2009. 7. 5 曹長青 「 宏都拉斯總統爲何被罷黜 」 ( 自由廣場 『 自時 』 7.6,13面 ) :

> コラム > 伊原吉之助教授の読書室


伊原註:台灣の新聞記事を譯していて、面白かつたのでここに掲載します。

    南米ホンジュラスの大統領追放事件に注目した方は尠いでせう。

    でも、これが日本にも關つて來るところが、国際政治の恐ろしさです。

    私達は、日本の前途を考へるには、地球の裏側の事態にも目配りせねばなりません。

    米國大統領と國務長官が 「 社會主義に共感を示してゐる 」 とは!

    ともかくも、ご參考までに。


2009. 7. 5 曹長青 「 宏都拉斯總統爲何被罷黜 」 ( 自由廣場 『 自時 』 7.6,13面 ) :


( 1 ) ホンジュラス の 左派大統領 ホセ・マヌエル・セラヤ Jose Manuel ZELAYA 56が ホンジュラス軍に拘束され コスタリカ に移送されて流亡中といふ事件が國際メディア の注目を浴びてゐる。

  セラヤ の 支持者は、これは軍事クーデター だとして セラヤ の復位を要求してゐる。

  米大陸の34ヶ國から成る 「 米洲機構 」 Organization of American States/OAS のみならず、 米國も 同樣の意思を表明した。

  況して セラヤ支持者の キューバ大統領 ( カストロ の弟 ラウル・カストロ 國家評議會議長 ) 及び ヴェネズエラ の 強人 ウゴ・チャベス Hugo Chabez に於ておや。

  ラウル・カストロ と チャベス が セラヤ の 寫真を取圍んでゐるのを見ると この ホンジュラス大統領が どれほど米洲で左派及び共産主義勢力にとつて貴重な存在かが判明する。

  但し面白いことに 今回、米國は 通例に反して反米の チャベス や キューバ の 元首と 意見が一致した。


( 2 ) 米國大統領 オバマ と 國務長官 ヒラリー・クリントン は 共に セラヤ の復位を支持する意向を表明したが、米國の主流メディアは 同じやうな熱意は示して居ない。

  オバマ 支持で一貫してきた米國の左翼紙 NY タイムズは 論調の違ふ評論を發表して曰く、

  今回の ホンジュラス の災難の主因は セラヤ の 違憲行為の成せる業だと。

  ホンジュラス の 憲法では 「 總統の任期は一期のみ、この規定は如何なる状況下でも變へられない 」 とある。

  ところが セラヤ はもう一期やらうとして憲法改正案を提出し、國會及び最高裁判所の拒絶に遭つた。

  そこで セラヤ は ヴェネズエラ の 左派大統領 チャベス の 遣り方に學び、憲政の縛りを打開するため、國民投票にかけることにした。

  その結果、ホンジュラス の 選舉裁判所・最高裁判所・國會・司法部長・カトリック教會が軒並み反撥し、 セラヤ の 「 違憲 」 を非難した。

  斯くて軍が出動し、セラヤ を 追放したのである。


( 3 ) 米國の中間で左派に偏らない W.ポスト の 論調は更に強烈である。

  署名論評を發表して曰く、軍が罷り出て總統を追放したら、誰しも 「 軍事クーデター 」 と考へる。

  だが ホンジュラス の 状況はさうではない。

  軍隊が權力を繼承せず、國會議長 ミチェレッティ が暫定大統領に就任した。

  總選擧が 豫定通り 9月に 舉行される。憲政體制が何ら變つてゐない、と。

  この評論の題目はかうだ。 「 ホンジュラス の 政變 は セラヤ大統領の間違ひ 」

  つまり セラヤ が 社會主義者を自稱し、ヴェネズエラ の左派大統領 チャベス に 學んで憲法を改正して再任を目論んだことが間違ひだといふのである。

  最高裁判所の違憲判決を受けたあと、支持者と共に投票用紙を保管してゐた軍事基地に突き進み、投票用紙をばら撒かうとした。だから追放されたのだと。

  「 米洲機構 」 が セラヤ を 支持するのは當然のことだと評論はいふ。

  なぜなら、この組織の秘書長は チャベスの 追隨者 poodle に ほかならぬからだ。


( 4 ) 米國の中間右派紙 W.St.Jounal は旗幟鮮明な社説を發表して曰く、

  今回の ホンジュラス の 「 政變 」 なるものは、實はチャベス式暴民依存の統治方式に對する反撥なのだと。

  ホンジュラス軍の セラヤ追放は 最高裁の判決に從つたもので、ホンジュラスの立法・司法の機制は何ら變つていない。

  社説曰く、當然、最善の遣り方は、國會でセラヤ を彈劾して逮捕し、法による處罰に附することだと。


( 5 ) W.St.Jounal の米洲問題專門家 オグレイディ Mary O'Grady はこの評論でいふ、

  セラヤ 現象は ラテンアメリカ の チャベス化・左傾社會主義化を反映するものだと。

  先月、チャベス と セラヤが 連携した。

  1962年に追放された共産 キューバを再び 「 米洲機構 」 に 迎へ入れるつもりなのだ。

  セラヤ 曰く、マルクス・レーニン主義と民主主義は相容れるもの、キューバは民主主義國だと。


( 6 ) 有力紙が輿論に影響を與へたのかも知れないが、

  米國國務省曰く、ホンジュラス軍 の セラヤ大統領追放が法的に見て 「 軍事クーデター 」 かどうか 目下研究中だと。

  オバマ と ヒラリー が セラヤ の復位を支持したのは、彼らが同じように社會主義傾向の立場にあることを示すものである。


  從つて、米國の進める政策が セラヤ と 通ずるものであることを示す。

  そこで オグレイディ は 「 ホンジュラス は自國の民主主義を守った 」 と題した自らの評論で 結論して曰く、

  この事件で オバマ と ヒラリーが民主主義を守らなかつたのは、自分の本性を暴露したものだ、と。