台灣に外省人なし、外國人あるのみ-伊原教授の読書室

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    台灣に外省人なし、外國人あるのみ



              伊原註:台灣の本土派新聞 『 自由時報 』 7.14附 19面の投書欄 「 自由廣場 」 に

                      載つた投書が面白かつたので譯しました。

                      ご參考までに。

                      1月の左肩複雜骨折のリハビリ ( 週二回 ) と食糧買ひ出しで毎日の

                      やうに出歩き、本は讀んでも執筆するまとまつた時間なく、掲載が

                      疎かになつてをりますが、今後どんどん載せるよう努力します。




投書者:陸念慈 ( 台灣新移民の後裔 )


原  題: 「 台灣没有外省人只有外國人 」

        ( 自由廣場 『 自時 』 7.15,19面 )



  昨日 ( 14日附 ) の貴紙は、二篇の 「 外省人 」 を標題にした讀者の投書を掲載した。


        伊原註:この二篇については、本文末尾に概略を紹介してあります。


  筆者は以下の意見を述べて讀者の參考に供する。


  一、台灣は 「 省 」 ではなく國家である。

      從つて台灣派の友人が大中國の思考樣式を引摺 ( ひきず ) つて誤用し、

      「 本省 」 とか 「 外省 」 の族群區分を使ひ續ければ、

      台灣を 「 中國の一省 」 に貶 ( おとし ) めてしまふことになる。


  二、所謂 「 外省人 」 とは 1949年以後に中國から台灣に來た者及びその後裔を言ふ。

      だが今回 蔡英文が得た 609萬票からすると、

      本土政黨を支持する 「 外省人 」 は絶對少數ではない。

      從つて台灣派の友人が依然としてつひ 「 外省人 」 といふ言葉を族群區分の基準に使ひ續ければ、

      これは同時に 「 同志 」 の間に不必要に間仕切りを作ることになるのではないか。

      それでは台灣の團結を誘ふ 「 台灣共識 」 ( 台灣コンセンサス ) にとり、

      百害あつて一利なしの弊害を齎すことになるではないか。


  三、台灣には實は省籍問題はなく、國家認同 identity 問題しかないのである。

      といふのは、中國國民黨内には

      馬英九・郝龍斌・李慶安……から呉敦義・王金平・林益世……らに到るまで、

      「 本省 」 も 「 外省 」 もゐる。


      彼らに共通する特徴は、中國を認同 identify してゐる點である。

      中國を認同するとは、中國を祖國と認めることにほかならない。


      彼らにとつて台灣は 「 地理的名詞 」 に過ぎず、國家ではない。


      だから本當に區分すべき正しい表現は、

      彼らを 「 在台中國權貴 」 ( 在台中國人貴族 )

      または 「 外國權貴 」 ( 外國人貴族 ) と稱ぶことである。


            伊原註: 「 權貴 」 は 「 特權階級 」 と譯す方が判りやすいかも知れない。


      國民黨の始祖孫文や黨國大老宋教仁らは皆 「 中國 」 を 「 支那 」 と言つた。

      だから最も簡便な方法は、 「 台支權貴 」 ( 台灣の支那人貴族 ) と稱ぶのが名實一致の言ひ方となる。

      一つにはこれで彼らを 「 對岸 」 の 「 中國權貴 」 と區分できる。

      二つには、台灣の國家認同が更に明確になる。


  四、一般人民にとつては、

      中國を認同する者は 「 中國人 」 「 支那人 」 又は 「 外國人 」 であり、

      台灣を認同する者は台灣人である。

      この區分こそ、極めて簡單明瞭であるばかりか、

      台灣で國家認同問題で團結できない理由を明確に示す區分である!




  伊原註: 『 自由時報 』 7.14,17面の 「 自由廣場 」 トップ に、以下の投書二篇が載つてゐる。


      黄招榮 ( 台灣南社社員 ) 「 奇怪耶 外省權貴永遠没罪 」

            「 奇怪なるかな、外省貴族は永遠に罪に問はれることなし 」


      田年豐 ( 嘉義之音電台前台長 ) 「 呉敦義不是外省人 」

            「 呉敦義は外省人ではない 」



  前者 「 奇怪なるかな、外省貴族は永遠に罪に問はれず 」 曰く、


  李慶安は二重國籍であり、文書偽造をした。

  當然、立法委員たる資格は認められぬが、李慶安本人は 「 犯意はなかった 」 と泣いて辯解し、

  辯護士は 「 李慶安の 1億餘元の民意代表收入は勞務所得であつて返濟する必要なし 」

  とこじつけて横領した。


  馬英九は台北市長時代に支給された特別費の半額 17萬元を妻の周美青に與へた。

  汚職そのものだが、法官は無罪を宣告した。


  台灣の司法は、青と緑を別扱ひするばかりか、血統でも別扱ひする。

  司法の對象が 「 外省權貴 」 ( 外省人貴族 ) なら、

  法官は魔術師に變身し、有罪を無罪に變へる。


  青陣營の台灣籍政治人物も、外省權貴の障礙になれば、

  林益世や呉敦義のやうに忽ち司法の追及の的になる。

  なぜなら、主人 ( 外省權貴 ) の目には、台籍人士は永遠に奴才 ( 奴隷 ) に過ぎないからである。



  後者 「 呉敦義は外省人ではない 」 曰く、


  外省人は汚職することなど有り得ない。

  台灣人は汚職することがある。


  林益世も阿扁 ( 陳水扁前總統 ) も台灣人であるからして、汚職することが有り得る。


  ではこの説法からして、呉敦義の汚職は有り得るか?

  それは呉敦義が外省人かどうかを見れば判る。

  外省人なら汚職は有り得ない。外省人でないなら、汚職は有り得る。


  馬英九・郝龍斌・胡志強・朱立倫は外省人だから、汚職は有り得ない。

  彼らは汚職しても高枕で寝てゐられるのだ。


  外省人は汚職が有り得ないばかりか、間違ひも犯さない。


  馬英九は外省人である。

  愛する子分林益世が汚職を犯した。これは台灣人呉伯雄が惡いのだ。


  世の中のことは計り難い。

  石油價格が下落したのは天の配劑、老天爺 ( お天道樣 ) が惡さをしたのだ。


  「 國軍 」 が五星紅旗を掲げる遊漁船を尖閣諸島まで護衛航海した。

  これは台灣人 阿扁の陰謀が害を成した。

  阿扁が8年間總統を務めた間に釣魚臺問題を解決しなかつたのがいけない、

  いや、この8年間に國軍をちやんと訓練しなかつたから、

  國軍は敵と味方が識別できなくなつたのだ、等々。


  では4年前から總統である馬英九に責任はないのか?

  この 「 不可思議 」 なこじつけは、外省人である馬英九が間違ひを犯さぬからなのか?


  千錯萬錯 ( 間違ひだらけ ) なのは、阿扁の間違ひでなければ、李登輝の間違ひなのだ。


平成24年 7月22日記