は有り得ない 」 からだ。遅浩田は、中國の發展が中國脅威論を惹起したのは當然とし、日本は曾て中國の發展を阻止するため侵略戰爭を起こしたとの見方を示した上で、今日、日本は再び中國の發展權を奪い、現代化過程を断ち切ろうと決意していると主張する。更に 「 例えば中國が原油を 2010年に 1億トン、20年に 2億トン購入するようになれば、列強が黙っていようか 」 と反問し、 「 軍刀下での現代化が中國の唯一の選擇 」 と強調して戰爭準備を促している。
4 ) 胡錦濤政權の対外路線と真っ向から対立するこんな主張が、なぜ今軍事系や民族系の ネット に 再登場し、多くの支持を得ているのか? 遅浩田が當面の急務に擧げたのが台灣・尖閣諸島・南海諸島の 「 三島 」 問題だ。海洋權益擴大に努める中國海軍の當面の戰略目標は、東シナ海にあると西側専門家は指摘する。04年に中國原潜が石垣島周辺で日本領海を侵犯する事件があったが、今月 8日には中國の調査船が尖閣諸島海域を侵犯した。前者については中國政府は遺憾の意を表明したが、後者については中國固有の領土と強辯した。しかし中國の對日友好協力路線と相容れぬ行動てあり、中國政府の指示や 容認があったとは思えない。
5 ) 遅浩田講演が 今 ネット上に公開された背後に、國防力強化を追求する軍の強い意志があると専門家筋は見る。遅浩田は現役時代、空母保有を初め、裝備近代化を強く主張する鷹派として有名だった。そして今、中國海軍にとって飛躍への好機が訪れた。ソマリア沖への艦艇派遣。中國の艦船が領海外へ戰闘目的で遠征するのは初めてだ。海賊退治の國際協力というお墨付きがあるものの、中國軍が本格的な空母艦隊を保持する大きなステップになろう。
6 ) 遅浩田講演を 紹介した文章は、遅浩田が曾て日本に對處する特殊兵大隊を編成したが、平和な時代には不要として解散させられたとし、日米が絶えず中國を刺戟する惡しき結果を招いたと述べている。中國軍が何を目指しているか、平和惚けしては居られない。
→遲浩田の問題講演 「 米國打倒、日本殲滅 」 ( 「 台灣の聲 」 【全譯文】12.30/15:06 ) :産經新聞 12.27付掲載の伊藤正中國總局長の記事は、中國軍の長老遲浩田が 2005.4.の中央軍委擴大會議で行った講演 「 戰爭正向我們走來 」 に觸れている。
以下に講演の日本語譯を掲げる ( 伊原註:譯文に手を入れてある )
遲浩田 「 戰爭が正に我々に向ってやって來る 」
同志諸君
この題目を掲げるのは氣分が重い。中國の近代化はその過程で屡々外部勢力の打撃と直接侵略を受けて中斷して來たからだ。典型的なものとして 1927〜37年の 「 黄金の十年 」 がある。この十年は、今から見れば全然黄金ではない。その間に31年の九一八東北陷落と冀東傀儡政權の成立があった。それでも他の時期と較べるとこの時期の中國經濟の發展速度は速く、インフラ整備にかなりの進展があり、軍隊建設にも勢いがあって、中國に希望が見えた。しかし日本はこれを容認しなかった。東三省を併呑しただけで滿足せず、待ち切れずに全面的侵華戰爭を發動した。中國はやむなく焦土抗戰し、苦戰すること 8年。中國は慘勝したものの外蒙を失い、滿身創痍、財産の損失は6000億ドル以上に達し、 8年の戰火によって元々貧弱な中國は更に一窮二白となった。日本の侵略、特に全面侵華戰爭は大きく中國の近代化を遲らせた。
中國の發展を許さず、近代化の進行を阻害することが列強、特に日本の不變の國策だった。我々はこれを最も痛切な歴史の教訓とせねばならない。國家間には協力もあるが、本質は競爭・衝突、そして衝突の極致としての戰爭だ。協力は一時的で條件付。競爭と衝突は絶對的で歴史の主軸なのだ。從って所謂平和と發展が現代の主題とする論は全くの間違いだ ( 精々便宜的なものでしかない ) 。この種の論法は、檢討に耐え得る理論的根拠を缺くばかりか、事實とも歴史經驗とも合わない。
