眞の戰犯:FDR - 伊原教授の読書室

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     眞の戰犯:FDR



伊原註:これは、『關西師友』2017年九月號 12〜15頁に掲載した

    「世界の話題」327番目の文章の「讀書會版」です。

    少し手を加へてありますが、表現改善と補足であつて、

    文章の趣旨には手を加へてありませぬ。

    新しい書物が出て、惡魔の如きFDRの正體が明かされつつありますけれども、

    政治的利害や政治的判斷が優先して、學界で無視され續けてゐるのは實にをかしい。

      (「實に」は「まことに」とお讀み下さい。

      (「眞に」と書いても宜しい。

      (最近、國語をまともに讀めぬ無學者が殖えてゐて、

      (これも實に嘆かはしい事態です。

      (日本人が日本人でなくなりつゝあるのですから。

      (戰後、祖父母を家庭から追放したため、

      (由緒ある傳統が子孫に傳はらなくなりました。

      (斯くて無教養な若者が育ち、

      (遂に爺婆まで無知無學の儘歳を重ねる現在に到りました。

      (由緒正しき日本文化を身に附けた人は、例外的少數になりつゝあります)

    現代史は魑魅魍魎の世界かと嘆かはしくなります。

    學者も眞實ではなく、政治的判斷で動いてゐるのでせうか……???







