中国に清末状況が再現?

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伊原注:以下は 『 関西師友 』 平成20年新年号に載せた世界の話題 ( 218 ) の 「 読書室 」 版です。



       中国に清末状況が再現?



     中国はさながら怪獣


 前号で、中国にしぶとい歴史の復原構造ありと書いたあと、 「 東アジアの現状は清末同然 」 という指摘に遭遇しました。


 西尾幹二 「 中国に奪われた自由 」 ( 『 ヴォイス 』 12月号 ) です。



  「 アヘン戦争期と似た三角貿易体制を突破できるか 」 という副題がついています。


西尾さんは中国を、以下のような三つの頭を持つ怪獣国家と見ます。

  古代専制国家体制

  共産主義的全体主義国家体制

  市場競争原理主義的資本主義国家体制


 さらに曰く、

 中国に、阿片に匹敵する資源浪費型の 「 近代生活の富と快適な生活の味 」 を教え込んだのは米国である。自国の製造業に見切りをつけた米国は、低費用の中国を製造基地にして浪費し続ける道を選んだのだ、と。


外資の到来で欲望に目覚めた中国は、 「 毒を喰らわば皿まで 」 と、数千年来、散々使い古した国土の上で突進を始めました。

 過大人口の下、賤民資本主義 ( マックス・ウェーバーの いう パリーア・カピターリスムス。なりふり構わぬ金儲けのこと ) が暴走し、腐敗汚職、収入格差、大気・河川・湖沼・土地の汚染、地下水の涸渇、砂漠の拡大等々、凄まじい事態が進行中だと。


     阿片戦争時代の再現


西尾さん曰く、

 今、中国は、英国が絹・生糸、茶、陶磁器、南京木綿などを買漁って銀を持込んだ段階の清朝に等しい。やがて著しい貿易逆超に悩む英国が阿片を持込み、逆に清朝から銀が流出し始め、中国の転落が始るのだが、阿片の代りに米国が持込んだのが欲望なのだ、と。


英国は、本国−印度−清朝に跨がる 「 アジア三角貿易 」 で清朝を取込んだ。

 今成立しているのは、日本→中国→米国と回転する新三角貿易だ、と西尾さんは言います。


 中国が日本から機械と中間原材料を輸入し、加工して米国に売る。

 米国は中国から大量に輸入しているが、そこには中国に出た米資が絡んでいて、米資が自国に持込む形で入超が生じているので、日米貿易摩擦に似た険しい事態は生じない。


この日米中三角貿易は、 「 三国が互いに自分を縛る不自由な関係 」 だから、一国だけ抜け駆けすることはできず、行着くところまで行くしかない、と西尾さんは見ます。


     中国が破るべき 「 壁 」


 中国にはいま、世界最高額の外貨準備があるが、これは外資が稼いでくれたもので、中国の自力更生の成果ではない。

 そして黒字国はやがて必ず赤字国に転落する。現に中国は、食糧とエネルギーで輸入国に転じつつある。


 それに、中国に世界的な輸出企業は育っていない。

 尤も、中堅企業はそこそこ育っているので、中国経済は、そう簡単に潰れはすまい。


 だがもう一つ 「 壁 」 がある。

 独裁・秘密主義・情報抑圧・宗教弾圧等々、経済大国となる上での障碍である。

 これを、中国はどう克服するか?


 中国を褒める人は経済しか見ない。

 経済と政治を合わせて見ないと中国の実像は掴めない、と西尾さんは結びます。


私曰く、政治と経済を繋ぐ社会 ( 人間関係 ) も大事です。

 低信用の詐欺社会を克服しないと、百鬼夜行の事態を改善できず、世界中から嫌われ、敬遠されます。


     怪獣国家の前途如何?


 西尾さんは、三つの頭を持つ巨大怪獣は経済大国になれないよ、生延びるのも難しいよ、と警告します。


 同感ですが、この怪獣をまともな大国として賛美する人も少なくありませんね。


中国進出企業は、今儲かればいいので、先のことなど構わない。

 しかし、儲け続けるには、冷徹な現状把握と確かな洞察が必須です。


以下、西尾さんが 「 怪物 」 と称した三つの国家体制について見てみましょう。


 古代専制国家体制:

中国が過大な版図・雑多な民族を抱え続ける限り、専制はやめにくいでしょう。


 共産主義的全体主義国家体制:

ソ連解体後、共産主義は権威を喪いました。共産国の実体は、国家財産にたかる特権階級+おこぼれ頂戴組が、広範な民衆から好き勝手に搾り取る階級国家です。経済が成長し、民衆が何とか食べられる間はもちますが、食えぬ人民が殖えれば崩壊します。


 市場競争原理主義的資本主義国家体制:

これは弱肉強食型社会ですから、弱者がおとなしく食われている間しかもちません。


     意志表明の手段を持った人民


 経済成長は無限には続きません。必ず景気変動の波をかぶります。

 景気の下降期をどう乗越えるか。これで政権の生存能力が試されます。


 日本は明治維新から77年、昭和の三代目で大日本帝国を潰しました。

 ソ連はロシヤ革命から74年、四代目で潰れました。

( 本誌平成17年8月号の拙稿 「 四代目で潰れる共産党 」 参照 ) 。


中共政権はいま、建国後に入党し、党のおかげで大学を卒業したテクノクラートの第四世代が政権を担当し、建国以来58年目になります。


 大日本帝国の滅亡とソ連の崩壊の共通点は 「 官僚制の肥大化 」 による国家運営の硬直化です。


官僚化・硬直化という点では、中共政権も人後に落ちない。

 トップと雖も普通の人、群がる先輩・同輩の顔色を窺いつつ政権を運営しております。

 こういう運営の仕方で、過大な領土・雑多で我が儘勝手な人民を相手に 「 中央集権 」 の実を挙げ続けられましょうか?


インターネットと携帯電話で自分の意見を表明する場を獲得し、行動を呼びかける術まで身につけた人民が、いつまでもおとなしく権力に従っているとは思えません。

( 07.11.28/12.28補筆 )