中日兩國が地理上も歴史上も兩立が叶わぬ死敵の關係であることは言う迄もないが、60年代の中ソ分裂もまた、どの國も國益追求を唯一の行動基準とし、道徳が介在する餘地など寸毫もないことをたっぷり説明するものだった。當時、中ソ間には共通の イデオロギー があり、共通の敵と對峙し、しかも科學技術のレベルが低い中國はソ聯にとって脅威から程遠かったが、それでも中ソは分裂したばかりか、鋭く對立するに到った。そこに到るまでの原因や端緒は數々あったが、根本原因はソ聯が、日増しに發展・強大化する中國が自國と肩を並べる状況など見たくもない點に在った。中國が肩を並べる事態などなお遠い將來のことであっても、それを許さなかったのだ。イデオロギーも敵も共通し、強弱の差が著しい中ソ間でも分裂したのだから、所謂 「 平和と發展 」 を現代の課題とする呪文を掲げた中國の政略・戰略・外交の虚妄性・脆弱性・危険性は明らかだろう。 「 平和と發展 」 を現代の主題とする主張は全くの誤り、獨善の塊、心身を麻痺させる有害な學説だ。そう斷ずる理由は下記の通り。
一、列強の一貫する國策は 「 中國近代化の進行過程を叩き潰すこと 」 だった
中國近代の歴史經驗と教訓、更に中華人民共和国50年來の歴史經驗と教訓に照して、次のような歴史規律──列強の中國近代化の進展過程に對する打撃 ( 全面戰爭を含む ) がその一貫した國策──があることが判る。過去 160年間そうだった。今後 の 160年間もそうに違いない。
二、發展は危險と脅威を意味しており、 「 戰爭權 」 抜きの發展權はない
發展が危險と脅威を意味するとは、世界史の通則だ。但し中國史に特例がある。大漢王朝だ。當時の地理の極限内にある敵を全部打破った後に 「 門戸を閉ざして 」 發展し、更に 「 天下主義 」 まで生み出した。そんなことが出來たのは、人口・軍事・經濟・文化のどれを取っても、いかなる種族も大漢民族には匹敵できず、匹敵するだけの潜在能力さえ無かったからだ。
戰國時代には、一國の發展は他國の脅威だというのが世界史の通則であり、西側外交の核心・基盤である。西側外交の開祖は フランスの赤い法衣の主教リシュリューだが、正に彼こそ外交領域に於て中世の 「 蒙昧 」 から抜け出し、近代外交の道を開いて道徳・宗教の束縛を一切捨て去り、國益を軸にした最初の人物だ。彼が制定した外交政策は フランス に 200年以上に亙る恩恵を齎し、歐洲の主宰者たらしめた。彼が畫策した三十年戰爭はドイツ人民を塗炭の苦しみに追込み小國分裂状態を現出して、ビスマルクが統一するまで動揺常ならずという状態に置いた。ドイツ統一の進展過程を見れば ビスマルクの 「 戰爭權 」 がなければ國家統一はなく、發展權など更になかったことが判る。
三、中國には 「 軍刀下の近代化 」 しかない
中國脅威論は全く正しいというのが、典型的な西側の考え方だ。 「 我々は門戸を閉して自分の經濟を發展させる。誰にも迷惑をかけない 」 という中國の考え方は愚劣なばかりか、國際基準に合わない。戰國時代、國益という殘忍な領域は情け容赦がない。僅かでも幻想を抱いた者は、忽ち大歴史の残酷な懲罰を受けた。中國の發展を日本は當然脅威と感ずる。中國自身がそう思わずに居られても、中國には、日本など列強の國際標準に基づく根深い發想を變える力など殆どない。そこで我々の思考の出發點は 「 中國の發展は日本など他國への脅威 」 でなければならぬ。
「 理 」 論上はどの國どの民族にも生存權・發展權がある。例えば、中國經濟が發展すれば石油の輸入が必要になる。生態保護のため中國が山を圍って森林を育てれば、木材資源を輸入せねばならなくなる。 「 理 」 の當然極る事態だが、列強には列強の 「 理 」 がある。中國ほど圖体のでかい國が石油を買入れ、購入量が 2010年に 1億トン、2020年に 2億トンに達するとなれば、列強はこれを容認できようか?