     遂に出たフーヴァーの譯本


 ハーバート・フーヴァー元大統領の千頁近い浩瀚なFDR批判論

 『裏切られた自由』の譯本が到頭出ました。

 渡邊惣樹さんの譯で、草思社からの出版です。

  『裏切られた自由 (上)』 (草思社、平成29/2017.7.19) 8800圓+税

 まだ上巻だけですが、七百頁の大册です。


 伊原註:下巻も續いて出ました。

    『裏切られた自由 (下)』 (草思社、平成29/2017.11.15) 8800圓+税

    井口治夫さんの、こんな本も出てゐます。

    『誤解された大統領:フーヴァーと總合安全保障構想』

     (名古屋大學出版會、平成30/2018.2.28) 5800圓+税

 なほ、フーヴァーの原著は、アマゾンで簡單に手に入ります。


 とてもそんな大册は……と尻込みなさる方も、ご安心あれ。

 要領の良い解説書があります。二册もあります。


 藤井嚴喜・稻村公望・茂木弘道お三方の座談會形式による

 『日米戰爭を起こしたのは誰か:ルーズベルトの罪状・フーバー大統領回顧録を論ず』

 (勉誠出版、平成28年/2016年1月18日)、


 そして、譯者渡邊惣樹さんの

 『誰が第二次大戰を起こしたのか:フーバー大統領『裏切られた自由』を讀み解く』

 (草思社、平成29年/2017年7月19日)、です。


 渡邊惣樹さんのほかの著書(多數あり)や譯書も、

 日米開戰に到る米國側の事情を周到に、しかも興味深く書いてありますから、

 今や私達は、これまで繰し問ふてきた

  「日米はなぜ戰ふ羽目になつたのか」

 に對して、充分行届いた目配りが出來るやうになりました。


 さて今回の文章の重點は、渡邊惣樹さんの書名の通り

 『誰が第二次大戰を起こしたのか』

 に絞ります。

 これによつて問題點が浮び上り、論議が單純明快になるからです。



     ソ聯を育てた反日の政治屋FDR


 結論は簡單で、

 「ルーズベルトとチャーチルの二人がアメリカをこの戰爭に捲込んだ張本人」

 (ハミルトン・フィッシュ『ルーズベルトの開戰責任』草思社、19頁) であり、

 彼ら二人の米英首長が「ソ聯」と「スターリン」を支援して、反共の獨日を叩いたため、

 スターリンのソ聯が、世界の半分を赤化する事態を招いた。


 兩人、とりわけFDRは、聯合國を糾合して國聯を創設し、

 米英ソ華の四國を「四人の警察官」 (拒否權を持つ安保理事會常任理事國) として

 戰後世界を取仕切る考へでした。

 ドイツに占領されたフランスが五番目に入つたのは、ドゴールが頑張つたお蔭です。


 所が、スターリンは米英を「資本家の國」「資本主義の國」と見て信用せず、

 戰後「次の世界大戰」に備へて對抗措置を次々打ち出したため、

 米英は、協調相手である筈のソ聯と對抗せざるを得なくなつたのです(東西冷戰の始り)。


 これは、FDRと米國民主黨政權の、

 「第二次大戰中の戰爭指導」の大失敗を明示する事態なので、

 同盟國離叛による孤立を恐れて真っ青になつた米國は、急遽、

 FDRの「親ソ外交」批判を「歴史修正主義」といふレッテルを貼つて封印し、

 米英が反共と自由擁護の「正統」路線を歩み續けた……かの如く

 「事態を隱蔽する演技を續けて現在に到る」──といふ作り話の“お話”なのです。


 伊原註:米國の學者が書いた各種の「冷戰史」論述をお讀み下さい。

    戰前・戰中の米國の手厚いソ聯支援の事實を曖昧化し、

    ぼろが出ぬやう、捩じ曲げて書いてあります。

    あれで私は米國の學者を信用しなくなりました。


 チャーチルの“鐵のカーテン演説”も、

 ソ聯に中歐・東歐の衛星國をくれてやつた自身の罪惡隱しの演技ですね。


 一擧に結論に飛んでしまひましたが、もう少し順序立てて話しませう。


 先づ、FDRが、サディストと言ひたいほど政敵に容赦のない「政治屋」だつたこと。

 執念深かつたのです。


 伊原註:「執念深さ」は、歴史に殘るやうな「大」政治家の大事な特質です。


 政敵ハミルトン・フィッシュ曰く(上掲書31頁)、

 FDRは終始「政治屋」として生きた男だつたと。

 「政治屋としての能力で彼にかなふ者はゐなかつた。目的達成のためには非情であつた」。

 反ソの獨日をどれだけ“執念深く”追ひ詰めたことか!

 東アジアの安定勢力であつた日本の存在の大事さなど、FDRは全然理解してゐません。


 次に、FDRの親中反日の偏見。

 彼は、廣州の阿片貿易で財産を作つた母方デラノの祖父を尊敬する根つからの親中派です。

 1932年の大統領選擧に當選したあと、

 滿洲國不承認主義を打出したスティムソン國務長官と會見し、その繼承を聲明します。

 これに驚いたブレーンの中核的存在だつたレイモンド・モーリーが

 「不承認主義の誤り」を懇々と指摘したのに對して

 「私は中國に深く同情している。何が何でも私はスティムソンと共に日本を叩くのだ」

 と言ひ返して、モーリーを呆れさせてゐます。


 こんな男が大政治家などである筈はないのに、米國では、結構、信奉者が居る不思議???


 第三に、彼の親ソ容共の立場。

 これは確信犯です。


 よくFDR政權を「共産主義者に浸透されてゐた」と言ひますが、

 受け身ぢやなく、積極的に「採用した」のです。

 だから大統領に就任した1933年の11月に、

 歴代大統領が凍結してきたソ聯承認を斷行してゐます。


 何よりも、武器貸與法でどれだけスターリンを助けたことか!

 また信じ難いことに、第二次大戰中に、

 ドル紙幣印刷用の原版・特殊用紙・特殊インクなど一式を

 モンタナ州グレート・フォールの製造所から

 航空便でソ聯に送つた──といふ話まであることは、

 嘗て本誌平成26年11月號の「操られたルーズベルト」で紹介した通りです。

 この著者カーチス・B・ドールはFDRの女婿(むすめむこ)であり、

 FDRは大統領選擧に出た1932年以來、金融大資本家に操られるやうになつた──

 と書いてゐます。


 ウィルソン大統領同樣、FDRも黒幕に操られてゐたことについては、

 元駐ウクライナ大使の眞淵睦夫さんが

 『世界を操る支配者の正體』(講談社)そのほかで詳述してをられるので、ご參照下さい。

 黒幕論については、

 ヴィクター・ソーン『次の超大國は中國だとロックフェラーが決めた(上下)』(コ間書店)

