私のライフワーク予告

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私のライフワーク予告


  私が今なお熱心に讀書するのは、知りたいことが一杯あるからです。

  中でも、次の二つのテーマについは、ぜひ解明して本に書きたい。


  第一、あの戰爭 ( 支那事變+大東亞戰爭 ) の世界史的位置づけ


  第二、近代國家形成競争のケーススタディとして、以下の 4ヶ国の近代化過程を比較考察すること。

  日 本:大久保利通

  清 朝:李 鴻 章

  ロシヤ:ウィッテ

  ドイツ:ビスマルク


  第一のテーマは 「 日本現代史論 」 とも、 「 大日本帝國の興亡 」 とも言えます。

  江戸時代から、昭和の敗戰までの歴史です。


  一通りの書物は持って居ますが、まだどんどん新刊書が出ています。

  買い切れない、讀み切れない。

  特に、最近の專門書は實に細かく緻密に論ずるようになっており、公刊されていない資料・史料も澤山讀込んで居ます。

  まあ、挫けずぼちぼちやって行きます。


  第二のテーマは、四年間務めた龍谷大學の講師時代に設定しました。

  その後、参考書を目につく限り買込み、だから書庫を維持しないと保存できないほど本を持っているのです。

  この書庫代と、毎月買込む新刊書代とで、破産に瀕しているのですが。

  死ななきゃ直らぬ私の道樂です。


  日 本:

  大久保利通は近代国家建設構想の基本を設定しただけで暗殺されました。

  後を繼いだのは伊藤博文其の他の人々ですが、私が論じたいのは、江戸時代後半 ( 元祿以降 ) から敗戰までです。

  この中で設定したのが、 「 大正の間違い、昭和を殺す 」 という、岡田益吉 ( 『 昭和のまちがい 』 雪華社、昭和42.11.25 ) から學んだテーマです。

  となると、テーマの中心に 「 大正デモクラシー 」 が來ます。大正デモクラシーを築くのは明治の二代目、彼らこそ、昭和の敗戰を齎した 「 元兇 」 ではないか、というのが私の假説です。


  清 朝:

  太平天國鎮圧過程で西洋の武器に注目して洋務運動に勵み、清朝の外交を一手に引受けた李鴻章に目をつけました。

  『 問題と研究 』 に 7回連載した 「 中国現代史論 」 は、その素描でしたが、一番書きたい現代史 ( 辛亥革命以降 ) を書く前に雑誌が潰れ、休載となって現在に到って居ます。


  もっと粗い素描としては、以下があります。

  「 中国近現代史再訪 」 10回 ( 週刊 『 世界と日本 』 平成14.9.2〜15.2.17 )


  初めは、シナ近代国家形成努力史を全三巻に纏めるつもりでした。

  第一巻 清朝の對應 ( 鎖国=義和團事件 )

  第二巻 中國國民黨の對應 ( 十年建設、特に新生活運動 )

  第三巻 中國共産黨の對應 ( 大躍進と文化大革命 )

  この第三巻の一環として、 「 江青の文革 」 研究を始め、台灣・香港に調べに行ったのです。

  その後、シナ文明史論としては、江南開發が進む南宋から視野に収めねばならぬこと、毛澤東で終りには出來ず、トウ小平・江澤民・胡錦濤まで論ぜねばならぬことを悟り、範圍が擴大する一方で閉口? いや、喜び勇んでおります。


  帝政ロシヤの近代化:

  近代国家建設の担当者としては、ウィッテよりストルイピンを中心に見るべきことに氣付きました。

  さらにニコライII世時代だけでなく、ナポレオン戰爭の衝撃によるデカブリストの亂から始め、世界で最初に奴隷解放をした ( リンカーンより早い! ) アレクサンドルII世に注目すべしと考え、エドワード・ラジンスキーの 『 アレクサンドルII世 ( 上下 ) 』 ( NHK出版、2007.9.30 ) を買ったところです。

  但し、まだ讀む時間を得ておりません。残念!


  ニコライII世時代の改革については、専門書 ( 註の多い書物 ) を既に何冊も讀み終えており、報告が遅れて居ります。

  何れ報告しますから、ご期待下さい。


  ビスマルクについては、最近、分厚い傳記が幾つも出ました。

  皆買ってありますが、讀めて居ません。

  最近、手始めに鶴見祐輔の 『 ビスマーク 』 ( 大日本雄辯會講談社、昭和10.6.3 ) を讀み、余りの明快さに感嘆しました。

  ビスマルクの性格的特徴を、壺を押さえて書いてある。

  鶴見祐輔は、人物を描くのがうまい!

  これでビスマルク研究にはまりかけ、書庫から本格的傳記を我が家に持って來たのですが、讀む暇がないまま、積ん讀状態です。


  という譯で、何れ續々報告致します。

( 平成20.11.21 )