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伊原註:以下は、 『 關西師友 』 平成22年5月號に掲載した 「 世界の話題 」 ( 245 ) の増補版です。
中共の統戰と鳩山友愛
台灣の中共研究第一人者
1973年以來の付合である敬愛する先輩曽永賢さんから
回顧録を頂きました。
『 從左到右六十年:曽永賢先生訪談録 』 ( 台灣・國史館、2009年12月 )
書名の 「 左から右へ60年 」 といふのは──
戰爭中、曽永賢さんは留學した日本で共産主義者になります。
日本の敗戰後、台灣に歸つて中國共産黨員となり、地下活動に從事するが、
台灣は狹くて地下活動がやりにくい。
結局、當局 ( 調査局 ) が送り込んだ手先に暫く泳がされたあと、一網打盡に捕ります。
國府政權の調査局は 「 夷を以て夷を制す 」 とばかり、捉へた共産黨員を共産黨對策に使ひます。
著者は中共研究に從事させられました。
そして、中共研究の過程で中共の原始文獻を徹底して讀込んだ結果、中共の惡どさに愛想が盡きて自由民主主義者になつた、といふ波瀾萬丈の一代記です。
讀み終へて、これはみつちり紹介せねばと思つてゐたら、
たまたま 『 産經新聞 』 が曽永賢さんをインタヴューして、本書の詳しい紹介記事を載せました ( 4月6〜8日、上中下 ) 。
そこで私は 「 中共の統一戰線工作 」 に論點を絞つて紹介します。
( この原稿は、6日に一氣に書き上げたものです。8日に ( 下 ) が載つたのを確かめて送稿。
( 産經新聞の記事は、送稿後、暫くしてから讀みました )
中共は革命黨です。權力奪取には、特別の戰術が要ります。
それが統一戰線工作です。
統一戰線 ( 以下、統戰と略稱する ) は、武裝鬪爭・黨の建設 ( 革命黨の組織論 ) と並ぶ共産黨の 「 三寶 」 です ( 199頁以下 ) 。
伊原註:この三寶説は 1939.10.4, 毛澤東が 『 共産黨人 』 「 發刊の辭 」 で提起したものです。
統戰を一言でいふと 「 利用矛盾、爭取多數、反對少數、各個撃破 」 です。
( 「 矛盾を利用し、多數を味方にし、反對者を少數にして孤立させ、各個撃破する 」 )
更に丁寧にいふと、四項目になります。
一、主敵 ( 今日の敵 ) と次敵 ( 明日の敵 ) を分け、敵を極小化・味方を極大化して主敵を先づ倒す。
反對しにくい受けの良い言葉で飾つて愚民を騙す。
二、統戰の對象は無限。あらゆる人が對象となる。貴方も、ですよ。
三、手法は兩手策略 ( 兩面策略ともいふ ) :
「 一打一拉 」 ( 一方で叩き、他方で味方に引込む )
「 明打暗拉 」 ( 表で叩き、裏で味方に引込む )
つまり、飴と鞭の使ひ分けです。
「 強面 ( こはもて ) 」 で怖がらせながら支持者は利益で繋ぎ留めます。
四、武鬪と文鬪を併用し、秘かに敵陣深く浸透して敵を中樞から動かす。
鳩山首相の友愛外交?
この共産黨の統戰策略の正反對をやつてゐるのが鳩山首相の友愛外交です。
味方を分裂孤立させて敵に城を明渡すのです。
友愛の名の下に、外國人に利益を及ぼす。
自國領土も自國民も守らないのは、竹島・尖閣諸島・拉致問題でお判りのやうに、自民黨以來の、戰後の我國政府の傳統です。
戰後、我國政府は 「 日本弱體化 」 「 日本没落 」 を狙ふ勢力に深く浸透されてきました。
東京大學を初め、日本の學界・論壇に日本解體論者が犇いてゐます。
だから學校では 「 日本がいかに惡い國であつたか 」 を子供たちに刷り込んでゐます。
日本は戰後、 「 日本の良さ 」 をどんどん喪つて來たのです。
然も、かうして政府が國益を損つても、我が國民はぼやくだけで怒らない。
私は今、元祿時代 ( 1688-1703 ) から昭和の高度成長期 ( 1960年代- 1985年のプラザ合意 ) までの 「 日本人興亡史 」 を構想中です。
この時期に日本人は美と崇高の國實現に勤しみ ( いそ ) 、見事極樂状態 ( 一億總中産階級の飽食状態 ) を實現しました。
我國ほど氣樂安樂に暮らせる國は世界に二つとありません。
( 台灣が極樂に近いかも知れません )
しかし、その代償も大きかつた。
極樂を實現する過程で、清潔・誠實・勤勉・實直・謙虚であつた日本人が變質し、墮落し、分散孤立・不安定化しました。
この極樂實現の根源も、變質墮落の根源も、幕末から明治の初めにありました。
極樂實現の根源は、皇室を中心に四民平等の家族國家を作つたことです。
家族は人間共同體の基本ですから、日本こそ、本當の社會主義國・共産主義國です。
現に、ゴルバチョフが日本に來て、 「 私はこんな國をつくりたかつかのだ 」 と
涙を流して喜んだと傳へられます。
變質墮落の根源は──
( 1 ) 指導者教育を怠つて幕僚教育に偏り、一億總官僚化の弊害を齎したことと、
( 2 ) 外國崇拝が大和心 ( 和魂 ) を見失はせたことです。
そして今、目前にある事態は……
家庭・近隣社會の崩壞 ( 母親が我が子を邪魔者扱ひする! )
農業 ( 食糧自給 ) の崩壞
教育の崩壞 ( 自虐史觀の浸透 )
防衛不在、等々。
今や我國は、人間が腐つて來たやうです。
それなのに、誰も憤慨しない。
呑氣に氣樂に愚にもつかぬテレビを見て何となく過ごしてゐます。
危機感を持つ人は、居ない譯ではないが少數だし、大抵は、ぼやくだけで何もしない……
明治天皇の御製──
敷島の 大和心の雄々しさは ことある時ぞ あらはれにけり
かうあつて欲しいのですが、でも、大和心は滅びて久しいのではないでせうか。
明治の廢佛毀釋、
東京帝大で教へてゐたベルツに
「 日本に歴史はありません、
「 これから ( 西洋に倣つて近代化をして ) 始るのです 」
と答へた學生、
乃木大將の殉死を白眼視した白樺派の西歐崇拝、
それに一段と拍車をかけた戰後デモクラシー……
今こそ 「 和魂漢才 」 「 和魂洋才 」 が必要と思ふのですが、
「 漢才 」 「 洋才 」 を持つ人は 「 和魂 」 の影が薄い人が多いやうです。
そして今の日本は──
誰も彼もが利權にたかる、税金にたかる。
人が見てゐないと惡事に手を染める。
惡事がばれても、頭を下げて颱風一過、あとは野となれ山となれ。
首相からしてこれをやつてゐるのですから。
( 2010.4.8/5.2補筆 )