馬英九が選挙用に新著を出版

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         馬英九が選挙用に新著を出版



2007. 6.22 民進党、馬英九の新著 『 台湾本土論 』 を批判/中国国民党による弾圧史を糊塗 ( 民主進歩党 ニュースレター ( 日本語判 ) 半月刊No105/2007.6.29, 8-9頁 ) :


1 ) 中国国民党の総統候補馬英九が総統選のため 『 台湾本土について論ずる 』 と題する新刊書を出版した。民進党は、馬氏が台湾本土に関心を持つのを歓迎するが、本書を読むと、残念ながら馬氏は国民党が植民地主義によって台湾を抑圧してきた事実への反省なく、台湾人の血統的起源や identity問題についても、族群矛盾や衝突の観点で見る誤りを犯している。


2 ) 馬氏は台湾史上、原住民が果してきた役割を無視している。彼のいう 「 台湾人 」 は 14世紀に始まる漢族移民だけだが、漢族移民の前に、原住民が数千年、数万年に亙って歴史を刻んできた。また台湾の諺に 「 有唐山公、無唐山● ( 女麼 ) 」 ( 大陸から男は来たが女は来ず ) というように、漢族移民は専ら男であって原住民と混血して子孫を残した。従って台湾人の多くに原住民の血が流れており、原住民の風俗も入っているのだ。原住民を無視した馬英九の 『 台湾論 』 は論外。


3 ) 馬英九は identity問題を族群矛盾や省籍対立問題にすり替えて論じている。そして 台湾史上 7回に亘る移民到来の波があり、その度に衝突があったかのように書いているが、実際は前半の清朝末期までの四回の移民は、相互対立を克服宥和しているのである。また馬英九は戦後国民党の到来を 「 移民 」 というが、台湾定着を目指す 「 移民 」 ではなく、台湾をひんむく 「 植民 」 だった。支配者は外省人中の一部権力層に過ぎず、これを外省人全体と本省人との族群対立とか省籍矛盾とかいうのはおかしい。台湾に定着するか否かの identity問題である。


4 ) 馬英九は中国国民党が台湾に自由を齎したと自画自賛するが、これも誤り。自由はここ百年来、世界の主流理念であり、台湾では基督教会や海外留学生を通じて、中国国民党渡来以前から自由主義が根を下ろしていた。馬英九は また蒋家独裁時代、中国国民党が戒厳令を敷いて言論の自由を圧迫し、台湾人の出版・集会・結社の自由制限してきただけでなく 228事件での虐殺・白色テロ・ブラックリスト による反政府系台湾人入国拒否など、迫害した数々の歴史に全く触れない。


5 ) これに対して民進党は結党以来、族群の平等と調和・相互容認・多元文化の台湾を主張し 実践してきた。2004年には 「 族群の多様性と国家としての一体性 」 決議文 ( 族群決議文 ) を採択している。


6 ) 中国国民党は党大会で馬英九を総統候補に選出する前に、でたらめな 『 台湾本土論 』 によって中国派政党の本性や弾圧の歴史を糊塗しようとしたのか? 民進党は中国国民党に改めて訴えたい。美辞麗句を並べて本質から目を逸らすな。中国国民党は既往の迫害弾圧史を正視し、はっきり謝罪せよ。



 伊原注:これには、次のような批判もあります。



  李筱峰 「 打開馬英九的包裝紙 ( 之一 ) 」 ( 自由廣場 『 自由時報 』 6.24, 15面 ) :

      ( 馬英九の正体を暴露する ( その一 ) )

作者=世新大学教授


1 ) 終極の統一を主張し、台湾独立に反対する馬英九が、このほど新著 『 原郷精神 』 発表会を挙行し、 「 本土の新価値 」 なるものを持出した。本書は馬が近年に書いた16篇の文章を収録したもので、劉銘傳・李友邦・胡適・蒋經國・張我軍の言葉を取上げ、彼らを 「 台湾の模範 」 と持上げている。本書の広告文に曰く、 「 これぞ馬英九が 『 本土論 』 を展開した最初の著書、台湾の原郷精神を具体的に解明したもの。彼が話の展開に用いた三つの主軸── 『 典範 』 『 淬錬 』 『 堅● ( 韋刃 ) 』 ──これで真実の台湾を描き出す。……彼は 『 族群團結 』 『 民主 』 『 理性 』 『 人權 』 を思考の重点とし、これまで台湾のため身を呈して貢献した先賢の歴史から一筋の受継ぐ筋道を取出してみせた 」


