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曹 長青
「 指明台灣前途的兩個文獻 」
「 台灣の前途を明示する二つの文獻 」
( 台灣 『 自由時報 』 12.7,6面 ) :
伊原註:これは、中國の民主運動家、曹長青が台灣の新聞 『 自由時報 』 に寄稿した評論です。
中國に併呑されかけている台灣にとり、また中國の手先にいいやうに操られつつある
我國にも頗る參考になるので、ここに掲載します。
台灣の縣市長選舉 ( 2009.12.5 投開票 ) が終つた。
緑陣營は現有地盤を守つた上、宜蘭縣を奪回した。
中國國民黨はなほ大多數の縣市を握つてゐるが、二縣を落した。
今回の選舉結果は緑陣營に希望を再燃させたばかりか、選舉により一黨獨大状況も必ず改變できることを示した。
その樣相がいかに強大に見えやうと、その勢力がいかに雄厚に見えやうと、改變を望む人民の聲が大勢を制すれば、勢力圖は變るのだ。
緑陣營にとり、來年末には五大直轄市長の選舉があり、もつと大事な次期總統選も控へてゐる。
だが、當選し執政するのは二の次に過ぎない。
肝腎要な大事は、當選後に台灣をどの方向に導くか、緑陣營の原則と理念を何處に置くかなのだ。
馬英九執政後、台灣は政治・經濟・文化方面で全面的に對岸に傾いた。
經濟と軍事で急速に崛起する中國に直面して、台灣は今後どうすべきかについて、緑陣營の少なからざる人物が困惑してゐるやうに見える。
緑陣營の理論は何處にあるのか?
前途を明示する構想や目標はあるのか?
答は明確、當然ある。
台米二國の建國の本
台灣人民が獨立と自由を勝取るには、何よりも先ず米國獨立の歴史が手本となる。
台米とも、外來強權統治から離脱することにより、人の尊嚴と權利を勝取れるからだ。
米國は 獨立により全世界で最も自由で最も繁榮し、その公民に對して最も保護能力を持つ國家になつた。
その實現の基礎を築いた二つの重要文獻がある。
第一、 『 獨立宣言 』 、
第二、 『 米國憲法 』 。
第一の 『 獨立宣言 』 は、中文譯で 2300字だが、二大原則を確立した。
( 1 ) 英國の統治から離脱して米國を獨立國にする。
( 2 ) 人には生命・自由・幸福追求の三大權利がある。
第二の 『 米國憲法 』 は 『 獨立宣言 』 よりずつと長いが、その根幹は二つ、
( 1 ) 政府權力の制限、
( 2 ) 個人の權利の保護。
米國が獨立後、自由世界の旗手になつたのは、この二つの原則理念を實踐したからである。
今日、台灣人の歴史上、同じく二つの重要文獻があって、台灣が今後取るべき方向を明示している。
第一、1964年に彭明敏らが發表した 『 台灣人民自救運動宣言 』 ( 註 ) 、
第二、台灣基督長老教會が 1977.8.16 に 發表した 『 人權宣言 』 。
( 註 ) 原文= 『 台灣青年 』 第62號/1966.1.25,12-16頁
彭明敏 『 自由的滋味 』 ( 李敖出版社、1989.5.15 ) 285-298頁
邦訳= 『 台灣青年 』 上掲 5-11頁。
拙稿 『 台灣の政治改革年表・覺書 ( 1993 ) 』
( 『 帝塚山論集 』 第80號別冊/1994.3.20, 8-14頁 )
彭明敏らの 『 自救宣言 』 は今から45年前に出たものだが、今讀返して古さを感じさせぬばかりか、緑陣營の奮闘方向に對する先見性と指導性が見てとれる。
『 自救宣言 』 は開巻劈頭、きつぱり斷言する。
