新年おめでとうございます

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平成20年元旦

     新年おめでとうございます

伊原 吉之助


 皆様、よきお年を迎えられんことを! 近況報告を兼ねた賀状です。

  ( 合同ゼミの課題通告を兼ねているので、御不幸があった方にも出します )


 帝塚山大学卒業後も私を陰に陽に支え続けてきた卒業生の皆さん、有難うございます!




 年相応に体が弱って来て、目も霞みます。ちょっと暗いと本の背文字が読めない。それでも尚好奇心旺盛で読みたい本だらけ、欲しい本だらけ。書庫の維持だけで破産に瀕しているのに……。


 今年もそれなりに文筆活動をしました。産経新聞の 「 正論 」 でも、 『 関西師友 』 の 「 世界の話題 」 でも書きたいことが書けました。これが自分の遺言になるなあ……と思いつつ筆を進めています。7.18付 「 正論 」 「 私たちに敵と戦う用意があるか 」 では、 「 ディベート大学 」 を主催しておられる北岡俊明さんとそのスタッフの人たちから寄書のファンレターを頂き、感激しました。10.9付 「 正論 」 「 日本の "秀才外交" の大失敗 」 で、北岡グループから二通目の寄書が届きました。

 こうした直接の反応を知ると、文章を書く者の責任の重さを感じて粛然となります。


 日本は 「 占領の毒 」 と 「 マス・インテリの体制破壊の毒 」 が回り、若い世代が洗脳されて愛国心を喪失し、半身不随の腑抜け状態にあります。それに反撃する政治家が尠い。また、責任ある地位についていながら、報酬を貪りつつ責任を果さぬ背任横領の徒が殖えました。指導者の腐敗堕落こそ、亡国の主因です。


 でも私は天命を信じて人事を尽し、自分の持分を守ります。私の果すべき任務は 「 良き日本の伝統 」 の復活と伝達です。主要任務の一つが正統日本語の普及徹底と心得ています。戦後の日本は、当用漢字・現代仮名遣いの採用で、古典どころか、戦前の出版物から戦後育ちを遮断しました。恐るべき日本文化の断絶です。そしてマス・メディア は 当用漢字・現代仮名遣いを墨守して断絶に加担し続けています。


〈外国旅行〉

台 湾 ( 5月15日〜22日 ) :

 台中の私立靜宜大學日本語学科が主催する 『 日本學と台灣學 』 国際学術シンポジウムで報告するため。また例によって 「 台湾年表・覚書 2006.12.〜2007.5. 」 250頁を 40部つくり、知友に配布しました。私の報告は 「 日台中の平和共存──文明史の観点から 」 。近所迷惑な中共政権との共存は難しいが、日台はよく協力しましょうという趣旨です。靜宜大學は シンポジウム翌日の日曜日に日月潭を経て台北まで小型バスで研究者を送ってくれました。途中、南投縣埔里の山中で見た 「 中台禪寺 」 は、中国から派遣された和尚が金 ( 中共資金? ) にあかせてつくった巨大建築で、台湾の津々浦々まで組織を持っています。中共は台湾を絡め捕る ネットワーク を 已に設定済との印象を得ました。日本もそうですが、台湾の人々も敵性勢力の浸透に対して無防備ですねえ……。


台 湾 ( 9月6日〜12日 ) :

 台湾の亞東關係協會と國史館主催の 「 殖民化と近代化──日本統治時代の台湾を検証する 」 フォーラム で 報告するための訪台です。 「 台湾年表・覚書 2007.6.〜8. 」 140頁を配布。私の報告は 「 文明論から見た日本の台湾統治 」 。シナ=野蛮 ( 低信用社会 ) 、日本=文明 ( 高信用社会 ) と規定し、台湾は清朝→日本→中国国民党と支配者が変ったが、清朝も中国国民党も低信用政権、台湾は日本統治時代に文明化し、高信用社会になった、だから蒋家独裁時代も米国に輸出できたし、李登輝総統時代に自由民主国になれたのだと話しました。


台 湾 ( 平成20年1月6日〜15日 ) :

 前から台灣大學日文系から大学院修士課程の学生に集中講義を頼まれていたのが、1月12日の立法委員選挙視察に合せて決りました。7日 ( 月 ) 〜11日 ( 金 ) の 5日間に 毎日2コマ ( 1コマ=50分+10分休憩+50分 ) 講義します。 「 文明史上の台湾と日本 」 を テーマ に 元の世界貿易帝国形成・西洋の大航海時代・東アジア の 大航海時代 ( 戦国末期 ) 以降の台湾と日本について論じます。私のこれまでの勉強の集大成です。台北在住の知友が何人か聴講してくれます。


