黄文雄 『 近代中国は日本がつくった 』

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紹 介:


  黄文雄 『 近代中国は日本がつくった 』

               ( 光文社、2002.10.30 )  1400円+税


 表紙に説明があります。

  「 日清戦争以降、日本が中国に残した莫大な遺産 」

 序文に曰く、 「 近代中国をつくったのは日本人であり、……日本なしでは中国の近代化は絶対あり得なかった。本書を一読すれば、それが過言でないことが理解できる 」


 目 次:

   第一章 日清戦争の文明史的貢献

   第二章 中国に波及した日本の 「 文明開化 」

   第三章 日本に学んだ清朝末期 「 黄金の十年 」

   第四章 中華民国の建国に奔走した日本人

   第五章 日本の陸士が育てた近代中国軍

   第六章 日本が中国で築いたインフラ──日本人の占領地建設

   第七章 日本が中国にもたらした経済奇跡と遺産

   終 章 文明史から見た大日本帝国の歴史貢献


 以下、注目点をいくつか紹介しますが、要約的言換えをしています。


35頁:日本より中国に大きかった 「 三国干渉 」 の禍

44頁:近代化を失敗させた 「 中体西用 」 思想の傲慢さと愚かさ

59頁:中国も列強も感謝した北清事変下の日本軍


72-73頁:中国人には、残酷な統治者には従順だが、

優しい統治者には増長して歯向かう特性がある。異民族統治に慣れた西洋人は早くからこれを見抜き、容赦ない武力弾圧を加えて中国人を屈服させ、畏敬の念さえ植えつけた。ところが 「 情 」 の民族である日本人にはこれができなかった。

   日本人の大陸政策最大の失敗は、中国人を優しく扱い、自ら墓穴を掘ったことだ。


73頁:中国が誇る紫禁城の宝物を守った日本軍

79頁:ロシヤの野望から清朝を救う

86頁:中華民国は日本留学生が建設した国

92頁:軍事教育から女子教育まで、中国人を迎え入れた日本人の真心


107頁:王暁秋 『 近代中日文化交流史 』 によると、翻訳外国書の内訳は──

1850〜99年 567点中、英国の著作 286点 ( 50.5% ) /日本 86点 ( 15.1% )

1902〜04年 533点中、日本 321点 ( 60.2% ) /英国 57点 ( 10.7% ) /英米佛獨 130点 ( 24.5% )


108頁:譚汝謙編 『 中国訳日本書綜合目録 』

:1896〜1911年に翻訳された日本の著作 958点の内訳

科学 249/技術 243/地歴 238/政治法律 194/語学 133/教育 76/軍事 45/経済 44/哲学 32……

→伊原コメント:五四運動の前に、これだけの文化運動があったのです。


109頁:製紙術と印刷術は中国人が発明したといわれるが、

中国で近代出版業が勃興したのは日本書の翻訳・出版が盛んになってから。

1900.8. 初の留学生が編集・出版した日本語教科書 『 東語正規 』 が中国初の洋紙・両面印刷・洋装丁の本。

1904. 洋装本が中国の書籍・雑誌の主流となる。閲読の速度が高まり、収納も便利。

上海の商務印書館:1897.の創立時から日本の印刷機・活字を輸入、中国一の大出版社へ


112頁:中国の文壇は日本留学生がつくった ( 郭沫若 )

125頁:現代中国語は日本語の単語で成立っている

/ 「 言葉は思想 」 ──中国に文化を伝え続けている日本

133頁:注音符号 ( ボポモフォ ) は、日本の仮名を参考にして作ったもの。

134頁: 「 侵略者 」 と言われながら中国に手を差し伸べ続けた日本

140頁:打算を超越した日本人の 「 支那の覚醒 」 への期待

/日清戦争終結から清朝崩壊までの十数年間は、世界から 「 中国の日本化 」 と称ばれた時代

143頁:中国指導層に民族の陋習を認識させた日本 →捲起った日本視察ブーム

147頁:中国人視察者に夢と希望を与えた日本の発展

152頁:日露戦争の日本の勝利が中国の立憲制度確立を早めた

161頁:日本で学んだ 「 時間の観念 」

・近代社会の時間支配→中国の思想大革命へ ( 現在が過去より重要となる。中国古来の尚古思想に 「 進歩の観念 」 がとって代る )