「 『 一つの中國、一つの台灣 』 は既に確固たる事實である 」 と。
半世紀近く前、蒋介石のあの嚴しい統治の下で彭明敏先生らはかくも勇敢で智慧あり眞實に滿ち、深い理想精神を具へた宣言を打出したのだ。
これに較べて、當時より遙かに緩やかな状況下で民進黨高層の中にこの宣言の精神に呼應してこの方向を明確に認める者が尠いのはどうしたことか。
自救宣言は台灣の方向を明示してゐる。
つまり、その後の陳水扁執政時に唱へた 「 台灣と中國は一邊一國 ( それぞれ一國 ) 」 である。
兩岸關係は民進黨内の妥協派の 「 憲法の一中 」 でもなければ國民黨の 「 一中各表 」 でもない。
二つの別々の國家、一つは中國、一つは台灣なのである。
『 自救宣言 』 中で、曾て國聯代表を務めた國際法の專門家彭明敏先生は、はつきり指摘してゐる。
「 この世界は既に 『 一中・一台 』 の 事實を受入れてゐる 」 と。
四十餘年後の今の現實が、彭明敏の觀察の確かさと眞實を證明してゐる。
今日、西側では、一國の大統領からタクシーの運轉手まで、誰もが 「 中華民國 」 とは何者か知らないが、 「 台灣 」 の存在は明確に承知してゐる。
正に 「 自救宣言 」 がとつくの昔に認めてゐた通り、 「 台灣は實は既に國家 」 なのだ。
國共以外の第三の道
國民黨と共産黨は台灣の前途を取仕切りたがつてゐるが、彭明敏の 『 自救宣言 』 はとつくの昔に別の道を提出してゐた。
「 中國國民黨・中國共産黨のほかに、台灣には第三の道がある。
「 それは自救の道である 」 と。
どう自救するかについて、 『 自救宣言 』 はいふ、
「 共産黨の支配を欲せず、國民黨に潰滅されることも望まぬ人々よ、
「 外來政權の支配を倒し、新しい國家を建てようではないか、
「 新憲法を制定して國聯に加盟しようではないか。
「 人類の尊嚴と個人の自由に實質的意義を具現させようではないか 」
『 自救宣言 』 が確立した原則理念から窺へるのは──
『 自救宣言 』 と米國の 『 獨立宣言 』 が強調する
外來統治の終結、
新國家の樹立、
三大人權の保障など、
精神上の一致點である。
だから 『 自救宣言 』 は台灣が將來、正常な獨立國になるための理論的根據を準備してゐるのである。
高俊明牧師が總幹事だつた時に基督長老教會が 發表した 『 1977年人権宣言 』 は四百餘字の短文だが、三大原則を述べている。
( 1 ) 台灣人は台灣の郷土を 「 上帝から賜つた 」 、これは天賦の人權であり、神聖不可侵である。
( 2 ) 「 台灣の將來は台灣住民が決める 」
( 3 ) 「 台灣を新獨立國にする 」 !
この 『 人權宣言 』 は 『 自救宣言 』 の姉妹篇と言へ、台灣の前途の方向を明示してゐる。
つまり、台灣は中國に屬さず、 「 國共兩黨が台灣の前途を決めてはならない 」 。
台灣は台灣人民にのみ屬し、台灣住民が自決する!
蒋介石の暴政時代に彭明敏・高俊明らが發表したかくの如き志高く、堂々たる、道義ある 『 宣言 』 !
その體現する道徳的勇氣と思想的智慧は、實に今日の緑陣營が、よくよく考へ追隨すべきものである。
とりわけ選舉で選ばれて公職にある者や總統たらんとする者が、よくよく考へ追隨すべきものである。
この二つの文獻が示す台灣の前途の方向は、緑陣營が明確な奮闘目標とすべきものである。
少からざる人が、2012年には總統選がなくなるのではないかと心配してゐる。
だが若し馬政權がそんな厚かましいことをやれば、何が起きるか?