〈文章関係〉

1 ) 『 関西師友 』 世界の話題: 「 脱皮を迫られる台湾政治 」 ( 新年号 ) 、 「 明治天皇の御親政 」 ( 2月号 ) 、 「 大正天皇と大正時代の空白 」 ( 3月号 ) 、 「 昭和天皇と大日本帝国の崩壊 」 ( 4月号 ) 、 「 台湾:政界再編の波 」 ( 5月号 ) 、 「 義和団事件と文革の嵐 」 ( 6月号 ) 、 「 謝長廷への誤解 」 ( 7月号 ) 、 「 先駆者の孤独 」 ( 8月号 ) 、 「 国際謀略に即応せよ 」 ( 9月号 ) 、 「 国家意志の再構築へ 」 ( 10月号 ) 、 「 劣化した日本人 」 ( 11月号 ) 、 「 中国が専制を繰返す理由 」 ( 12月号 ) 、 「 中国に清末状況が再現? 」 ( 新年号 )

2 ) 謀略戦争に備えよ ( 21世紀日亞協会ホームベージ の 「 役員エッセイ 」 に 掲載 )

3 ) 2月以降、21世紀日亞協会 「 コラム 」 欄に 「 伊原吉之助教授の読書室 」 開設。パソコンを お持ちの方 は 「 日亜協会 」 で 検索し  「 コラム 」 ヘ。拙文を増補の上、掲載しています。

4 ) 戦後体制の是正が急務 ( 『 國民新聞 』 平成19.2.10号3面 )

5 ) 中共研究から台湾研究へ ( 巻頭エッセイ 「 台湾と私 」 16 ) 『 日台共栄 』 3月号, 2-3頁 )

6 ) 動物文明から植物文明へ転換しよう/ 「 力と闘争 」 より 「 美と慈悲 」 優位に ( 正論 『 産經新聞 』 3.24 )

7 ) 米中関係の焦点 台湾 ( 大阪倶楽部 『 倶楽部だより 』 平成19年5月,17-23頁 )

8 ) 周恩来をいびり殺した男の物語 ( 書評 『 周恩来秘録 ( 上下 ) 』 『 改革者 』 6月号,64頁 )

9 ) 日台中の平和共存──文明史の観点から ( 曾煥棋編 『 靜宜大學2007年 「 日本學與台灣學 」 曁第36回南島史學會大會國際學術研討會會議論文集 』 2007.6.20, A1-1〜14頁 )

10 ) 私たちに敵と戦う用意があるか/日本の良さ発揮こそ世界文明に貢献 ( 正論 『 産經新聞 』 7.18掲載 )

11 ) 「 商標権保護/外相が日華交渉指示 」 ( 『 フジサンケイ ビジネスアイ 』 8.30,2面 ) への論評 ( 顔写真入り 240字 )

12 ) 文明論から見た日本の台湾統治 ( 『 2007年台日學術交流國際會議論文集 』 亞東關係協會・國史館, 2007.9.8-9, 3-20頁 )

13 ) 総統選挙を控える台湾の内政事情 ( 『 日本 』 10月号,28-37頁 )

14 ) 日本の "秀才外交" の大失敗/中国の土俵に乗り、台湾を見捨てる ( 正論 『 産經新聞 』 10.9掲載 )

15 ) 台湾総統選:決戦か、混迷か ( 『 戦中派 』 第413号/平成19.11.1, 1-2面掲載 )

16 ) 六甲の坂道の恩恵 ( 日本万歩クラブ機関誌 『 帰れ自然へ──アルク── 』 新年号? )


