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紹 介:
青木直人 『 北京五輪後に何かが起こる 』
( PHP研究所、2008.9.5 ) 1300円+税
副題に 「 二十一世紀の義和団事件 」 とあります。
十九世紀末の1900年に起きた義和団事件は外国人宣教師と教會が狙われたのですが、二十一世紀に起きる排外運動の標的は外国企業ではないか、というのです。
青木直人は、嘗て 『 田中角栄と毛沢東──日中外交暗闘の30年 』 ( 講談社、2002.11.27/1500円+税 ) という本を書きました。
この本の 「 公表できなかった田中・毛会談 」 ( 164頁以下 ) で、こんなことが書いてあります。
1972年 9月下旬に訪中した田中角栄は、27日に毛沢東と只一度の会談を行いました。
両人の間では 「 政治的な話は一切なかった 」 とされていますが、実は生々しい話が出たので、それを消すため 「 雑談しかなかった 」 とされたのだと青木は書きます。
毛沢東は外国留学はしませんでしたが、新聞を讀んで世界情勢を判断し、外国を操る方策を考えていた人物です。
田中角栄と雑談しただけとは思えません。
青木直人は会談内容を自民党関係者だけでなく、中国側対日工作関係者とも会って突き止め、次のような話だったと 『 田中角栄と毛沢東 』 で書いています。
毛沢東曰く、日本には四つの敵がある。ソ米歐中。
ヒトラーは英佛ソ米を敵にして負けた。
東條英機は中米英佛ソと戰って負けた。
戦後の日本はもう一度、四国を敵にして戰うつもりか?
「 どうですか、田中先生。組むなら徹底して組もうではありませんか 」
日中が組んで米ソと戰おうという 「 日中同盟 」 の提案です。
田中角栄は即答できず、沈黙のまま帰国した。
対外的には 「 雑談しただけ。政治的な話は一切なし 」 として誤魔化したと。
私は、いかにも毛沢東が言いそうな話と受止めています
× × × ×
さて、その青木直人が書いた新刊書が、今回紹介する 『 北京五輪後に何かが起こる 』 です。
開巻劈頭の 「 まえがき 」 で、青木直人曰く、
『 人民日報 』 や新華社の報道を数十年も見続けていると、記事の中のキーワードを読み取る能力が育つ。
最近目立つキーワードは 「 改革開放政策を引続き堅持する 」 の繰返しである。
これは何を意味するか?
改革開放政策に抵抗が強くなっていることを示す。
この政策で恩恵を受ける一部の者に対して、この政策のため土地や家を失ったり、食いはぐれたりした負け組の反撥が高まっていることを示す、と。
負け組の発する憤激のマグマはどこに向かうか?
中国に進出し、政権と組んで儲ける外国企業に向かうのではないか?
これは義和団事件の再來ではないか──
以上が、本書の大筋です。あとは目次を見れば、内容が想像できます。
まえがき
序 章 「 義和団事件 」 前夜
第一章 中国グローバル化の光と闇
第二章 中国共産党が恐れる反日スローガン
第三章 中国社会のビジネス感覚
第四章 「 中国流 」 市場経済は破綻寸前
第五章 上海ヤオハンはなぜ撤退したのか
第六章 森ビルの中国ビジネスに隱された真実
第七章 中国 「 民主化 」 は幻想である
第八章 深刻な中国経済の状況
【資料】
一つ、目から鱗だった箇所を紹介しましょう。
江沢民政権は 「 法輪功 」 を目の色を変えて弾圧しました。
これは、共産党とは別の組織が大衆を動かす能力を持つことを恐れた、そのため潰しにかかったのだと理解していました。
ところが、本書 195頁で、別の重大な理由が書いてありました。
法輪功が組織した數千萬もの人々は、改革開放政策で 「 敗者 」 となった人々だったのです。
解雇された国有企業の労働者、
幾ら働いても喰えぬ農民、
職に就けぬ退役軍人、
差別され見捨てられる身体障害者、
弱い立場の主婦ら……。
彼らは、役得で暴利を貪る共産党幹部に怨念を抱いています。
紛れもない 「 叛乱予備軍 」 なのです。
だから江沢民は目の色を変えて弾圧しました。
残虐な拷問や、
生体解剖 ( 生きたまま臓器を切り取って外国人に高く売りつける )
こうして 「 絶滅 」 を図っているのです。
内蒙古・新疆ウイグル・チベットで 「 少數民族 」 ( これは差別用語です ) の 「 民族浄化 」 を図っているのも、叛乱の芽のすり潰しです。
中共政権は、ナツィス・ドイツより余程あくどいことをやって居ます。
それなのに、世界はナツィスを叩くほど中国を叩いて居りません。
ダブル・スタンダードも甚だしい。
こんな恐ろしい国に、技術と資金を投入して政権維持に貢献している企業とは、利益の爲にはなりふり構わぬ 「 慾惚け 」 と思えて來ます。
( 平成20.10.25記 )