それは、人民に武裝反抗の喇叭を吹き鳴らすに等しい行爲であり、
台灣に正に米國式獨立建國の道を疾驅させる行為である。
これはひよつとして、台灣が新生を獲得する捷徑なのかも知れない。
伊原後記:
私が近く紹介しようとしてゐる下記の書物があります。
袁紅冰 『 台灣大劫難── 2012 不戰而勝台灣 』
( 台灣台北縣、星島國際出版公司、2009.11初版 1刷/2009.12.初版 2刷 ) 360元
書物の題名の意味= 『 台灣の大災難──2012年に ( 中共は ) 戰はずして台灣に勝つ 』
著者は、1952年、内蒙古高原に生れた中國のエリート。
文革で内蒙古は大迫害を蒙り、袁紅冰少年の心に深い傷痕を殘し、必ずや蒙古人民の苦難の歴史を書き記さうと誓ひます。
そして1986年に北京大學大學院を卒業し、北京大學法學研究室責任者となります。
天安門廣場の民主化運動を支援、このあと迫害を受け、軈て出國して、今は濠洲在住。
袁紅冰は北京の要人の子弟と親しく、その家族を通じて下記の機密文書を入手しました。
2008.6. 中共中央は政治局擴大會議を開き、 「 台灣問題解決 」 につき文書を三つ作成した。
「 台灣問題を解決する政治戰略 」
「 台灣に對する軍事鬪爭準備の豫備案 」
「 台灣を統一する政治法律處置豫備案 」
詳しい紹介はあとにして、今、曹長青の文章の最後の部分に關聯してここで書いて置きたいことは、袁紅冰の書物の 213頁にある記述の紹介です。
「 台灣問題を解決する政治戰略 」 の中にある 「 軍事占領 」 の 3状況:
第一、2012年の總統選舉に國民黨が敗選したら、選舉結果公布後、新總統就任までの間に ( 人民解放軍が ) 侵攻占領する。この時期はまだ國民黨が政權を掌握してゐるので、我軍は順調に台灣を解放できよう。
第二、2012年に國民黨が勝選後、背信棄義して 「 台灣問題を解決する政治戰略 」 に規定した方針──中華人民共和國政府を中央政府として承認し、中華民國憲法・國號・國旗を廢止する平和統一協議を承認し調印する──を拒絶したら、軍事鬪爭で台灣問題を解決する。
第三、2012年に國民黨が勝選後、我黨と協議し調印する過程で台灣島内に國家分裂の重大事變が生じたら、我軍は必ず 『 反國家分裂法 』 を根據に出動し、一擧に台灣を占領して動亂を平定する。
曹長青さんは、胡錦濤が飴 ( 經濟で利益を與へて台灣を取込むことを基軸に、文化・社會などに全面浸透して統一戰線工作を進める。實はこれは實施濟で、台灣は半分以上陥落濟です ) と鞭 ( 各種懲罰、最後には對台武力行使 ) で台灣を無力化してゐる状況を、上記評論を書いた段階で想定してゐません。
袁紅冰の上記書物は、11月末發賣のやうですから、12月 5日の選舉直後に書いた上記評論で參照してゐなかつたのは不思議でありません。
曹長青さんは、台灣で發賣された袁紅冰の本を何れ讀むでせうから、 今後、曹長青さんが發表する評論を待ちませう。
袁紅冰の書物が公刊されたことについて、中國の海協會 ( 台灣との交渉機關 ) の陳雲林會長が 「 こんなに我々の手の内をすつかり暴露されては、私は今後どうすればよいか…… 」 と嘆いたさうです。
だから、台灣では、國共兩黨連携して、本書の販賣妨害が行はれてゐるやうです。
「 この本を並べている書店が尠い。なかなか手に入らない 」 と台灣の知人から聞きました。
少くとも、台灣では本書が發賣されて 3ヶ月目に入つてゐるのに、大騒ぎになつてゐる様子はありません。
既に知つてゐるからなのか、既に覺悟の上なのか、それともそんな事態は起きまいとたかを括つてゐるのか……?
( 平成22年1月26日記 )