基礎的な生存資源 ( 土地・海洋を含む ) の爭奪は史上、絶對多數の戰爭の根源だった。情報化時代には多少變るにしても、本質的變化はない。發展した先進文明國 イスラエルも、水源を含む 「 より大きな土地 」 を巡って50年間 アラブ, パレスチナと一日も休まず戰っているではないか。中國人が永遠に貧困に安んじて發展を放棄するのでない限り、正當極る發展權を獲得するため、中國は戰爭準備を整えねばならぬ。これは我々が決めたものではない。我々の中の一部の善良なる人々の善良なる願いにより決めたものでは更にない。 「 國際慣例 」 と列強が決めた事態なのだ。
中國の20年來の 「 平和と發展 」 政策は、既に終着點に達した。國際環境にも既に質の變化が生じ、列強は既に中國の近代化進行過程を再び斷切る準備を整えている。だから中國が發展を求めるのなら、自らの發展權を守るため、戰爭準備を整えねばならぬ。戰爭準備をして初めて、發展の時間と空間が得られるのである。ここ20年來の牧歌的な平和發展の時代は既に終を告げている。次の場面は 「 軍刀の下での近代化 」 しかない。
四、 ( 大 ) 外交が内政を決める
中國で現在最も好戰的な鷹派でも、必ずしも今すぐ戰爭せよと主張している譯ではない。我々には、例えば國家統一の戰いや南シナ海の權益を守るためなど、戰爭するに足る充分な理由がある。つまり發展權のためなのだ。 160年來、殆ど認められずに來たからこそ、頗る貴重となった發展權を守るためなのだ。その發展權が日に日に高まる脅威を受ければ、我々は武器を採って中國人の發展權を守らねばならない。
内政が外交を決めるというのはその通りだが、この戰國時代に於て銘記すべきは、 ( 大 ) 外交も内政を決めていることである。これは理論上そう言えるばかりか、中華人民共和国の歴史的經驗からも言えることだ。70年代の中國の國防支出は、科學・教育・文化・衛生支出の合計を上回っていた ( 人民の生活が甚だ貧しかった ) 。私は勿論、今の中國の軍事支出が、今の科學・教育・文化・衛生支出の合計を上回ることは望まない。實際に中國で最も投資を必要としているのは教育である。しかし列強はそれを許すだろうか? なぜ毛澤東は、科學・教育・文化・衛生に回す資金をけちったのか?
