謝長廷インタヴュー

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             謝長廷インタヴュー


伊原注:民進党の総統公認候補・謝長廷に対する在台中国人系 ( 野党系 ) マス・メディアのインタヴューです。


「 和解共生・超越省籍 謝:我的聲音 將成民進黨主軸 」 ( 黄雅詩專訪 『 聯合報 』 6.18,4面 ) :

( 謝長廷はいう、和解共生で省籍矛盾を克服する。この私の考えが何れ民進党の主軸になる筈だ )


「 民進党は支持基盤を拡大せねばならない。それには省籍・統独 の イデオロギー を 克服する必要がある 」 。謝長廷は 17日、本紙の インタヴュー を受けてこう述べた。民進党が採るべき路線は一体、深緑路線か、それとも温和な中道路線か。党内では始終この問題で綱引きが行われている。謝長廷は 17日、こう言った。党内で意見は割れるが、 「 成功すればその路線が正しいのだ。私のような声は、党内では総統候補選びの初めからあった。党内で多数の合意があることを示して辛抱強く説得を続ければ、何れ民進党の主軸になるよ 」


認同 就是一起保護台灣 ( 台湾意識とは、一緒に台湾を守ることだ )

 謝長廷が行政院長だったとき、これを表明した。だが間もなく辞任したので実現できなかった。その後、理念を説き損ねたが、これは失敗ではない。 「 私の辞任後、与野党の関係に和諧の兆しがまるでなく、総予算さえ通らない。じっくり野党と協議を続ければ、改善できる筈だ 」 。謝長廷はいう、多くの人が中間有権者に言及するが、その定義は? 必ずしも選挙目当ではない。これまで台湾は統独イデオロや省籍の紛糾の泥沼に陥り、青緑のいがみ合いが続いた。だから今回の総統大選の鍵は、族群認同を確立し、省籍を超越するにある。これは、台湾のような移民社会にとっては頗る重要な段階なのだと。彼はいう、40年代に中国から新移民が台湾に来た。蔣介石の権威主義統治の後遺症により、認同問題が省籍問題と一体化してしまった。だが今や 「 認同とは台湾を保護することだ 」 と提唱すべき時だ。出生地は問題ではないのだ。


 對立 我要讓它快點過去 ( 対立から早いとこ抜け出そう )

 謝長廷はいう、中間有権者とは、本当の中間だけではない。 「 青陣営も含み、民進党の執政を懸念してはみ出てしまった人も入る 」 。これらの人を大きく包み込めと彼はいう。外省人も、その多くが国民党の被害者である。特権に与った者は一握りに過ぎない。選挙だからといって、両極端に分けては拙い。外省豚と罵り、中国へ逃げ帰れなどわめく感情的な言葉は控えよう。民進党が一部の 迫害されたホーロー人の気持に同情するのは当然だが、正義の転換を無限に拡大すれば、却って外省人を国民党の守り神にしてしまうことになる。党内には別の意見があり、 「 私はいつもこう言うんだ。あれこれを直ちにどうこうするとは言わない。だがその昔、● ( 三水偏+章 ) 州人・泉州人・● ( 門+虫 ) 南人のいがみ合いは酷かったが、この対立も、時間をかければ過去のものにできる筈だ。私はそれを早く過去のものにしたいのだ 」


 兩岸 我當選後會更和平 ( 中台関係は、私の総統当選後、もっと平和になる )

 謝長廷はいう、 「 私と馬英九の両岸経済貿易問題での主張の差は大きくない 」 。台湾主権に影響しない大陸資本や観光客の開放など、我々の主張は似ている。 「 違いは、私が両岸の直航は先ず チャーター便からと考えている点だ。これは実行しやすいと思う。ところが馬英九は直航を直接談判するという。だが馬英九のやり方だと直ちに国内線・国際線との衝突問題を惹き起こす。馬英九はその解決策を持っていない 」 「 私が当選すれば、馬英九が当選するより両岸が平和になる。なぜなら、馬英九は両岸政策の具体案がないが、私にはあるからだ 」 。謝長廷は、こう問いかける。馬英九は 「 ミサイル撤去を談判する 」 「 一年以内に直航を実現する 」 という。だが中国は ミサイル を撤去するだろうか? 「 馬英九に訊きたい、大陸についてあれこれ勝手なことをいうが、実現の見込みがあるのか? 私には、政治的空言を弄しているだけと見えるんだが 」


 伊原注:インタヴューした 『 聯合報 』 の黄雅詩記者は、次のような解説記事も載せています。総統選では陳水扁総統のような青緑両陣営の対立を煽るやり方をしない、というのです。


「 謝搶中間選票 顛覆扁式選戰 」 ( 黄雅詩 『 聯合報 』 同上 ) :


1 ) 謝長廷はこのほど、輔選会議でこう発言した。今後、選挙本部は党派を超えた大転換をする。馬英九不支持勢力を取込み、中間票を大幅に獲得するのだと。謝長廷の布石は、来年の大選で民進党を主軸とするが、 「 阿扁式選挙 」 ( 深緑を固め、対立を煽るやり方 ) とは全く別の 「 謝長廷式選挙 」 にすると。


2 ) 陳総統慣用の選挙操作モデル は 先ず泛緑の基盤を固め、西瓜効果 ( 伊原注:弱い候補を捨てて強い方に乗換える動き ) を激発して浅緑の有権者の投票を吸引するやり方だ。


3 ) 謝長廷曰く、深緑は勿論大事だが、馬英九のこれまでの支持率は 7割を超えていて、馬英九に中間票を奪う潜在力があることを示してきた。そこで、謝長廷が伝統的族群動員カード を 切っても、基盤票を守るだけの受身の態勢に堕する。更に台聯の精神的領袖李登輝が台聯を 「 中間左寄り 」 に設定したから、民進党が中間票を取りに行くと台聯と競合する。


4 ) そこで民進党の選挙作戦だが、総統府・行政院・民進党が深緑票を固める。扁はその選挙操作でやってよろしい。謝長廷の選挙本部は別の、党派を超えた中道路線を採る。謝陣営は中間を歩み、馬英九不支持の有権者を取込むのだと。謝陣営がこの方面で説得に努めれば、ある程度の成果が得られるかも知れない。