 が詳しいです。


 FDRの親ソ容共については、

 彼が大統領就任後始めたニューディール政策が、

 まぎれもない社会主義政策であつたことも指摘してをくべきでせう。

 だから、次々と違憲判決を受けるのです。



     FDRの國策失態實に十九回


 フーヴァーは、本書末尾に「FDRが國策を誤つた實例」を列擧してゐます。

 7年の任期中に19回も、です。

 項目は以下の通り──


 1933年の國際經濟會議の破壞

 ソ聯承認

 ミュンヒェン會談(ヴェルサイユ會議の不始末の是正だが、

          (これで獨の東進の道が開けたのだから、

          (そのまま獨ソを衝突させれば良かつた、といふ論)

 英佛のポーランド獨立保障(これで東進する筈のナツィス・ドイツを西進させてしまつた)

 米國の宣戰布告無き戰爭介入始る

 武器貸與法で戰爭に介入した失態

 スターリンとの同盟

 1941年7月の對日經濟制裁(意圖的な對日戰爭挑發)

 同年9月の近衞の和平提案拒否

 日本の三ヶ月の冷却期間設定提案の拒否

 カサブランカ會談で無條件降伏を決定(降伏し難くして徒(いたづら)に戰爭を長引かせた)

 バルト三國と東ポーランドの對ソ讓渡(大西洋憲章違反)

 テヘラン會談で7ヶ國をソ聯衛星國に進呈(大西洋憲章違反)

 ヤルタ秘密協定で衛星國を12に殖やす(大西洋憲章違反)

 日本の1945年5月〜7月の和平提案を拒否

 ポツダムでのトルーマンの失策(ヤルタでの愚策の擴大)

 非道な原爆投下の決定

 中國を毛澤東に獻上

 ──斯くて、第三次大戰の種を世界中にばら撒く。



     FDR外交批判を封印した米國


 これで、第二次大戰を起して莫大な犠牲を生んだ張本人は

 FDR(とチャーチル)であつて、

 局地戰を戰つた日獨でないことが、一目瞭然です。


 裁かるべき戰犯は、彼ら二人だつた筈です。


 所が、彼らの戰爭指導は今なほ讃へられてゐます。──何故?


 FDRの以上の罪状は、フーヴァーが初めて明かにした譯ではありません。

 眞珠灣の被害が餘りに大きかつたため、調査委員會が幾つも作られ審査されましたし、

 チャールズ A.ビーアドの『ローズヴェルトの責任』が 1948年に出て以來、

 FDRの獨善を問ふ聲はひきも切らず出てゐます。


 伊原註:ビーアドのFDR批判の書は次の通り──

       Charles A.Beard, President Roosevelt and the Coming of the War 1941:

           A Study in Appearances and Realities, Copyright, 1948

 序文は、1947年春に書かれてゐます。

 邦訳:開米 潤監譯『ルーズベルトの責任:日米戰爭はなぜ始まつたか (上下)』

  (藤原書店、平成23/2011.12.30/平成24/2012.1.30) 各4200圓+税

  開米 潤編『ビーアド「ルーズベルトの責任」を讀む』

  (藤原書店、平成24/2012.11.30) 2800圓+税


 ──にも拘らず、FDRもチャーチルも「偉大な政治家」として罷り通つてゐるのは、

 本誌前號で書いたやうに、

 東西冷戰が始つて對ソ協調路線が破綻し、

 反ソ反共路線に百八十度轉換せざるを得なくなつた新事態を前に、

 容共の民主黨政權を免責するため、

 FDR米民主黨の親ソ反日獨外交批判を「封印」したからです。


 反ソ反共が基本路線なら、

 反共の砦だつた日獨は褒められて然るべきなのに、

 この封印により、

 「軍國主義」「獨裁」を戰後づつと責められ續けて現在に到ります。

 日本は七十年前の軍國主義が未だ責められ續けてゐますが、

 今軍國主義を實行してゐる北朝鮮・中共は放任された儘です。

 この事態ををかしく感じない現代人の感覺は、奇怪極まります!


 軍國主義や獨裁が惡いのなら、

 スターリンのソ聯や、蔣介石の中華民國が、

 なぜ“自由・民主”の聯合國の一員どころか、手厚い支援まで得たのでせう???


 FDR外交批判の封印・「歴史修正主義」締め出しの獨善から脱却せぬ限り、

 世界の平和も安定も望めません。

(平成29年8月2日/平成30年8月12日加筆)