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李 筱 峰
台獨教授與中國學生對話
( 台灣獨立派の教授と中國から來た學生との對話 )
答覆中生對民主普世價値的疑惑
( 中國學生の 民主主義が普遍的價値であることへの疑問 に答へる )
伊原註:これは、台灣の新聞 『 自由時報 』 の投書欄 「 自由廣場 」 に載つた評論の翻譯です。
( 『 自時 』 7.25,19面 )
作者は、現在は國立台北教育大學台灣文化研究所教授ですが、
長らく高雄の世新大學に務めてゐました。
その古巣の世新大學から招かれて、最近殖ゑた中國からの留學生に講義し
問答した話です。
この問答が行はれたのは五月のことですが、報告文の掲載は最近のことです。
頗る面白く、ここに掲載する次第です。
今年 5月、 私は以前務めてゐた世新大學の招きに應じ、百餘名の中國から來た學生に講義した。
「 大中華民族主義 」 の薫陶が心身の隅々にまで染み込んだこれら中國學生に、
私のやうな台獨教授への抵抗感を持たせぬよう配慮して、
「 台灣人と台灣史に於る南島民族成分 」
といふ話から始めた。
彼らは台灣史に疎いので、具體的な史料を用ひ、
台灣人と台灣史に縁の深い南島民族成分の話をした。
これに彼らは反駁しようがなかつた。
それでも最後に討議に移ると、果然、予測した通り、彼らは統獨問題を持出した。
私ははつきり、台灣が獨立國であらうとする根據は血縁ではなく、
民主主義の價値を重んずるからだと明言したので、
彼らは、 「 民主主義 」 と 「 統獨 」 を論點にした。
以下、紙數が限られてゐるので、双方の問答の要點を記す。
中國學生:民主政治は混亂して秩序なく、國家を不安定にするではないか
私の回答:
1 ) 民主政治の原理はその反對だよ。
民主政治については、次のやうな名言がある。
「 民主政治とは、人の頭を割る代りに、人の頭を數へる遣り方だ 」
あらゆる民主國は、米英獨佛日など どれも 軍事クーデター とは無縁だ。
政權黨の執政が拙ければ、人民は投票で取替へることが出來、政權は平和裡に交替するからだ。
だが專制國ではさうは行かない。
假令 ( たとへ ) 統治者がいかに好勝手に振舞はうと、人民は何も出來ず、我慢するほかない。
政權を取替へるには、軍事クーデター か 武裝革命しかない。
一昔前の中南米の一部の國は かういふ軍事政權が次々入れ替る不安定な状況下にあつた。
2 ) 專制國には一つの聲しかない。全て一黨または一人の思惑で動く。
頗る秩序整然として見えるが、それは表面だけのこと。
民主社會は多元的價値を尊重するから異る意見を許容し、それが慣れぬ者の目には混亂と映る。
民主主義は法治が基盤で、一切を法治で取り仕切る。これが秩序を保つのだ。
3 ) 更に民主社會の公民は 「 自分も他人も尊重する 」 から、秩序が自づから保たれる。
君達は台灣人が捷運 ( 電車 ) に乘る時並ぶのを知つてゐるだらう。
エレヴェーターでは右側に立ち、左側は急ぐ人のために空けてをくこともご存じだらう。
こんな市民の公徳秩序は、多分中國では見られまい。
中國學生:台灣の立法院ではいつも毆り合ひがある。こんな民主政治が歡迎できるか?
( 李筱峰註:これは、中國メディアが偏つた報道をして、彼らを誤解させたのだ )
私の回答:
1 ) 毆り合ひは 民主政治の必然的産物じやないよ。
勿論 ( もちろん ) 、毆り合ひは、どんな社會でも ( 民主國でも專制國でも ) ある。
日本や ドイツ のやうな 民主國の國會でも毆り合ひはある。
だからと言つて、これが民主政治だとは言へない。
そもそも、異常事態と常態を混同してはならない。
但し、立法院でなぜ毆り合ひが生ずるかは、究明してをく必要がある。
民主政治は多數決政治だが、同時に少數意見を尊重する政治でもある。
多數黨が多數で押切つて少數を尊重しない場合、
立法院の少數黨は黙つて押切られる譯に行かなくなる。
中台經濟協力枠組協議 ECFA を審議した時には、反對の民意が 無視されたので、
台灣の立法院で毆り合ひが生じたのだ。
これは、
台灣の民主政治が挑戰 ( 多數が問答無用で押切つて民主政治を踏みにじる危險 ) を受けた
といふ警告なのだ。
2 ) 我々は、民主主義を大事にせねばならない。
民主政治は必ずしも天國を保證しないが、地獄に堕ちることを防いでくれる。
( 伊原註:これは、民主主義=權力の暴走防止裝置 といふ大事な指摘です )
3 ) 台灣は 1996年の總統民選以來、人權組織 Freedom House が 自由な國として、
米英獨佛日と同列に並べてくれてゐる。
だが君達の祖國・中華人民共和國は全く不自由な國として、
ルワンダ・カメルーン並の國に分類されてゐるんだよ。
李登輝・陳水扁が執政して以來、我々は總統府の前で總統を大聲で罵つても、
家に歸つて安心して寝られる。
( 伊原註:蔣介石・蔣經國の蔣家支配時代は、さうではなかつた! )
( 李登輝元總統の 「 台灣人に生れた悲哀 」 を參照せよ )
『 週刊朝日 』 1994.5.6-13號、42-49頁
司馬遼太郎 『 台灣紀行 』 ( 朝日新聞社、1994.11.1, 483-502頁 )
君達は、天安門の前で共産黨を罵つたらどうなるかな?
