『操られたルーズベルト』 - 伊原教授の読書室

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カーチス・B・ドール著 Curtis B.Dall

馬野周二 譯・解説


    『操られたルーズベルト』

          ──大統領に戰爭を仕掛けさせた者は誰か──


                (プレジデント社、平成 3/1991.10.28)  1650圓+税




伊原註:これは、『關西師友』平成26年/2014年11月號 10-13頁掲載の「世界の話題」297號です。

        増補して載せてあります。

        私は陰謀論に與しません。

        強大な國家權力を以てしてもなかなか思ふやうに國家意思を貫けないのに、

        非公式な勢力や機關がどうして陰謀を貫けようかと考へるからです。

        でも本書が描く「國際金融資本」

              (その實態は英米金融資本、ロンドン の シティ と NY の ウォール街)

        の陰謀は、かなり信憑性があります。

        アングロサクソンの背後に國際金融資本あり、

        それが、少くとも二十世紀の國際關係を牛耳つた、

        米國では、ウィルソン大統領とローズヴェルト大統領がその操り人形だつた、

        といふ本書の説は、

        現代史の研究者なら、耳を傾ける必要があります。


        本書の原著題名は下記の通り:

        F.D.R. My Exploited Father-in-Law, 1982,

            Institute for Historical Review, U.S.A.

        The War Lords of Washington: Secrets of Pearl Harbor: An Interview

            with Col.Curtis B.Dall








        二十世紀は陰謀と流血の世紀?


  フランクリン・デラノ・ローズヴェルトは、米國では偉大な大統領の一人です。

  しかし彼は二つの大罪を犯しました。


  第一、民主主義を踏躪(ふみにじ)つた大統領。

        國民を騙して國民が望まぬ戰爭に引摺り込んだ。


  第二、親ソ容共の立場でソ聯を強國に育てるため合衆國の富を傾けて大貢獻した。


  馬野周二譯・解説の『操られたルーズベルト』といふ本があります。

        (プレジデント社、平成 3/1991.10.28)  1650圓+税


  著者カーティス・B・ドール は FDRの女婿(むすめむこ)です。

  米東部の名門家系に育ち、

  プリンストン大學を出てウォール街で頭角を現したビジネスマン。

  FDRの選擧支援もしてゐて、FDR家の内情に詳しい。


  FDRと親しく接してゐるうちにFDRが「歐米金融資本」に操られてゐることが判り、

  次第にFDRから離れます。

  そしてFDR歿後に、關係者が死に絶えるのを待つて

  「眞相を米國民に傳へる」ため

  本書を書いた──といふのです。


  私は“陰謀史觀”には與(くみ)しませんが、

  本書を讀むと、少くともその一部は本當のことと考へざるを得ません。

  陰謀を考へないと理解できぬ奇怪なことがFDR政權には多過ぎます。


  FDR政權はソ聯スパイの浸透を受けてゐたのではなく、

  浸透させてゐたらしいのです。


  本書には衝撃的な話が次々展開します。


  “世界大不況は歐米の國際金融資本が仕組んだ”


  “國際金融資本が國際主義(國際聯盟・國際聯合)の立場で米國大統領を操り、

  世界中で大儲けしようと企んだ。その手先に使つたのがウィルソンとFDRである”


  “指示の傳授役としてウィルソンにはハウス大佐を、

  FDRにはルイス・ハウとハリー・ホプキンズをあてがつた”


  “ウィルソンに第一次大戰に參戰させ、

  FDRに第二次大戰に參戰させたのは

  共に國際金融資本”


  “國際主義のソ聯を育て、國民主義の日獨を叩いたのは、

  世界中で金儲けを企んだ國際金融資本の陰謀である”

  等々


伊原註:この、國境を無視する革命と金融の“國際主義”が、

        今や 經濟のグローバリズム として

        世界中で荒稼ぎするため

        國境を無視して荒れ狂つてゐることは

        ご存じの通り。


  本書の驚くべき記述の一つが、

  ハリー・ホプキンズが戰爭終結時に

  「軍需物資約六〇億ドル分をソ聯に追加“貸與”させた」

  事實です(190頁)。


  以下、それに續く敘述です(191頁)。



        ソ聯にドル札印刷までさせたFDR


  暴露本『メイジャー・ジョーダン日記』によると、

  ハリー・ホプキンズは

  貴重なウラニウムや重水、大量の銅線、其他數々の重要物資を集め、

  ソ聯に送る手助けをしたといふ。


  更に、ヘンリー・モーゲンソー・ジュニアと

  その盟友ハリー・デクスター・ホワイトの援助を得て、

  我國で通貨印刷に使はれてゐる原版や特殊用紙、特殊インクなども

  航空貨物でソ聯に送つたさうだ。信じ難いことだ。


  この計り知れぬ價値ある原版は、

  モンタナ州グレート・フォールの大規模な製造所から航空便でソ聯に送られた。

  この所謂「軍票」が今までどれほど印刷されたかは議論のしようがない。

  政治上のミステリーだ。

  難問中の難問で、一般のアメリカ國民には到底判らない。


  更に言ふなら、

  我國を初めとする諸國の數多の事務所ビルやホテル、高價な不動産などが、

  この「軍票」と引換へに一體幾つ正體不明の人物の手に渡つたことか?