〈口頭発表〉

1 ) 1月15日 21世紀日亞協会第123回例会 ( 大阪 ) : 「 台湾政治に何が起きているか:二大市長選挙を観察して 」

2 ) 1月19日 芦屋読書会 ( 津村宅 ) : 「 明治天皇と昭和の敗戦 」

3 ) 3月3日 大和心のつどひ ( 大阪・生國魂神社 ) : 「 台湾揺るがす世代交代──李登輝発言の波紋 」

4 ) 3月10日 人づくり 県民ネットワーク特別講演会 ( 新潟 ) : 「 日米衝突は不可避であったか? 」

5 ) 4月11日 大阪倶楽部午餐会 ( 大阪 ) : 「 米中関係の焦点 台湾 」

6 ) 4月15日 伊原ゼミ三碓会 ( 京都 ) : 「 明治の日本、昭和の日本──天皇と大日本帝国の興亡 」

7 ) 5月9日 CMMS ( 華人経営研究 ) 第16回OB研究会 ( 大阪 ) : 「 台湾問題:国際政治の焦点 」

8 ) 5月18日 靜宜大學日本文學科 ( 台灣・台中 ) : 「 大統領制と内閣制:政治の智慧 」

9 ) 5月19日 靜宜大學国際シンポジウム ( 台灣・台中 ) : 「 日台中の平和共存:文明史の観点から 」

10 ) 9月8日 亞東關係協會 「 殖民化と近代化シンポジウム 」 ( 台北 ) : 「 文明論から見た日本の台湾統治 」

11 ) 10月19日 第5期 CMMS: Chinese Management and Marketing School講義 ( 大阪 ) : 「 中国近現代史の歩み 」

12 ) 10月25日 関西戦中派の会 ( 大阪 ) : 「 台湾総統選:決戦か、混迷か 」

13 ) 11月9日 実例法務研究会 ( 東京 ) : 「 文明史上の日本:混迷と再生 」

14 ) 11月13日 21世紀日亞協会第132回例会 ( 大阪 ) : 「 2008年:台湾政治の関ヶ原? 」

15 ) 11月19日 マスコミ綜合研究所 ( 東京 ) : 「 台湾総統選挙:混迷か、決戦か 」

16 ) 11月24日 第9回台湾問題座談会 ( 大阪 ) : 「 日本から見た台湾の現状と行方 」

17 ) 12月27日 EAS 研究会 ( 神戸 ) : 「 日台は運命共同体? 」

18 ) 1月7日〜11日 台灣大學10回連続集中講義: 「 文明史上の台灣と日本 」

19 ) 1月18日 芦屋読書会 ( 津村宅 ) : 「 台湾報告:台大講義と立法院選挙 」

20 ) 1月22日 岸和田健老大学 ( 岸和田 ) : 「 親日国台湾の実情 」


「 伊原ゼミ三碓会 」 ( 伊原拡大ゼミ勉強会/自由参加 ) 予告


 日 時:3月9日 ( 日 ) 11時〜17時

 主 題:韓国文化の紹介+大坂の歴史の勉強

 場 所:コリアタウン JR 鶴橋駅中央出口に 11時集合。散策後、昼食 ( キムチ の 壺 ) 石焼き ピビンバ ほか

     班家食工房会議室で勉強会 ( コーヒー、お菓子 )

 参加費:3500円/二次会 18時〜 焼肉名月館 会費 5000円

 申込先:北崎雅美 TEL 0742-71-5733


 勉強会 の テーマ: 「 森と木の文明・美と慈悲の文明 」 ( 湿潤農耕文明 )


 貧しい地帯は 生存競争が厳しく、人心は険しく闘争的です。朝鮮半島でも インドシナ半島でも、北方人が温和な南方人を支配します。金大中・盧武鉉政権は、温和な南方人の北方人支配に対する怨念の発露でした。韓国の北方勢力よりなお強い北朝鮮と結託して、韓国の北方勢力に復讐したのです。


 四大文明 ( エジプト・メソポタミア・インダス・ 黄河文明 ) は 全て北方乾燥地帯の畑作牧畜文明、ミルク を 飲み ハター や チーズ を作る 「 動物文明 」 です。彼らは自然を征服・収奪の対象とみて、家畜・奴隷使用→機械使用で収奪しまくり、森を破壊し自然環境を破壊します。英国も アルプス以北の ヨーロッパ も 鬱蒼たる森林地帯だったのに、畑作粗放農業のため禿げ地にしました。ドイツ の 「 黒い森 」 は、禿げ地に植林して造成した人工の森です。アメリカ は ヨーロッパ人入植以来、西進して鬱蒼たる森の 80% 以上を 破壊し、森の民原住民を生活不能にしました。動物も片端から撃ち殺し、七面鳥も野牛も趣味の狩猟で絶滅させました。七面鳥は ヨーロッパ から再輸入してやっと復活させたもの、だから アメリカ の 七面鳥は、元の大きさの 3/4に縮まりました。