4 ) 自由のない國と自由な國とが どうして統一できようか?
民主政治一つとつても、我々双方にこれだけの違ひがある。
どうやつて統一するかね?
もし君達が本氣で台灣獨立を望まぬのなら、
中國を民主國にする努力をして台灣の疑惑を減らしてほしい。
諸君、中國の民主化のため 努力できますか?
私がかう言ふと、聴衆は──
微笑する者あり、苦笑するものあり、頷く者あり、眉をしかめる者あり。
中國學生も多元的反應を示すことを、私は目の當りにした。
李 筱 峰
台獨教授與中國學生談統獨
( 台灣獨立派の教授と中國學生の統獨論議 )
( 自由廣場 『 自時 』 8.1,15面 ) :
先週は、世新大學で中國學生相手に講義し、彼らの 「 民主政治 」 に對する疑問に答へた話をした。
今週は、引續き私が彼らの所謂 「 統獨 」 話題にどう答へたかについて話さう。
1 ) 私は先づ、台灣獨立とは血縁思考からではなく、民主主義の價値觀に基くものだと表明し、
こちらから率直に質問した。
「 民主政治の觀念一つだけでも、双方の意見の差がこれほど大きいのに、
「 どうして統一などできますかね? 」 。
2 ) ここで中國學生は、統獨問題から 「 兩岸和平 」 に話題を變へた。
彼ら曰く、 「 台灣の獨立は、兩岸の和平を破壞する! 」
そこで私は反問した。
「 一體、誰が平和を破壞するのかね? 當然、戰爭になるといふんだらう。
「 武力を發動する側が平和を破壞する側だ。
「 君らの中共政權が一千餘發の ミサイル で台灣を脅してゐて、
「 台獨を武力で解決すると脅してゐる。
「 君らが本氣で兩岸和平を考へるなら、武力發動を止めさせてはどうか。
「 武力で脅されてゐる方を和平の破壞者だと難詰するのは おかしいんじやないか? 」
3 ) 中國學生:でも、台獨分子は中國を排斥している。
私の回答:台灣は主權獨立國なんだよ。中華人民共和國と敵對する必要などない。
逆に私は望みたい、台灣と中國の關係は、經濟は互恵、文化は交流、政治は平等でありたいと。
米英關係と同じやうにね。
我々は、中國と台灣は世界で最も友好的な兄弟國でありたいと願つてゐるんだ。
ある中國學生:ところが君ら台獨人士は、我々大陸學生を頗る排斥してゐる。
私:君らが台灣を平等に扱へば、誰も君らを排斥などしない。
見て御覧、私は今日、微笑みながら君らに話してゐるだらう。
私が君らを排斥してゐると思ふかね。
4 ) 當日の討議時間は十分でなかつたので、會場での討論は系統的にやれた譯ではない。
以下は當日の私の論旨の大要である。
5 ) 世界でいかなる双方關係も、解けぬ對立などないと信ずる。
但し意見の違ひを武力で解決しようとするのは下の下策である。
武力は當面の一時的解決しか出來ず、長期に亙つて痼 ( しこり ) を殘すからだ。
君らは台獨と聞いて不愉快だらうが、
我々台灣の多數者も統一と聞いて頗る不愉快なんだ。
だが私は思ふ、統獨とも最終目的ではなく、方法であり過程に過ぎない。
統一のための統一も、獨立のための獨立も無用。
我々が考へるべきは、
台灣も中國も、人民の最大多數の最大幸福をどう追求するかが大事である
といふことだ。
我々は長く古く續いてきた傳統習慣のイデオロ形態で問題を考へる必要などない。
國家の價値は、その大小とは無關係だ。
これまで中國人は、國家は大きい方が良いと考へ、ひたすら大一統を追求してきた。
そして實際の生活内容を置き去りにしてきたのだ。
中國人は unified ばかり考へ、united の 道理を考へない。
もし私が中國の當局者なら、私は台灣の獨立を尊重し、台灣の國連加盟を支援する。
同時に東トルケスタン ( 新疆ウイグル ) と圖博 ( チベット ) の獨立並びに國連加盟を支援する。
これで、中國と台灣・東トルケスタン・圖博は 必ずや頗る緊密な關係を結ぶ筈だ。
中國は國連で一票しか持たぬが、これが忽ち四票になるんだよ!
國連に入つた台灣は、軍事も含めて中國と聯盟を結成してもよい。
この聯盟は 「 一中聯盟 」 と稱してよろしい。
アメリカ人はさぞかし、びつくり仰天するだらうね。
中國が突然これほど開明的になれば、台灣人は獨立など考へないよ。
大急ぎで中國と統一したがるだらうな。
君達、台灣人が統一を恐れる氣持を理解し、台灣人の疑心暗鬼をどう解くかを考へなさい。
中國の立場からして、民主獨立の台灣の存在は、中國の民主化に絶對役立つ筈だと思ふがね。
5 ) 講演を終へたあと、更に何人かの中國學生が個別に私の話を聞きに來た。
意外な出來事:
ある學生が私に、全く同感だと傳へた。
また別の學生はかう言つた。
「 さつき質問した學生は皆、黨國一體の思想の持主ばかりです 」
( 當然、彼の言ふ黨とは中共黨のことである )
私は嬉しくてたまらなかつた。
中國の民主の苗は芽生へる機會が絶無じやないのだ。
それなら、民主獨立の台灣も、自暴自棄に陥る必要はないではないか。