中共政權の本性を知らぬ紅二代 - 伊原教授の読書室

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    中共政權の本性を知らぬ紅二代


伊原註:これは『關西師友』四月號6-9頁に掲載した「世界の話題」(301)の採録です。

          少し増補してあります。



    中共政權の延命を目指す習近平




  習近平は私には中國共産黨(中共)政權の幕引役になりさうに見えて居ました。

  「賣り家(いへ)と唐樣(からやう)で書く三代目」の悲劇です。


  初代は刻苦勉勵して創業し、二代目は親の苦勞を見て育ち家業を維持するが、

  ぬくぬく育つた三代目は浪費して家を潰す、といふ意味です。

  習近平は必ずしもぬくぬく育つたお坊ちやんではないのですけれども。


  論より證據、ソ聯共産黨(ソ共)は三代目で解體しました。


  初代は建國世代、

  二代目は建國世代末端のスターリンと彼が率ゐる實業學校卒の若手世代、

  三代目は大卒のゴルバチョフ世代。

  ここでソ聯が潰れ、ソ共が解散しました。


  別の見方もあります。

  王朝末期に頽勢挽回のため創業者が定めた祖法の護持を心掛けた

  西太后は政權延命に成功したけれども、

  同じく創業者の盛時に戻さうとしたコ川幕府の大老井伊直弼は

  安政の大獄の彈壓が反撥を生み、討幕を招いて倒れました。


  中共政權の初代は毛澤東・周恩來らの建國世代、

  二代目は、建國世代に屬するケ小平が登用後見した

  胡耀邦・趙紫陽・江澤民・胡錦濤らの若手世代。

  習近平は改革開放路線堅持では二代目ながら、

  毛澤東回歸を目指す點では、

      政權延命に成功する西太后型か、

      反撥から政權崩壞を招く井伊型かが注目されます。


伊原註:ここで私は習近平の狙ひを「毛澤東の正統派」と解してをりますが、

          習近平を「等身大で知る」中國人たちの理解では、

            習近平は、打黒唱紅を實行した薄煕來に反對する點で

          「毛澤東の左派的革命路線からの訣別」を決めてゐる由です。

          「習近平は毛澤東を繼承しない」(下記、136頁)

          その理由は、尊敬する父を失脚させる間違を犯したからです(105頁)。

          習近平が求めている「獨裁」は、

            毛澤東型でなくスターリン型ださうです(同、78頁、79頁)。

            cf.崔虎敏(宇田川敬介譯)『習近平の肖像:スターリン的獨裁者の精神分析』

                              (飛鳥新社、平成27/2015.4.4)  1111圓+税



        崩壞の危機に直面する中共政權




  ソ聯が消滅した1991年は、十月革命後74年、1922年のソ聯成立後からだと69年。


  中共政權成立は1949年ですから、今年で66年目です。

  ソ聯消滅の年までに殘る年數はあと僅か三年しか殘つてゐません。


  最近、習政權登場の舞台裏を見事開明した本が出ました。

  朝日新聞峯村健司記者の『十三億分の一の男』

    (小學館、平成27/2015.3.3,1400圓+税)です。


  秘密主義の中共政權相手によくぞここまで取材したものと感嘆しました。

  習近平は自分の權力構築構想を紅二代の親しい知友に話してゐます(294頁)。


  (1)江澤民を利用して胡錦濤に完全引退さす。

  (2)返す刀で江澤民の力を削ぐ。

  (3)紅二代の仲間と正統派の國造りをする。


  事態は豫定通り進み、

  習近平は今や江澤民も胡錦濤も抑へ込んで絶大な權力を握りました。

  峯村記者は「強大過ぎる習近平」を危ぶんでゐますが、

  「中共政權の本性(ほんしやう)への無知」も危險です。



        權力の正統性を缺く中共政權



  習近平が神聖視する中共政權は、以下の三點で權力の正統性を缺きます。


  第一、誠信なき嘘つき政權。

  科擧が聖人の言葉を立身出世の手段にして王道を掲げながら霸道を實踐して來たやうに、

  「看板に偽りあり」は漢族の體質化してゐます。

  中共政權もどれだけ歴史を僞造してきたことか。

  天安門の虐殺も封印した儘です。


  第二、在野時代にやつた惡逆非道。

  救國のため馳せ參じた青年を片端から肅清で殺した。

  毛澤東はそれら青年の犠牲により權力を握つたのです。


伊原註:1930年代、江西の「中央革命根拠地」で「富田事件」「AB團」の大肅清により、

            毛澤東がいかに冤罪で純真な青年を肅清したかを詳しく調べた本が出ました。

          小林一美『中共革命根拠地ドキュメント』(御茶の水書房、2013.10.20)  13000圓+税

          副題に曰く「1930年代、コミンテルン、毛澤東赤色テロリズム、黨内大肅清」

          600頁を超える大著です。

          著者は、共産革命の誠實さを信ずるが故に、途中で挫折させられた犠牲者に目が

          釘附けになり、「あつてはならぬことが起きた事實」を詳しく調べたのです。

          冤罪で虚しく消えて行つた死者を偲びつつ、著者は「あとがき」で呟きます。

            「人類は滅亡の日まで同じことをやり續けるのではないか、とも思ふ」(641頁)