 南方湿潤地帯は木と森を大事にする植物文明です。なぜなら、水田の水を確保するには、森を維持育成せねばならぬからです。稲作漁労民 ( 江南→台湾→日本 ) ・芋作漁労民 ( 東南アジア 諸島 ) ・玉蜀黍漁労民 ( 中南米 ) が 「 棲分け 」 で平和共存する森の民です。北方乾燥農業に比べ、家畜を殆ど飼わず、ミルクを飲まず、バターやチーズを作らない農民です。


 これまでの世界史は、動物文明優位の歴史でした。だから戦争と征服が断えなかったのです。21世紀に60億に達し、なお年々 1億づつ殖え続ける人類が死滅しないためには、寛容で異質文明と共存する植物文明が優位に立たねばならない、戦い、奪い、押付ける横暴なアメリカ文明・中国文明をのさばらせてはならない、というのが安田さんの主張です。その主張を学習しましょう。


 参考文献:

 1 ) 拙稿:動物文明から植物文明へ転換しよう/力と闘争より美と慈悲優位に ( 『 産經 』 19.3.24 )

 2 ) 伊東俊太郎 『 比較文明 』 ( 東京大学出版会、1985.10.1/1989.4.25 3刷 )   1800円+税54円

 3 ) 安田喜憲 『 日本よ、森の環境国家たれ 』 ( 中央公論社、2002.3.1 )   1700円+税

 4 ) 安田喜憲 『 文明の環境史観 』 ( 中央公論社、2004.5.10 )  2000円+税

 5 ) 小林道憲・安田喜憲 『 討論・文明のこころを問う 』 ( 麗澤大学出版会、平成15.10.16 ) 1600円+税

 6 ) 小林道憲 『 文明の交流史観──日本文明のなかの世界文明 』 ( ミネルヴァ書房、2006.2.20 )  3500円+税

 7 ) 西岡常一・小原二郎 『 法隆寺を支えた木 』 ( NHKブックス、昭和53.6.20/62.2.10 45刷 )  700円

 8 ) 西岡常一 『 木に学べ──法隆寺・薬師寺の美 』 ( 小学館、1988.3.1/1988.12.20 9刷 ) 1400円

 9 ) 西岡常一 『 木のいのち木のこころ 』 ( 草思社、1993.12.3/1994.2.4 7刷 ) 1400円

 10 ) 田中英道 『 国民の芸術 』 ( 産經新聞社、平成14.10.30 ) 1714円+税

 11 ) 中西輝政 『 国民の文明史 』 ( 産經新聞社、平成15.12.20 ) 1714円+税

 12 ) 川勝平太 『 文化力──日本の底力 』 ( ウェッジ、2006.9.25 )  2400円+税


 一冊だけなら、3 ) か4 ) がお勧め ( 今回の テーマ の 原点 ) 。5 ) 6 ) はその普遍化の試み。その普遍性の供給源が、小林道憲の恩師の伊東俊太郎の著書2 ) です。

 伊東俊太郎は 『 近代科学の源流 』 ( 中央公論社、昭和53.10.25/60.8.20 ) や 『 十二世紀ルネサンス ──西欧世界へのアラビア文明の影響 』 ( 岩波書店、1993.1.22 ) の著述がある科学革命の研究家です。

 2 ) は人類史の五つの文化史的転換点として人類革命 ( 猿から人間への人類誕生 ) →農業革命 ( 栽培・飼育による食糧増産革命 ) →都市革命 ( 余剰農産物による王権・国家機構・文字の誕生 ) →精神革命 ( 体系的思想の輩出 ) →科学革命 ( 17世紀の西欧で、西欧でのみ進行した革命。 「 知は力なり 」 で工業文明を生む ) を挙げ、今や人類は第六の革命期 ( 物と心の調和実現 ) を迎えているとします。


 7 ) 8 ) 9 ) は、宮大工の西岡さんの木造建築に関する蘊蓄が聴ける貴重な著書です。中でも9 ) が面白い。小学校を終えた西岡さんを、お父さんが工業学校建築科にやらそうとしますが、お祖父さんは 「 農学校へ行け 」 。農学校で西岡さんは土の心と植物の心を悟ります。


 10 ) は、日本文化の特徴 「 生活の中に生きる美 」 を世界美術史の中で教えてくれます。11 ) は 縄文と弥生の日本史の ダイナミズムを 説いて見事。12 ) は著者の日本文明論も見事ですが、後半の対談も楽しいです。

 皆さん、学ぶことは実に楽しいですよぉ!