166頁: 「 文化大革命 」 =日本型教育システムの導入

/伝統的愚民政策を否定した義務教育の導入

 →伊原コメント:ここで、中共の 「 愚民観 」 を想起せざるを得ない。中共の学校制度では、大学の学費は無料 ( 今は有料だが、当初は小遣いまで支給 ) だが、小学校は学費が要った。これは、大学は共産党の後継者養成所であり、庶民はほったらかしだったのである。中共は、人民踏みつけの匪賊集団である。


175頁:川島浪速による中国近代警察の誕生

/紫禁城を列強の略奪から守った日本陸軍通訳官・川島浪速


185頁:中国に近代教育を根付かせたのは日本人教員

/北京大学は日本人が築く/日本人の教育事業を、米国が露骨な妨害 ( 教育面における日本人排斥策 )


196頁:留学生が日本で知った祖国中国の腐敗・弱体

・後進性/梁啓超 「 中国には家族倫理はあっても、社会倫理はない 」


204頁:日本に触発された中国人の 「 軍国民主義 」 と尚武の精神

/中国の常識= 「 好鉄不打釘・好男不当兵 」 /武士が官僚であり知識人であった日本= 「 文武両道 」 /梁啓超は日本の兵隊の入営・除隊における親族友人の歓送迎ぶりを見て、兵士の名誉が中国の科挙合格者に匹敵するのに驚嘆。 『 中国之武士道 』 を著し、 「 尚武の精神こそ立国第一の基礎 」 と説く。中国人が軍人を志願するようになり、辛亥革命へと突進する


214頁:孫文が革命生涯の 1/3 ( 10年 ) を日本で過ごした理由=日

本人同志の庇護・支援と義侠心の厚さ

 →伊原注:革命資金も、今なら 2兆円相当といわれる多額の資金を与えた梅屋庄吉をはじめとして随分手厚く貢献している。


216頁:中国人以上に中国革命に熱心だった日本人

222頁:孫文曰く 「 黄河以北を ロシヤに取られても大したことなし。

日支が提携すれば、シベリヤまで取返せる 」 「 革命の目的は満洲王朝打倒にあり、実現したら満洲は日本に譲り渡す 」

→満洲は、南進する ロシヤに対する防衛拠点として重要であった!


226頁:日本人がお膳立てした中国革命同盟会の結成

228頁:辛亥革命をリードした日本人志士の活躍

/武昌挙兵の黒幕は日本軍人だった/辛亥革命を積極的に支援した黒龍会の壮士/臨時政府樹立後、約法 ( 臨時憲法 ) の起草に当った東大教授


245頁:支那人同志に裏切られた内田良平の 『 支那観 』

( 彼の著書 ) :日本人は支那・支那人・支 那革命に幻想を持ってはならぬ。支那の伝統社会は 「 読書社会 」 「 遊民社会 」 「 普通社会 」 から成る。読書社会は国家人民に一念もなく、遊民社会は略奪・賭博を事とし、普通社会も個人本位で愛国心なし。支那の国民性は 「 詐欺を以て能事となす 」 「 賄賂を以て罪悪とせず 」 「 黄金万能 」 「 不潔を不潔とせず 」 といった 「 劣悪なもの 」 と喝破。


260頁:日本軍を模倣した中国 「 新軍 」 /中国軍を支え

続けた日本人軍事顧問/近代中国軍の創建者・坂西利八郎…… ( 以下、省略 )


286頁: 「 新生活運動 」 ──反日政策下の 「 日本化運動 」

/ 「 反日 」 時代でも消えなかった日本の思想的影響/清末 「 慕日 」 →民国 「 反日 」 「 抗日 」 /留学先も近代化モデルも日本→米国へ/だが、中国の近代国家基盤が日本を模倣し、日本の思想的影響下で構築された以上、その近代化は 「 日本的な欧米化 」 の域を出ず/30年代に、日本留学出身者は 4万人超 ( 当時の数少ないインテリ中の相当な数! ) /南京の中山陵は、明治神宮外苑を模倣/中国を纏めあげたのは、蔣介石の 「 日本精神 」 ……


