北実三郎 『 永遠の自由人:生きているきだみのる 』

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紹 介:


    北実三郎 『 永遠の自由人:生きているきだみのる 』

      ( 未知谷、2006.3.27 ) 2000円+税



  きだみのるには、青春時代に熱中して読みました。

  『 気違い部落周遊紀行 』

  『 気違い部落紳士録 』

  『 日本文化の根底に潜むもの 』

  『 東京気違い部落 』

  『 にっぽん部落 』 等々


  西洋の書物の翻訳・紹介に終始していた日本の社会学界の中で、初めて日本の社会を自分の目で眺め、対象化した社会学者、というのが私のきだみのる評です。

  部落という言葉は、 「 部落問題 」 との関連でその後使われなくなりますが、きだみのるのいう 「 部落 」 とは、 「 おらがムラ 」 という時の 「 ムラ 」 は 「 村 」 でなく 「 部落 」 だ、というにあります。村は部落がいくつか集った行政村である場合が多い、共同体の基本・生活基盤は部落であって村ではない、というのが、きだみのるの持論です。


  その部落に住み込んで、部落の人間関係を 「 蟻の目 」 で観察したのが前記の初めの方の著書。

『 日本文化の根底に潜むもの 』 は、そのムラ共同体の具体的見聞を、社会学者として分析して理論化したもので、抜群に面白かった。


  本書は、毎日新聞の東北地方の記者として、東京から東北に拠点を移した晩年のきだみのるに密着した 「 きだみのる崇拝者 」 の手記です。


  「 自由人 」 であり、 「 旅人 」 「 放浪者 」 であり、 「 単独歩行者 」 として 「 孤独な学業 」 を築いたきだみのるの壮絶な晩年を描いています。 「 美食家 」 の面も。


  ファーブルの 『 昆虫記 』 の邦訳に従事したことが、きだみのるの人生に大きな影響を与えている、という指摘は重要です。


  「 世に言う天衣無縫、だらしなさ、頑固さはポーズで、内面はナイーブで真面目、誠実。佛文学者などより、数学・理学的な仕事に向いていた気がする 」 という船渡坦の指摘は的確です ( 163頁 ) 。


  私は、 「 ほやを飽きるまで食べ続ける話 」 は、きだみのる本人の書いたもので承知していましたが、その辺の事情を本書で詳しく知ることができました。


  人間関係のしがらみがある世間で自由に生きるのは難しいですね。

  自由人とつきあわされる側からすると、自由人とは近所迷惑な存在です。

  さらに 「 自由人 」 きだみのるは、子育てに失敗しています。

  子供を育てるには躾が必要なこと、自由とは 「 制約との緊張関係で生ずる生き方 」 であることが自覚できていなかったようです。



  きだみのるが我儘者にしてしまったミミとの悪戦苦闘については、三好京三の 『 子育てごっこ 』 ( 直木賞受賞 ) を御覧下さい。

( 平成20年 6月19日 )