2 ) 馬は台湾に生活して半世紀以上も経ってやっと今、初めて 『 本土 ( 台湾 ) 論 』 を書いた。些か遅過ぎるが、彼の本土化は歓迎しよう。でもここでつい、二年前の馬の一言を思出す。彼曰く、今後台湾について話す時は、 「 先ず台湾の歴史と結びつけ、本土と対話する。これで中国が浮かび上がる 」 ( 2005.8.22, 中国国民党大会で表明 ) 。台湾の歴史も 「 本土 」 も、彼には連結と対話の道具 ないし過程に過ぎないのだ。台湾は目的ではなく、中国こそ最終目的なのである。


3 ) だから今回の馬の新著は 明らかに 「 台湾の歴史と結びつけ、本土と対話 」 することの具体的表現なのだ。つまり 終極の目的は中国である。台湾本土は彼の包装に過ぎない。その狙いは 新書発表会の席上、民進党を罵った言葉に顕れている。 「 選挙のため役立つ 」 と。


4 ) 馬英九は新著で シンガポール を 称賛している。だが私の記憶では、シンガポール の前首相 リークアンユー曰く、 「 私は中国人ではない。ケネディ大統領が アイルランド人でないのと同じだ。シンガポールには李・高・楊・林ら中国姓を持つ者が居て一見中国人のようで華語も話すが、中国人ではない。我々が中国人の血統を持つことは否定しないが シンガポール の立場で考え シンガポール の権益を重視する。中国人の立場で中国人の権益のため考えたりはしない 」 。馬英九と シンガポール人は 明らかに違う。馬英九は始終中国人の立場で考える。だから 彼が いかに 「 本土 」 を連発し、 「 開放 」 を叫び、 「 鎖国 」 に反対しようと、彼は中国の枠から飛出せない。


5 ) 台湾主体の国家認同がない限り、いかに 「 本土 」 を叫ぼうと全て嘘。米国人が米国の本土価値発揚を叫びながら米国の独立に反対と言えば、馬鹿か狂人扱いされるだけだ。


6 ) 馬英九は本土を推奨しながら、台湾主体の国家認同がない。だから 彼が伝承せよという 「 台湾の模範 」 に、台湾独立のため中国国民党の銃殺第一号となった陳智雄烈士を取込めない。また台湾独立を主張して焼身自殺した 「 外省 」 子弟鄭南榕を取込めない。当然、中国浙江省出身の知識分子雷震が国号を 「 中華台灣民主國 」 に変えよと主張したことも、絶対馬英九の模範に入れて貰えない。


7 ) 馬英九は法螺を吹きまくり、 「 族群団結 」 「 民主 」 「 理性 」 「 人権 」 が思考重点だという。その説に私は双手を挙げて賛成するが、これらこそ、馬英九が忠誠を誓う蒋家政権に最も欠けていたものではなかったか? 228事件の大虐殺から白色テロ統治まで、台湾母語禁止から高等試験の省籍分離テスト まで、そのどこに 「 族群団結 」 「 民主 」 「 理性 」 「 人権 」 があったか? 最近の 「 台湾人権紀念館 」 建設の必要・独裁者の紀念館を 「 台湾民主紀念館 」 に変える話、これ全て中国国民党の反対に遭ったではないか? 民主化の過程にあるべき正義の転換を、國民黨文化傳播委員會主任楊渡 は 「 放屁 」 ( アホか! ) と 罵ったではないか。馬英九の新著の序文は、台湾主体の国家認同 を 「 アホカ! 」 と 罵る人物が書いているのだ!


8 ) 馬英九は新著発表会の席上、 「 本土の真正の意味内容は開放・実際・包容・勤勉・正直・誠信などを含む 」 と述べた。この言や善し! だが台湾を中国に縛りつけて何が開放か? 台湾の事実上の独立に目を瞑って何が実際か? 過去長期に亘った一党独裁・黨國一体のどこが包容か? 国家資産を盗んで党資産にし、その党資産を売飛ばして何が正直か? 市長特別費を自分の通帳に繰り込んで 「 特別費が公費とは知らなかった 」 と弁解するのが誠信なのか?


9 ) 馬英九の新著についてはまだまだ言いたいことが一杯ある。来週、もう一度書く。

   ( 伊原注: 「 来週 」 の新聞はまだ届いていませんので、これでひとまず終えます )