296頁:中国=有史以来の 「 開発過剰 」 で砂漠化が進行中

/中国を反植民地状態から救出しようとした日満支ブロック構想/雄大だった中国占領地近代化構想/華北における壮大なインフラ建設 「 北支那開発株式会社 」 /中国の資源開発と近代化にかけた日本人の夢と誇り/終戦時に見る日本人職員たちの中国建設の使命観 ( 日本人の事業は、終戦後も接収されるまで、社会秩序の崩壊を横目にしながら、極力現状維持に努めた。これが中国に進出した日本人の誠実である。彼等が中国人の言うように日本の利益だけを考え、略奪が目的だったら、終戦後、職場放棄していた筈。そして中国側に渡す前に、会社財産を奪い合っていた筈。しかし奉公精神に徹していた日本人はそうせず、最後の最後まで中国の発展のため働き続けた。日本人の興亞の使命観が嘘偽りのないものだったことは、これだけ見ても明らか。接収に際しては、財産目録を詳細且つ正確に作り上げ、中国側に手渡した。接収官は、金目のものにしか関心を示さなかったのに ) /慢性資本・技術不足の中国は、日本の満洲国建設や支那事変後の雄大な占領地近代化建設構想を冷静に再評価すべきではないか


316頁:中国に代り中国農民を救った日本/慢性的

食糧不足だった農業国中国/特筆すべきは、山東鉱業など華北の日系炭鉱会社による農村建設事業/破壊する中国人、建設に励む日本人/支那事変中、 「 略奪 」 したのは重慶の支配層/占領地の林業──中国人を救おうとした日本の植林事業/中国人は数千年間、濫伐・盗伐して植林せず/日本人は世界に稀な植林民族/自然に神を見る神道→森を守る/日本人は朝鮮半島でも大々的に植林した ( 日本時代に禿山消滅 ) /中国人=砂漠化・日本人=緑化/閻錫山の山西省で、造林計画は緒についた ( 閻錫山が関東州で満鉄の植林事業を見て、産業振興策の手始めに造林 ) /終戦後、中国人は日本人の植林思想を継承せず→深刻な砂漠化・水害大国化


330頁:中国の医療衛生に対する日本の貢献/伝染病

が猖獗を極める不潔な中国/戦火をものともしなかった中国各地の同仁会病院 ( 日清戦争後、東亜同文会の近衞篤麿・北里柴三郎・岸田吟香らが東亜同文医会を創設し、同仁会を作って病院を経営した ) /戦時下、防疫事業に取組んだ日本人 ( 細菌部隊として名高い 「 七三一部隊 」 は、あくまで防疫・給水が主任務の部隊。そういう部隊が必要だったほど、中国は不潔だった )


337頁:日本軍による鉄道網大建設/匪賊の国では鉄

道建設不能/中国は匪賊国家、山林・湖沼はすべて匪賊が支配/匪賊の鉄道襲撃は日常茶飯事/戦前の中国の列車は、武装警備隊の配備、夜間運行の中止、警戒特別列車の先行隊派遣、偵察隊派遣、鉄道警戒パトロール などの特別手配をしないと運行できず/猛スピードで鉄道建設をした日本軍/日本の協力で成し得た中国鉄道の復興 ( 華北交通株式会社 ) /華北交通は、鉄道運賃を最低限に据置き、貨物運賃はコスト以下。民生安定を最重視したから/抗日ゲリラと水害に立ち向かった命懸けの鉄道運営/日本軍、 「 大東亜鉄道縦貫計画 」 で中国鉄道は一元化


354頁:敗戦で全面否定された日本の 「 新中国建設 」

/人流・物流の発達を促した日本人の中国インフラ建設/日本の資本と技術で、それまで中国人ができなかった近代化建設がようやくできた。→支那事変の中国近現代史への貢献。この日本の文明史的貢献の大きさは、当時の日本人ですら想像を絶した。一つの事業の文明史的意義は、往々、後世になって初めて明らかになる。それが敗戦で日本の 「 過去 」 は全面否定され、あれほど壮大な規模で行われた中国建設に対する貢献は顧みられなくなり、歴史に埋没して今日に到っている。


358頁:列強の支配秩序への挑戦だった共栄圏構想

/日中提携は大東亜共栄圏の中核/支那事変・大東亜戦争で半植民地状態から脱却した中国/日本による中国の経済建設を、日本軍の作戦上の都合と見ていては、当時の歴史の大きなうねりを見落とす。東亜新秩序 ( 日満支共栄圏 ) にしても、大東亜共栄圏にしても、あくまで西欧列強の世界支配への挑戦であった。日本は敗れはしたものの、その遺産は今も息づいている。中国・満洲に残る近代産業のインフラなど、まさしくそれだ。


