台湾立法委員選挙視察記

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       台湾立法委員選挙視察記


 1月6日 ( 日 ) から15日 ( 火 ) まで台湾に行っていました。

第一目的は立法委員選挙の視察、第二目的は、それに合わせて時間をとった国立台湾大学日本語学科大学院修士課程の学生十余名への10回連続集中講義です。集中講義のレジュメは、この読書室に掲載済みです。


 12日 ( 土 ) の投開票日には、産経支局で開票速報を見ていました。選挙へのコメントを求められ、先ず午後 6時ころに予備コメントを送りました。若い記者が私の談話をメモし、それをワープロで打ったものをもう一度私が見て送稿する、という手続きです。


まず、事前に新聞が予想していたのが次の数字です ( 共に 1.12 付 ) 。


聯合報 自由時報

  中国国民党  68±5   70

  民主進歩党  40〜45   50


 そして 『 自由時報 』 曰く、民進党は45議席以上なら勝利、40以上なら安定、38以下 ( 議席定員 の 1/3以下 ) なら敗戦だと。

 何れも民進党が20議席から30議席近く負けると予想しています。


この目標に対して民進党内ではかなり楽観しており、目標は軽く達成できると見ていました。国民党はいつも事前に楽観視しすぎて負けている、今回もそうだと。

その予想は次の通り。


  選挙区  33

  比例区 15〜17

  合 計  48〜50


 ところが 4時に投票を終えて直ちに開票し始めた選挙区の模様は、この予想よりずっと厳しい。そこで私のコメントは、 「 厳しいが…… 」 との前置きで一応のまとめをしました。


そして 7時に民進党が記者会見するというので、記者と一緒に 6:30 に 民進党本部へ行きました。ところが 8時を過ぎても 9時を過ぎても記者会見が始まりません。稀代の敗戦に責任問題が生じ、幹部会議で激論が続いているのだろうというのが、集った記者たちの観測でした。


この間、記者会見場にしつらえられた大型テレビ で開票速報が刻々、民進党の敗戦を伝えます。予想を遥かに上回る大差です。

( 最終結果:国民党81/民進党27/諸派 5。国民党は 3/4 を獲得した! )


これを見ながら、私は考えました。これを嘆き怪しむだけでは コメントする意味がない。将来の展望が開けるような コメントをしよう。

そこで、ポイントを二つに絞ってこう考えました。


 第一のポイント=この民進党大敗が来る総統選にどう響くか?

( 私は、必ずや民進党の謝長廷候補に有利に働くと考えましたが、コメントは短く、それに触れられませんでした )


第二のポイント=この大差はこれまでの青対緑という分類では理解できない。民進党は緑の一部を代表するだけだし、国民党は緑的部分をたっぷり含んでいる。そして、これだけ差が開くと、圧勝した国民党も、大敗した民進党もこれまでのやりかたが続けられない。必ずや政界再編成に繋がるであろうと。


かくて、9:30にやっと始った記者会見で陳水扁総統の党主席辞任の弁を聞いたあと、支局に帰ってから次の談話を書いて貰いました。これも記者が談話を筆記し、記者が書いた文章を二、三、手直ししただけです ( 自分が執筆した文章でないと、配慮が行き届かないのですが、これが新聞社の遣り方ですからやむを得ません ) 。以下、そのゲラです。





野党の中国国民党が、立法院 ( 国会 ) 議席の3分の2どころか、4分の3を制して大勝するとは、事前には到底考えられなかった。この大差をどう考えればいいのか。

 第1に、3月に迫った総統選への影響だ。大敗を機に民主進歩党が奮発し巻き返すのか、あるいはこのまま意気消沈し国民党が連勝するのか?

 第2に、民進党と国民党の対立だけで理解する従来の分析手法では、今後の事態の展開は予想できない。もはや民進党は国民党に反対するだけでは存在意義を発揮できない。圧倒的多数の国民党とどう連携していくかが問われる。

 一方、国民党も台湾のためにどういう政治を行うか、その過程で民進党とどう協力するかが問われる。今後、台湾は与野党を巻き込む政界再編に向かうのではないか。



  「 締切まであと5分 」 という慌ただしい中で、 「 限られた字数より多くも少なくもなくまとめる 」 という作業でともかくまとめた見解です。

 あとで考えると、第1では 「 総統に謝長廷を選ばないと台湾に前途はない 」 と言い、第2では 「 両党とも、有権者の意向に沿った政策展開が迫られている 」 という点を強調すべきだったと思いますが、あの場ではこれが精一杯でした。


 ところが15日に帰国して13日の 『 産經 』 を見ると、この コメント が載っていない! 東京版は、最終版で差し替えられた筈だが、大阪版では、少なくとも奈良に配られた分では差し替えられていない!


私は13日、14日の二日間、台湾の知友に会ったり電話したりする度に、以下のような見解を述べました。


● 「 民の声は神の声 」 vox populi, vox dei という諺があるが、今回の台湾立法委員選の結果は正に 「 神の声 」 だ。台湾に神風が吹いた、とも言える。


●もし今回の選挙結果が四分六分程度の開きなら、民進党も国民党も従来の政争路線を続けたであろうが、これだけ開くと 「 民意尊重 」 路線に切換えざるを得ない。


●馬英九がいかに立派な人物であろうとも、総統選で馬英九を選ぶと、国民党は 「 絶対的権力は絶対的に腐敗する 」 環境に身を置くことになる。これは台湾住民にとっても国民党自身にとっても不幸である。


●幸い、民進党候補は 「 和解共生 」 を スローガンにする謝長廷である。謝長廷は信頼するに足る政治家だから陳水扁のような挑発路線はとらず、国民党と妥協しつつ、妥協しすぎることもなく、台湾の前途を拓いて行くであろう。


●もし台湾国民が総統に馬英九を選べば、民主主義の基本である 「 チェック・アンド・バランス 」 が働かなくなり、歯止めが利かなくなって台湾は迷走する恐れが生ずる。


●かくて台湾の前途ばかりか日本の前途も世界の前途も、台湾総統選に左右されることになる。3月22日の台湾総統選こそ、正に天下分け目の関ヶ原になる。


14日の晩、知友が私の送別会を開いてくれました。その席には国民党支持者も民進党支持者も居ましたが、私は以上の見解を披瀝したあと、乾杯を提唱しました。


「 皆さん、おめでとう! 台湾の将来は明るい。3月に謝長廷を総統に選べば、台湾は諸政党が協力して台湾の前途を考える方向に道が開けます。台湾の前途に乾杯! 」


 以上、取り敢えずの私の台湾立法委員選報告です。

( 平成20.1.17 )