ソ聯で公開された機密文書を見て60〜70年代のソ聯には中國への全面的侵略計劃がなかったという者が居る。假令その通りだとしても、やはり 「 歴史の眞實 」 は説明できない。對局は全て相互作用である。毛澤東指導下の中國が充分な精神的・物質的準備をしていたればこそ、ソ聯の全面的な中國侵略のリスクもコストも極めて大きくなり、歴史の方向を變えたのだ。これを見れば、力と意志こそ本當の平和防衛者であることが判るだろう。軟弱な者は侵略を招くだけなのだ。この點から言って、毛澤東こそ真に平和を護った者である。
五、善を求めて惡を得る 中國は今後十年、平和であり得るか
中國の近代化の進展過程をぶち切り、中國人から發展權を奪うため、列強は山ほど切札を切れる。最も明かな三枚の切札 が 「 三島 」 だ。そのうち台灣札が最も有効である。台灣海峽の戰いは何時勃發するか。その決定権は中國の手のうちにはなく、台獨分子の手にもなく、米日が握る。もし台灣海峽の戰いが始れば、それは單なる統一の戰いに留らない。更に深層的には米日が中國人から發展權を剥奪し、再び中國の近代化の進展遮斷を決意したことを示す。正しく歴史上の甲午の戰い ( 日清戰爭 ) や全面的な中國侵略により日本が行ったのは、領土や賠償金の獲得だけでなく、もっと本質的には中國の近代化過程をぶち切って中國人の發展權を奪うものだったが、同じ事態が再現するのである。
そこで我々は戰略決戰の高みから台灣海峽戰爭を取扱わねばならない。我々の現在の武力水準では、米日にとって戰略決戰ではない。特に米國にとっては。なぜなら、中國には大陸間彈道ミサイルが尠く、米國は既に本土ミサイル防衛 NMD を發展させる決意を固めたからだ。
台灣海峽戰爭勃發の引延しを阻止するには、先ず台灣海峽の戰いを 「 對稱戰略決戰 」 レベルに引上げ、共倒れの段階に持込まねばならない。我々が台灣海峽の戰いに勝てないと、結末は甲午戰爭敗戰時より悲惨なものとなる。だから戰わずば萬事お終い、戰わば日本を完全破滅させ、米國を半身不隨にせねばならぬ。これは核戰力だけが出來る任務である。
善を求めて惡を得る、これが、我々現下の政策の最終結末である。惡を求めて善を得る、つまり日本を全面的に壞滅し、米國を不具に陷れる能力を備えて初めて平和が勝取れるのだ。こうしない限り、台灣問題で10年も經たぬうちに必ず大戰が起きる!
六、覇權は大國の本質的特徴
何を以て大國というか。覇權保持者が大國だ。覇權がないと分割され、運命 ( 發展權を含む ) を他者に支配される木偶と化す。覇權は今のような戰國時代に於ては客觀的存在で、 「 他者の意志に依らずに方向轉換するもの 」 だ。問題は、それをはっきり意識するのか、主動的に追求するのか、それとも受動的に向こうから近づいて來るかの差に過ぎない。三島問題、戰略産業發展問題、國内各階層の利益調整問題を含む中國の一切の問題は、最終的には中華民族による覇權爭奪問題である。
覇權を爭うためには内紛の停止、安定と團結が必要だ。英國は海外殖民地の巨大利益により、早々と 「 勞働者階級の貴族化 」 が實現した。日本は中國から巨額の賠償金と市場を取って上層ばかりか下層階級にまで巨大な利益を齎した。時代は變り國情も違ってきたが、實質に變りはない。我々は覇權の視角で軍事外交問題を扱うだけでなく、更に覇權の視角で内部の階層・階級利益の調整問題も見なければならぬ。本國の下層を壓迫搾取するだけの上層エリート階級は、この戰國時代に於て民族の利益を代表出來ない。彼らは腐敗・墮落した意氣地なしであり、壓迫され、消滅する存在だ。成熟し智慧のある上層であって初めて民族利益を代表できる。つまり對内的には 「 讓歩政策 」 を實行して下層を指導し、共同で海外から利益を獲得出來るのだ ( この問題は複雑につき、後日詳述する。中國は巨大な海外利益を持つが、まだ積極的主動的に開發に乘出していないだけだ ) 。
→伊原コメント:
「 覇權を爭う者は他の覇權の擡頭を抑えようとする 」 という國際政治の力學の基本認識で徹底する點は "爽快" な程。
だから反撃力を持て、というのが妥當な結論。
日本はこの認識を缺くので獨立を守れない。
だが遲浩田は飛躍して、隣國日本の殲滅・覇権國 アメリカ の 半身不隨化を説く。
恐るべき獨斷と獨善、被害妄想。自分の努力不足を棚に上げ、一方的に相手が惡いとして復讐のための軍擴に逸る。 「 狂人に刃物 」 の中國軍とその指導者!
彼らは核を持ち、運搬手段を持ち、宇宙まで征服しようとしている。
「 皆殺し 」 の對象にされた日本は、反撃力を持つべきである。
シナの闇の深さは、ニヒリズムと恐怖政治・同志肅清政治を生んだ ロシヤを遙に凌駕する!