364頁:中国文化の本質は 「 土匪文化 」

/ 「 万世一系 」 の日本と違い、 「 易姓革命 」 の中国では、有力者による弱体化した政権の奪取が歴史の常態/民国時代の中国は匪賊だらけ/人民公社の廃止で匪賊は復活し、 「 車匪路覇 」 ( 列車やバスを襲撃する強盗団 ) が横行/中国でなぜ内乱が絶えぬか? 戦国時代に韓非子曰く、 「 人多く物少し、故に人々相争う 」 /中国の人生哲学= 「 お前は死ね、俺は生きる 」 ( イ尓死我活 ) /中国は義和団事件以降、カオス状態化し、列強の支援なしに生きられなくなった


370頁:設問=支那事変なく、蔣介石が中共を討

伐していれば、中国は平和・安定・富強の国になれたか?

 当時の中国の経済力・カオス状態をみれば、長期の安定維持は無理。日本軍・南京国民政府 ( 汪兆銘政権 ) の支配下にあった 「 敵区 」 が民衆に歓迎されたのは、重慶軍や匪賊の略奪から解放されたから。それほど中国は乱れに乱れ、国家の体をなしていなかった。


373頁:日本軍が守った財政の安定と経済発展

/日本人は アジアに 「 殖産興業 」 のモデルを示した/日本の実力=台湾・朝鮮・満洲での実績を見よ。満洲の戦後における文化レベル の高さを見よ。支那事変中、中国でも近代産業を興し、発展させた。日本の アジアにおける新社会システムの伝播は、世界史上、特筆に値する/南京政府と重慶政府・延安政府の天国と地獄/日本が戦後中国に残した無数の精神的・物質的遺産/国共が戦後、日本の 「 遺産 」 争奪戦


380頁:日本の 「 遺産 」 で食いつないだ社会主

義中国/敗戦→日本の海外資産は、公的私的とも、殆ど喪失。戦後、米国はマーシャル計画による様々な経済援助でドイツの復興を助けたが、日本にそのような援助なし。にも拘らず、灰塵に帰した戦後の国土で、自力で奇跡的復興を遂げた上、経済大国化を成し遂げたのは、大日本帝国の遺産である経済的基盤があったから/中国の改革開放は、日本の支えがあってのもの/中国の貧窮=百年以上に亙る内戦・叛乱で資源・エネルギーを消耗し尽くしたから/仮に中国が主張する賠償額6000億ドルが妥当なものだとしても、彼等が接収した満洲国の遺産は兆単位に上る。日本人が租界や各都市で営々と築いた膨大な資産だけでもお釣りがくるほどだ。それでありながら、中国は、なおも賠償金代りのつもりでODAを日本に要求し続けている/日本は、経済大国として、中国支援という国際貢献は充分果たしている/中国の内戦は実にむごたらしい。太平天国の乱や回乱での死傷者は、阿片戦争以来の対外戦争の数百倍〜数千倍。対外戦争は、国内の関心を外に向けるので、苛酷な内戦を停止・解消させる効果あり。


394頁:東亜史の歴史秩序と歴史法則/衰亡した中華

世界の転生をもたらす新興民族の歴史的役割/中華世界=内戦で崩壊・異民族の君臨で再生/中国史上、最悪の戦乱状態から秩序を回復させた日本


 失われた大日本帝国の三大貢献:

   ( 1 ) 資本・技術の創出とその海外移転。

   ( 2 ) 医学の普及と衛生環境の改善。

   ( 3 ) 教育・文化施設の普及。

 →伊原コメント: 「 秩序維持 」 、つまり平和と安定が最大の貢献ではないか。


405頁:日本人は中国で何をしたのか/アジアを

新生・転生させた/支那事変=日本が中国内戦のブラックホールに吸い込まれた事件/日本=中国内戦の被害者/文明史から見て、日清戦争以降、百余年来の日中関係の本質は、戦争というより、明治維新に次ぐアジアでの第二の文明開化の波を中国が日本から受けていた事実にある。これが 「 本当の史実 」 である。

( 平成19.10.29記 )