  くたびれた目立たぬ鞄の中にお金をたんまり隱して、

  或は財布の中に、例へばスイス銀行の口座番號のある多額の信用状を入れて、

  「自分勝手で卑怯な難民」が何人合衆國にやつて來たことだらう。


  アメリカに着くと直ぐ連中は商賣を始め、うまくやつてゐる模樣だ。

  信じ難いことに、

  ホプキンズ = モーゲンソー = ホワイトによる紙幣印刷原版の送附は、

  明かにホワイトハウス高官の承認を受けてのことなのだ。


  これ以上の説明については、以下を引用する (と、まだ引用が續きます)。


  「幽靈資金、合衆國財務省に取憑く」(『アメリカン・マーキュリー』誌 1957年六月號)


  「財務省長官ヘンリー・モーゲンソー・ジュニアは、

  「次官ハリー・デクスター・ホワイト 及び 財務省職員ハロルド・グラッサー と共に、

  「ロシヤ政府に紙幣製造用原版と特殊インク及び特殊用紙を送つた。

  「東ドイツでドルを印刷してロシヤ兵に給與を拂ふためである。

  「このドルのうち何十億ドル分かを難民が合衆國に持込み、事業を始めてゐる。

  「彼らが合衆國に持込んだドルの總額は約 190億ドル、

  「うち 30億ドル が カナダから、

  「18億ドル が スイス銀行を通じて持込まれたと推定される由」


  以上で『操られたルーズベルト』からの引用を終ります。


  この記述の信憑性は、

  例へばジョン・アール・ヘインズ&ハーヴェイ・クレア(中西輝政監譯)

      『ヴェノナ』(PHP研究所、平成22/2010年)

  を參照するだけで、ぐつと眞に迫つてきます。


  ここまでソ聯を支援したFDR民主黨政權、

  そしてFDR政權にさうさせた米國の「國際金融資本」が、

  東西冷戰が始つてからも一向糾彈される節もなく、

  今なほ グローバリズム として活躍中なのは、

  奇怪至極、面妖至極と言ふほかありません。


  馬野周二が監譯した


  E・M・ジョセフソン

  『ルーズベルトが20世紀をダメにした

  ──アメリカがロシヤ革命を援け、第二次大戰も仕掛けた』

  (コ間ブックス、平成3年/1991年)  971圓+税


  といふ本も、上掲本と同年に出てゐます。

  この本の原著は、以下の通り。


  Emanuel M.Josephson,

  The Strange Death of Franklyn D.Roosevelt:

      A History of the Roosevelt-Delano Dynasty,

      America's Royal Family, 1948,

      Emanuel M.Josephson Library



        東西冷戰とは一體何者だつたか?


  戰後生きた者は、戰後暫くして始つた東西冷戰に目を奪はれて、


        “米國がソ聯を手厚く育成した第二次大戰中の歴史”


  を忘れてしまひました。


  歴史學者も國際政治學者も、

        「冷戰がどう始まつたか」

  を問ふばかりで、

  冷戰前に、米國民主黨政權がどれほどソ聯を助けたか、を問ひません。

  怠慢極まりない、と言ひたいです。


  昔から「目明き千人、盲千人」と言ひますが、

  實情は「目明き少々、盲無數」ぢやありませんか?

  識者は人々の蒙を啓く義務があります。

  だから私は『操られたルーズベルト』を紹介してゐるのです。


  私は目下、冷戰を見直さうとして

        ヂョン・ルイス・ギャディス

        『歴史としての冷戰──力と平和の追求』

        (慶應義塾大學出版會、平成16/2004.6.30)  6000圓+税

  を讀んでをりますが、

  實に詳しく周到な記述を追ひつつ、

  肝腎要の所(米國が手厚くソ聯を支援し育てたこと)が

  全く抜け落ちてゐるのが歯がゆくてなりません。

  學界は歴史の盲點を埋めてゐない!



        歴史の舞台裏は奇々怪々!


  歴史とは、過去の出來事の敘述ですが、

  その敘述は或る觀點から出來事を組合せたものです。


  だから通説を一皮めくると別の姿が見え、

  二皮めくるとまた別の樣相が姿を現す。


  東京裁判史觀は、第二次大戰の勝者による意味附けです。

  裁かれた我々は別の歴史を描いて當然です。


  私は敗戰時に舊制中學四年生。

  戰後に大人がいとも簡單に價値觀を變へたのを目撃し、

  「何が正しいのか」について考へさせられ、

  それと共に

        「大東亞戰爭とはどういふ戰爭だつたか」

  をずつと探求して來ました。


  本を讀む度に自分の「無知」を思ひ知らされ、

  もつともつと探求しないと納得できる歴史は書けない

  といふ思ひにつきまとはれました。


  上記したFDR政權の行動を裏附けるには、

  もつともつと知らねばなりませんが、

  假説としてをいて他の史料と讀合せて行くと、

  それなりに眞相らしきものが見えて來ます。


  今、私が實證したい假説は、以下の通り。


  FDR民主黨政權が國民を騙してでも戰爭したがつたのは

  英國を救ふためではなく、

  孤立する共産主義國ソ聯を救ひ、育成するためだつた、

  ドイツばかりか日本まで追詰めて叩いたのは、

  共に反共でソ聯に敵對したからだ──


  レンド・リース法(武器貸與法)は、英國を救ふためよりも、

  ソ聯を支援するための立法であつた。

  その證據に、

  英國からは支援物資の代金を嚴しく取りたてたが、

  ソ聯にはさうしてゐない──


  調べるべきことが一杯あつて、

  それでもぼつぼつと探求を進めてゐる所です。

(平成26/2014.10.5/12.10増補)