中共の台灣併呑構想

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伊原註:以下は 『 關西師友 』 三月號に掲載した 「 世界の話題 」 ( 243 ) です。





      中共の台灣併呑構想





          胡錦濤の飴と鞭の兩面政策


  新年早々、台灣の知友から本が届きました。

  袁紅冰 『 台灣大劫難 』 ( 『 台灣の大災難 』 /台灣・星島國際有限公司、09年11月一刷・12月四刷 ) です。


  著者は1952年生れの蒙古族。中共の内蒙古迫害を體驗し、自由で高貴な父祖の記録を目指します。

  北京大學大學院を經て北大で法律を教へました。

  1989年の天安門事件で學生を支援し、あと迫害されて出國、現在濠洲に住む自由人士です。


  彼は中共政權有力者の子弟と親しく、その家族から手に入れた機密文書を基に、中共の台灣併呑計劃を本書で詳しく暴露した、と稱してゐます。


  著者曰く、2008年に陳水扁民進黨土着政權を叩き、馬英九國民黨政權を復權させたのは、中共の對台謀略工作の成果だと。

  米國と組んでスイスの銀行・シンガポール當局から陳水扁一家の海外送金資料を提供させ、腐敗政權と宣傳して政權交代させたのださうです。


  そして馬英九就任 1ヶ月後の2008年 6月、胡錦濤は中共政治局擴大會議を召集し、統一戰線工作による台灣併呑策略を立てたのださうです。


  裏で軍に武力占領を準備させ、表は平和統一工作、といふ遣り方です。

  經濟利益で釣つて靡かす、

  文化交流の名目で社會各層を取込む、

  土着の自立派は分斷各個撃破で潰して無力化する。


          2012年に平和統一實現?


  胡錦濤の台灣平和統一策略の基本は、上記統一戰線工作です。

  宗教界からやくざ組織まで、台灣各界を抱込んでおき、2012年 3月の總統選後、平和統一協議に調印させるといふのです。

  その基本内容は、

「 中華人民共和國政府を中央政府と認め、中華民國憲法・國號・國旗を廢止する 」

です。


  國民黨がこれを澁つたら、軍事占領で解決します。

  國民黨が受入れても野黨が大規模抗議運動に訴へるやうなら、これも武力で押えます。

  萬一、民進黨が總統選で勝てば、文句なく武力統一です。


  但し武力行使は最後の手段、

  台灣各界を懷柔濟なので平和統一できる筈、

  そして秋の中共十八全大會を統一完成祝賀會にして胡錦濤の影響力を殘す。


  馬英九は香港型、つまり 「 一國二體制 」 で五十年間台灣に君臨するつもりですが、胡錦濤は許さない、と袁紅冰は言ひます。


  2012年 3月の次期總統選後、中共直系の手先として台灣社會民主黨を創設して國民黨を監視牽制させ、

  2012年 3月の總統選で台灣社會民主黨政權に變へて、以後、直轄統治するのだ、と。


  中共政權が台灣併呑に固執するのは、

  天安門事件の血の彈壓によつて中共が權力の正統性を喪失したからです。


  ケ小平は 「 南巡講話 」 で金儲けを奬勵して中共政權の強化を圖りましたが、

  この 「 先富論 」 は權力層の腐敗墮落を加速し、益々權力の正統性を失ふ羽目になりました。


  中共政權の腐敗加速過程は、正に台灣の自由民主化過程でした。

  台灣ある限り、中共は自由化民主化を不斷に迫られ、第二、第三の天安門事件の危機に晒されます。

  特權階級支配を維持するには、斷然、政權批判が自由な台灣を潰さねばなりません。


  著者によれば、本書が中共の台灣併呑策略を暴いたので、

  中共の台灣工作窓口機關 「 海峽兩岸關係協會 」 の陳雲林會長は、

  「 これだけ手の内を暴露されてしまつたら、私は今後どうしたらよいか? 」

と嘆いたさうです。


  また、台灣では國共兩黨が聯繋して壓力をかけ、書店に本書を置かせないようにしてゐるさうです。

  ( 伊原註:これについてはその後、 「 その通り 」 といふ説と、 「 そんなことはない、簡單に手に入る 」

    といふ説の二つを聞きました。台灣では既に 6萬部ほど賣れているさうです )


  自由・民主・人權の台灣はあと二年で消滅するといふ豫告ですから、

  本書は台灣でさぞかし評判になつてゐると思ひきや、台灣人もメディアも一向騒ぐ樣子はありません。

  台灣の前途は心配無用なのでせうか?

  ( この項目、續く )

( 10.2.1/3.31補記 )