  元中共黨員が、中共秘密工作の資金源は

        阿片密賣

        贋札造り

        密輸と投機

        強  奪

  の四つだつたと書いてゐます。

    (司馬璐『鬪爭十八年』香港、亞洲出版社、1952年、213頁、

    (矢内茂譯『聖地延安』生活社、1955年、193頁)


  四番目の強奪は、中共のごろつき性を遺憾なく示してゐます(203頁/182~183頁)


  「(ゲリラを養ふ)手つとり早い方法は百姓から食糧を捲擧げることだよ」

「何だと!そんなことをすりや百姓に反感を持たれるぢやないか」

「だからお前は書生だと言ふんだ。ちよつと技巧を弄するのさ。

「例へばゲリラの一部が土匪に化けて略奪する。百姓は驚いて我隊に驅込む。

「よしきたと討伐隊を差向けるが、

「土匪に化けた同志の一隊は獲物を滿載して別の道から御歸還中だ。

「これで百姓共は我々を恨む所か、御苦勞樣と慰勞してくれる」


  第三、建國後も中共政權は人民を養ふ所か、壓政を續け、何千萬人もの餓死者を出しました。

    (1)毛澤東は農民を使つて權力を取りながら、

        大躍進の無謀な經濟政策で數千萬の農民を飢死させた上、文革で無用の混亂を招き、

        肉親や知友を密告させて人倫を踏みにじりました。

        爲政者失格です。


    (2)ケ小平も天安門事件の武力彈壓で、丸腰の人民を殺戮しました。

    (3)江澤民も法輪功の信徒や死刑囚を生體解剖して臟器で外貨を稼ぎ、ぼろ儲けしました。

    (4)利益に目が眩(くら)んで土壤を汚し、河川を汚し、地下水を汚し、空氣を汚し、

        核實驗を重ねて放射能を撒散らし、

        中國の大地を人の居住に適さぬ所にしてしまひました。

        中國は、政府高官が家族を外國に住まはせ、大金を外國に持出し、

        本人も外國に逃出すことを考へてゐる求心力のない國です。

        汚染大氣も汚染水も近隣諸國に流出しますから、近所迷惑甚だしい。

        人民の不滿を日本叩きで逸(そ)らして政權延命を謀る出鱈目な國です。


    (5)「中華民族」として他民族の言語・文化を奪ひ、漢族化する民族淨化政策を推進中です。


  中共政權は力に頼る無法政權ですから、強權支配を強めて來ました。

  軍事費が年々二桁増で殖えて來たこと、

  軍事費のほかに隱し軍事預算があるのは周知の事實ですし、

  司法・公安・武裝警察など人民を取締る政法關係の預算が

  軍事費を上回る巨額に達してゐることも周知のことです。


  人民の離反を恐れて思想言論統制を強化してをり、

  某中國知識人は

  「インターネットヲ使つて外國の最新情報を取り、

  「外國の知友と連絡を取合ふ作業が中國では出來ない。

  「アフリカの小國でよいから外國に移り住まうかと考へてゐる」

  と嘆いてゐました。


  こんな無法貪欲政權の延命のため登場したのが習近平なのです。



        中共は“身を殺して仁を成せ”



  中共がごろつき政權なら、一刻も早い消滅が“仁を成す”所以(ゆゑん)です。

  中共の三大派閥は、

      太子黨(習近平派)、

      共青團派(胡錦濤派)、

      上海派(江澤民派)

  です。太子黨は建國世代の子孫ですが、組織はないので紅二代と稱ばれます。

  ざつと三千人ほどの由(302頁)。

      (四千人説もあります。前記『習近平の肖像』52頁)


  彼等は共青團派も上海派も「成上り者」「余所者」と嫌忌し、

  正統派である自分達で中共政權を守り抜くつもりなのです。

  でも中共の“正體”を知れば、この言分(いひぶん)は通りません。


  峯村記者は、

  「習近平は今や既にケ小平の力を超えた」

  といふ中共政權關係者の話を引用してゐます(292頁)。


  根據は簡單、ケ小平は軍委主席の肩書しかなかつたが、

  習近平は黨・軍・政府の全權を握る上、

  ケ小平が惱んだ頑固保守派のやうな抵抗する敵勢力も居ないからです。


  ここで私が聯想するのは、突進する織田信長を見て、

  「今の儘では高轉びに轉び給ふ筈」

  と評した安國寺惠瓊の評言です。


  權力を一身に集中した上、息繼ぐ間もなく突つ走つたが故の危ふさです。

  余裕が無さ過ぎるのです。


  毛澤東は實權派に握られた黨支配權を奪取するため

  直屬組織「中央文革小組」を創設して全公的機關の上に置きました。


  それに倣ひ習近平は各種の「小組」を創設し、

  自ら組長になつて威令を各界に行亙らせます。


  國家安全委員會主席、

  中央全面深化改革領導小組組長、

  中央軍事委員會國防軍隊改革領導小組組長、

  中央外事工作領導小組組長、

  中央對台工作領導小組組長、

  中央網絡安全信息化領導小組組長、

  中央財經領導小組組長……


  今や全組織全權力が習近平に集中してゐます。

  この集中の異常さも、危ふさの素(もと)です。

  無茶は必ず破綻を來(きた)します。

(平成27/2015.3.5/4.4補筆)