中華文明史入門

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       中華文明史入門


 5月に一週間、台湾へ行きました。台中の静宜大學で 「 日台中の平和共存 」 報告をするためでした ( この報告は、本読書室に掲載済 ) 。

 帰国の日、ホテル で チェックアウト したあと、 「 まだ機内持込みの鞄に入る! 」 と考え、急遽重慶南路に駆けつけて買い求めたのが、袁行霈・嚴文明・張傳璽・樓宇烈主編 『 中華文明史 』 四巻 ( 北京大学出版社、2006.4. 第一版、2006.9. 第二次印刷 ) です。


帰国後、毎日ぼつぼつ読んでいます。まだ全巻1800頁の百余頁読んだだけですが、なかなか面白い。

冒頭に 「 中華文明史総緒論 」 があり、文明史の説明があります。今回はそれを紹介しましょう。


まず、 「 文明は、物質文明・政治文明・精神文明の三側面に分けられる 」 と言います。 「 この三側面は、人類の自然との関係・社会組織方式・心霊世界 ( 思想的・道徳的・審美的 ) に対応するものである 」 と。なるほど。

「 この三側面は密接不可分の関係にある。物質文明は政治文明・精神文明の基礎をなす。政治文明と精神文明は、物質文明の進歩を促進したり阻害したりする 」


また曰く、 「 文明史は、科学技術史・制度史・思想史・文学史・芸術史等々の寄せ集めではない。まして百科全書でもない。それぞれの専門史から離れては成り立たないが、多くの学科の交差と綜合から織りなされる総合的描写である 」 と。


このあと、中華文明史について論じ、世界の四大文明を比較論評し……と続きますが、ここでぜひ紹介しておきたいのは、第四節 「 中華文明史の時期区分 」 です。 「 これまで一般の通史は政治史に偏ってきたが 」 と前置きして、文明が物質文明・政治文明・精神文明を包括するものである限り、総体的考察でなければならず、従って時期区分もこれまでのものとは異なるとして、以下のような分類をします。


第一期:先秦 ( 紀元前2世紀以前 )

   第一段階:先夏

   第二段階:夏商周

第二期:秦漢魏晋南北朝 ( 紀元前2世紀〜7世紀 )

   第一段階:秦漢

   第二段階:魏晋南北朝

第三期:隋唐〜明中葉 ( 紀元7世紀〜16世紀 )

   第一段階:隋唐五代

   第二段階:宋元〜明中葉 ( 正徳末 )

第四期:明中葉〜辛亥革命 ( 紀元16世紀〜20世紀 )

   第一段階:明中葉 ( 嘉靖初 ) 〜鴉片戦争

   第二段階:鴉片戦争〜辛亥革命


第一期は秦の始皇帝のシナ統一以前・先史部分、第二期は統一後ということで判りやすい。問題は第三期以降です。


 第三期は隋唐から明の中葉という括り方をしていますが、江南開発に目をつければ、宋以後で分類する方がすっきりするのではないか? それに、ユーラシア大陸の東西を陸でも海でも繋ぐ世界帝国を建設した元と、海禁令を出して貿易を締め出した明を一括りにできるだろうか?


第三期と第四期を明の中葉で区切ったのは面白い。明らかに、西欧の大航海時代の始りと符節を合せています。明は スペイン が アカプルコから太平洋をはるばる運んだメキシコ銀と、それに匹敵する莫大な銀を産出・輸出した日本銀とで豊かに肥え太り、 「 銀本位国 」 になります。

元が世界初の大貿易帝国をつくってから、世界史は一変したと思うので、上記の時期区分は、私には些か納得し難いものがあります。

まあ、文句は、本文を読んでからいうことにしましょう。


──という訳で、読み手の想像力を刺激する面白い時期区分です。

 今回はこれだけ。読み進んで面白いところがあれば、また紹介します。


( 平成19年6月14日記 )