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魂 を 癒 す 歌
伊原註:私の屬する六甲男聲合唱團がホームページで團員に順繰りにエッセイを書かせました。
私は二度書いたのですが、暫く前、そのエッセイ欄が廢止されました。
消え行くのは惜しいので、ここに再録します。
六甲男聲エッセイ:平成22.2.6執筆
三 つ の 歌
「 仰げば尊し 」 を名歌と認識したのは、映畫 「 ビルマの竪琴 」 を觀て以來のこと。
ご存じ 「 今こそ別れめ、いざさらば 」 が要所要所で繰返し使はれてゐます。
そしてこの歌は、容易に三度下でハーモニーがつけられる。
だから以後、折に觸れて會合で歌ひ、私が三度下を歌つて樂しみました。
1.仰げば尊し、わが師の恩 教の庭にも、早や幾歳。
思へばいと疾し、この年月 今こそ別れめ、いざさらば。
2.互ひに睦みし、日頃の恩 別るる後にも、やよ 忘るな。
身を立て名を擧げ、やよ勵めよ。今こそ別れめ、いざさらば。
3.朝夕慣れにし、學びの窓。螢の燈火、積む白雪。
忘るる間ぞなき、行く年月。今こそ別れめ、いざさらば。
この詞の特徴が二つあります。
( 1 ) 「 別れの歌 」 ではなく、 「 出發の歌 」 であること。
準備を終へて世の中へ出て行くが、今後が人生の本番だぞ、と戒めてゐます。
( 2 ) 生涯學習の歌であること。
今後も學び續け、しつかり世の中に貢献して人から尊敬される立派な人物に
なりなさい、と。
河合榮治郎から理想主義・人格主義に學び、
教養とは自己形成 Selbstentbildung des Menschenであり、
不斷に自己を高める努力であると承知してゐる私には、
これは正に教養の歌であり、生涯學習の歌でした。
そこで、毎年一度開くゼミ卒業生との勉強會で一緒に歌つたあと、言ひました。
「 僕が死んだら、この歌を口ずさみ、僕を偲んでください 」
そして、死ぬ時に、この歌が聞こえて來たらいいな、と思ひました。
ところがその後、Amazing Grace の存在を知ります。
死ぬ時思ひ浮かべるには、この方が相應 ( ふさは ) しい。
1.Amazing grace! How sweet the sound,
That saved a wretch like me!
I once was lost, but now I'm found,
Was blind, but now I see....
2.'Twas grace that taught my heart to fear,
And grace, my fears releaved;
How precious did that grace appear,
The hour I first believed!
3.Through many dangers, Toils and snares,
I have already come;
'Twas grace that brought me safe thus far,
And grace will lead me home....
4.When we'd been there, Ten thousand years,
Bright shining as the sun,
We've no less days, To sing God's praise,
Than when we'd first begun.
5.Amazing grace, How sweet the sound,
That saved a wretch like me,
I once was lost, but now I'm found,
Was blind, but now I see....
ユーチューブで見ると、黒人バリトン歌手 Wintley Phipps が、
これは白人靈歌 White Spiritualだと言つてゐます。
奴隷船を統率してゐた白人司令 ( 英國人 ) が、罪業を感じて、
黒人靈歌の五音音階で歌ひあげた懺悔の歌だと。
そして自らピアノで黒鍵を叩き、
黒人靈歌は“five notes" ( 日本では 「 ヨナ抜き音階 」 と言ひます ) なのだと言つて
二曲ほど彈いてみせたあと、
Amazing Grace の 1番と 4番を實に感動的に歌つて聽かせます。
そこで私は、死ぬ時思ひ浮かべるのはこの方が相應しいと思ふやうになりました。
ですが、もつと相應しい歌が見つかりました。
アルプスの山の娘 「 ハイヂ 」 Heidi の 「 アルムの子守唄 」 です。
ルー、ルル、ル、ル、ル、ルー、……
1.行つておいで 目を閉ぢて 夢の中へ 夢の道へ
可愛い山羊もお寢 ( やす ) み 小屋の中
木靈 ( こだま ) もお寢み 谷の奥で お寢み お寢み
ルー、ルル、ル、ル、ル、ルー、……
2.行つておいで 目を閉ぢて 夢の森へ 夢の丘へ
小鳥も栗鼠 ( りす ) もお眠り 巣の中で
月もお眠り 森の梢 ( こづえ ) で お眠り お眠り
ルー、ルル、ル、ル、ル、ルー、……
ジブリが描くハイヂは實に可愛く、癒 ( いや ) しになります。
( 餘りにも“日本人" 的過ぎますけれども…… )
そしてこの歌 ( 岸田衿子作詞/渡邊岳夫作曲 ) も。
六甲男聲エッセイ:平成22.7.23 執筆
天 使 の 聲
Libera−Going Home
私は時々深夜に、忙しい資料調べの息抜きに you−tube を見ます。
そして最近、天使の聲を發見しました。
天使の聲といふと、誰もがウィーン少年合唱團を思ひ浮かべるでせうが、もつと澄んだ聲です。
何より、愛らしい。特に Josh が 何とも言へぬ愛嬌があつて、見てゐて愉しいです。
この合唱團 Libera は 南ロンドン育ち、お勸めの曲は Going Home です。
you-tube に Libera-Going Home と打込むと、直ぐ出て來ます。
導入部の獨唱者 Joshua Madine ( 愛稱 Josh ) が 獨唱者三人を紹介します。
Ben Philipp ( mini-Ben ) , Thomas Cully ( Tom ) と 彼自身です。
Josh が 導入部の二行を歌ひます。
Going Home, going home, I am going home,
Quiet like, some still day, I am going home
mini-Ben が澄んだ boy soprano で續きを歌ひ、それに Tom が ハーモニー を つけます。
Tom は Caccini の Ave Maria や You were there 其他を堂々獨唱する立派な歌ひ手ですが、
ここではmini-Ben の 伴奏に徹してゐて、表に出ません。
Libera の Going Home には、5:22 ( 5分22秒 ) の Full Version と、
4:55 の 普通版があります。
FullVersion は 歌詞つき、普通版は 歌詞なし です。
Libera の 合唱では、Amazing Grace も お勸めです。
但し、これには Josh も mini-Ben も Tom も 出て來ません。
最後に歌詞をつけて置きます。
これを見ると、いかにも黒人靈歌らしく、
あの世に行くことを憧れてゐる樣子 ( つまり、この世の業苦を早く逃れたい氣持 ) が窺へます。
私達は、極樂のやうな快適な生活が出來る今の日本に生きてゐて良かつたですねえ。
Going Home
Going Home, going home, I am going home,
Quiet like, some still day, I am going home
It's not far, just close by, through an open door,
Work all done, care laid by, never fear no more,
Mother's there expecting me, father's waiting too,
Lots of faces gathered there, all the friends I knew.
I'm just going home.
No more fear, no more pain,
No more stumbling by the way
No more longing for the day
Going to run no more.
Morning star lights the way, restless dreams all gone,
Shadows gone, break of day, real life has begun,
There's no break, there's no end, just living on,
Wide awake, with a smile, going on and on,
Going home, going home, I am going home,
Shadows gone, break of day, real life has begun.
I'm just going home.
( 平成24年 9月11日深夜/再掲 )