> コラム > 伊原吉之助教授の読書室
伊原註:以下は、 『 産經新聞 』 3. 5 ( 關西版は15面 ) に掲載された私の正論です。
執筆開始は 2月 8日。掲載までに若干の手直しあり。
更に新聞社の要望で、当用漢字・現代假名遣に訂正 ( 新聞社が ) して掲載しました。
ここに掲載するのは、原文の面影を留めたものに、手を加えたものです。
日本生存のための自助努力
伊藤正記者の警告記事
昨年12月26日付 『 産經新聞 』 の 「 緯度經度 」 で 「 發展には軍事力が必要 」 と題して、北京總局の伊藤正記者が中共軍長老遲浩田の 「 戰爭が正に我々に向つてやつて來る 」 といふ講演の論旨を紹介した。
その後、ネットで遲浩田講演の邦譯が2種類流れた。
私は北京語の原文を參照して邦譯に手を加へ、 「 21世紀日亞協會 」 のホームページ 「 コラム 」 にある私の 「 讀書室 」 に掲載した。
原文を参照したい方はそれを見て頂きたい。
伊藤記者が書いてゐるやうに、2005年4月に中共中央軍事委員會擴大會議で行はれた遲浩田講演は、その後日本にも傳つたが、餘りに荒唐無稽と判斷され、無視されて現在に到つた。
それが昨年12月3日、 『 解放軍報 』 が遲浩田の回想記を掲載した後、シナのネットにこの舊講演が流れ、削除されぬ儘なので、さては公認の論かと改めて注目された。
その過激論とは、大要以下の通り──
シナは阿片戰爭以來過去 160年間、發展を列強から抑へられて來た。
我々が發展するには、反撃力が必要である。
だから毛澤東以來、我々は營々と軍備を築いて來た。
今や我國は、台灣・南沙諸島・尖閣諸島の 「 三島 」 を奪取する道理も力も備へた。
これを妨害する者 ( 米日 ) には反撃する。
戰爭は、我々が欲せずとも向ふからやつて來る。
我々は日本を殲滅し、米國の背骨をへし折らぬと發展できない。
過去20年、平和に發展できたのは例外的時期だつたからと考へるべきである。
シナ脅威論が高まつて來た現在、平和發展の時代は終つた。
米日は今後、本氣で中國の發展を抑へにかかる筈だから、中國は戰爭に備へよ──
民主國をなめる中共軍人
共産主義は、19世紀のロシヤのニヒリズム・テロリズムの系譜に連り、必要に應じあらゆる縛りを無視して自分らの構想を實現しようとする。
人民は搾取の對象でしかないシナの傳統的人民觀も受繼いでゐる。
つまりシナは、二重の意味で私達の常識が通らぬ國なのだ。
第一に人倫の基礎を踏みにじる 「 共産 」 思想の面から、
第二に叛亂者が政權を奪つて專制支配する 「 易姓革命 」 の面から。
この二重の意味で、シナは、無法者が横行する地域なのである。
何しろ、 「 民は點燈しても罪になるが、お役人樣は放火しても罪にならぬ 」 お國なのだ。
曾てレーニンは 「 資本家は甘い。資本家を吊すための繩でも喜んで賣つてくれる 」 と嘲笑つた。
彭徳懷も、ちらと手の内を見せた。
第二次大戰後、内戰が始る前の上海で、苗劍秋 ( 張學良の參謀・西安事變を演出 ) にこう語つた。
「 例へばこのコップだが、君ら非共産人士は割らずに手に入れようとする。
「 我々共産人士は、相手に渡るようなら叩き割る覺悟で奪ひ合ふ。
「 結局、コップは無傷で我々の手に入る。
「 少くとも、君らの手には絶對入らない 」
私は苗劍秋の著書 『 中共問題我觀 』 ( 時事新書 ) でこの話を讀んでゐたので、東京 ( だつたと思ふ。ひょっとすると台北だつたかも知れない ) で會つたとき、この話を持出した。
そしたら苗劍秋はこの話を詳しく繰返した上で、こうつけ加へた。
彭徳懷は私にこんな本音を話すやうな正直さがあつたので、毛澤東との闘爭で勝てなかつたのだよ。
共産黨では、正直・率直・お人好しは生き延びられないんだと。
日本の生延び策は?
聞くところによると、中共の軍人は接觸する米國軍人に始終 「 核戰爭するか? 」 と脅すらしい。
自由民主國は核恫喝に弱いとなめてゐるのである。
この種の話は前からあつた。
1995年10月、熊光楷副總參謀長が訪中したチャス・フリーマン前國防次官補に曰く、
「 米國は台北よりロサンゼルスを心配しなさい 」
2005年7月14日に國防大學高級幹部朱成虎少將が香港の外國人記者團と記者会見して曰く、
「 我々は西安以東の全都市の破壞を覺悟してゐるが、米國も當然、西海岸の都市百か二百かそれ以上を破壞される覺悟が要りますな 」
米國が中共軍人から核威嚇で脅されてゐるのなら、核を持たぬ日本はもつと脅されてゐる筈なのに傳はつて來ないのは、日本は一人前と認められてゐないからか?
それとも李鵬が 「 日本など、あと20年もすればなくなつてゐるよ 」 と言つたやうに、日本などどうにでもなると頭から軽視してゐるのか?
シナを 「 普通の國 」 と信ずる人が多い我國では、中共政權が日本人皆殺しを本氣で考へてゐると思ふ人が尠いが、無防備・無策の儘でいいのだらうか?
退役ながら軍部の指導的人物が 「 日本殲滅 」 を公言する國の隣國として、日本はどう對應すべきか。
日本の周圍は核武裝國である。米・露・中・北朝鮮。
米國がシナ軍人から核威嚇を受けてゐるのなら、日本は米國を説得して核武裝に踏切るほかない。
核抑止力は核保有あるのみだからだ。
核武裝などとんでもないと思う人は、中共政権が核恫喝して來たらどうするか、對策を示して貰いたい。まさか 「 屈服するほかない 」 と考えてゐるのではあるまい。
屈服は對策ではない、亡国そのものである。
私の考へる對策とは──
先づ米國から核を持込み、英國式に核發射ボタンを米國と共有する。そして自前の核を急開發する。
原子力潛水艦を建造し、核ミサイルを搭載して常時遊弋さすことも大事である。
核シェルターも各都市に造る。
要するに、核恫喝には断じて屈しない、斷乎日本と日本國民を守るといふ意志表明が要るのだ。
もう一つは、シナの周邊國を友好國にすること。
日米同盟を軸として、海洋アジア・内陸アジア・イスラーム文化圏など。
慈悲と美の文明を擁しつつ、それを犯す力を排除できる實力を備へることが急務である。
自分で自分を守らぬ限り、亡ぶほかないのである。
スマイルズ曰く、 「 天ハ自ラ助クル者ヲ助ク 」
Heaven helps those who help themselves.
日本政府は日本國の生存をどう考へ、どんな對策を打出すつもりか。
マスメディアは、國民を代表してそれを國會議員と政府に問ひ質して頂きたい。