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陳儀深 「 蔣介石爲什麼生氣 」
( 蔣介石はなぜ怒り狂つたのか? )
( 作者=台灣教授協會會長 )
( 自由廣場 『 自由時報 』 9.10付 15面 )
( 1 ) 『 蔣介石日記 』 は近く台灣で出版されるが、出版時期は決つてゐない。
今年8月、私は機會を得て米國 スタンフォード大學 フーヴァー研究所に行き、
引續き新規公開された 『 蔣介石日記 』 を讀んできた。
前回 ( 2008.8. ) 讀めたのは 1946-1955年分。
今は 1972年まで讀める。
今回讀んだ中から、茲に主な 「 新發見 」 について報告してをきたい。
( 2 ) 先ず、蔣介石が國共内戰に負けて台灣で出直したあと、
日記に米國への恨みつらみが ( 少くとも ) 1972年まで延々と書き連ねてある。
日記では米國を 「 台獨 」 扱ひしてゐる。
例:1950.6.に 朝鮮戰爭が勃發して トルーマン大統領が 台灣地位 ( 未定 ) 聲明を出したあと、
蔣介石 は 6.28 の日記で批判して曰く、
「 トルーマン の 我が台灣の地位・主權無視、我が海空軍を我が大陸領の土匪占領地區に進攻させない
「 との聲明は我方を植民地扱ひするもので、恥晒しの極みだ 」
6.29 の日記に又曰く、
「 米國 アチソン ( 國務長官 ) の 中華民國に對する毒を含んだ恨みは、台灣が共匪に陷落するか、
「 又は台灣民衆を米國に從屬させて、中國政府驅逐を画策するもので、執念深い。
「 蔣介石潰し・中華民國叩き賣り政策は、その最後の切札である 」
( 3 ) 1964年に フランス が 北京と國交を結んだ際、
米國は これを二重承認の契機と見て、繰返し台北側に ( フランス と ) 輕率に斷交するなと忠告した。
だが 蔣介石は この恩着せがましい忠告を峻拒し、その年の年末の總反省録中にこう書留めた。
「 米國は 何ら理由なく我が政府に黙認を押付け、 ( 斷交の ) 意志表明をするなとしつこく迫る。
「 何週間にも亙り爭つた末、我方は 自主的に フランスに對して絶交を宣言した……
「 これは 15年に亙る外交中の一大事であつた 」
又曰く、
「 米國が我方に對して始終採つた侮辱的態度は 到底忍ぶ可らざる程のもので、
「 米國の台灣獨立・我が政府消滅行動は片時も止まなかつた。…… 」
( 4 ) 1972.2.の ニクソン訪中と、ニクソン が周恩來と組んで發出した米中共同コミュニケ に對し、
蔣介石は 2.28 の 日記に こう記す。
「 この共同コミュニケ は ニクソン の 野郎が我が政府叩き賣りの既定方針に從ひ、
「 その武力の下に屈服させようとしたもので、恥知らずにも程がある 」
( 5 ) 米國の外交政策は、
台北を中心とする 「 一中 」 から、北京を中心とする 「 一中 」 に轉換し、
北京政府を積極的に國際社會に參與させて米國がその存在を認めることにほかならず、
その間、米國は 「 二つの中國 」 または 「 一中一台 」 を提唱して
双方を兩立させて収めようと考へた。
但し、定位の改變は顚覆でも壞滅でもないのに、
蔣介石は 「 我が政府の消滅 」 による台灣獨立と思ひ込んだのである。
伊原註:以上の經緯は基本的に既知の事實です。
新しい點は、それを 『 蔣介石日記 』 の文言で實證したことです。
ところで、この投書を紹介したのは、ここに觸れられてゐるトルーマンの聲明を、本文で
確かめて置きたかつたからです。
以下、英文で示します。
この英文は、ホワイトハウスのトルーマン大統領の記録から引用しました。
かうした歴史文獻が、居ながらにして手に入るのは、實に便利な時代になりました。
だからと言つて、誰もが參照してゐる譯ではない。
そこで、投書を讀んだ機會に、再確認してをかうと考へた次第です。
→ 1950.6.27 の Truman の 聲明 ( Truman Library/Public Papers of the Presidents: Harry S.Truman, 173. Statement by the President on the Situation in Korea, June 27, 1950 ) :
In KOREA the Government forces, which were armed to prevent border raids and to preserve internal security, were attacked by invading forces from North Korea. The Security Council of the United Nations called upon the invading troops to cease hostilities and to withdraw to the 38th parallel. This they have not done, but on the contrary have pressed the attack. The Security Council called upon all members of the United Nations to render every assistance to the United Nations in the execution of this resolution. In these circumstaces I have orderedUnited States air and sea forces to give the Korean Government troops cover and support.
The attack upon Korea makes it plain beyond all doubt that communism has passed beyond the use of subversion to conquer indepedent nations and will now use armed invasion and war.It has defied the orders of the Security Council of the United Nations issued to preserve international peace and security. In these circumstaces the occupation of Formosa by Communistforces would be a direct threat to the security of the Pacific area and to United States forces performing their lawful and necessary functions in that area.
Accordingly I have ordered the 7th Fleet to prevent any attack on Formosa. As a corollary of this action I am calling upon the Chinese Government on Formosa to cease all air and sea operations against the mainland. The 7th Fleet will see that this is done. The determination of the future status of Formosa must await the restoration of security in the Pacific, a peace settlement with Japan, or consideration by the United Nations.
I have also directed that United States Forces in the Philippines be strengthened and that military assistance to the Philippine Government be accelerated.
I have similary directed acceleration in the furnishing of military assistance to the forces of France and the Associated States in Indochina and the dispatch of a military mission to provide dose working relations with those forces.
I know that all members of the United Nations will consider carefully the consequences of this latest aggression in Korea in defiance of the Charter of the United Nations. A return to the rule of force in international affairs would have farreaching effects. The United States will continue to uphold the rule of law.
I have instructed Ambassador Austin, as the representative of the United States to the Security Council, to report these steps to the Council.
伊原註:“Formosa" が4度出て來ます。
( 1 ) 朝鮮戰爭が始つたからには、共産軍の台灣占領は、太平洋と米國の安全保障にとつて
直接の脅威となるので、望ましくない。
( 2 ) そこで私 ( トルーマン ) は第七艦隊に命じて台灣攻撃を阻止するよう命じた。
( 3 ) その當然の系として、台灣に在る中國政府 ( 蔣介石政府 ) に本土に對する空海作戰を
止めるよう要請した。
そして、このあと、蔣介石を憤慨させた 「 台灣地位未定論 」 が出て來ます。
( 4 ) 台灣の將來の地位は、次の時期まで待たねばならない。即ち
イ.太平洋の安全保障恢復
ロ. 日本との講和
ハ. 國連の手配
そして、米國の台灣政策は、この地位未定論から基本的に變つてゐません。
しかも、台灣の政權に對する 「 要請 」 から判るやうに、
台灣が米國の 「 占領下にある 」 ( だから米國の要請を聽くほかない )
との暗黙の了解が、 「 地位未定論 」 の前提に 「 嚴然として 」 あります。
この狀況も、基本的に變つてゐません。
( 2010.9.23 )