天津市の経済状況の概要

『天津市の経済状況の概要』

(中国を考える5)

天津社会科学院客員講師

天津市外商投資服務中心招商代表

古森崇史

1.北京・天津への出張の感想

9月に約2週間、北京と天津へ出張してきたので、何点か感想を述べたい。


第一に、交通面の充実である。

北京空港に到着して出口を出ると、すぐに北京の中心部への地下鉄が開通されていた。切符もすぐに購入でき、地下鉄にもすぐに乗車できたので、東直門まで、わずか25分位で到着した。以前とは比較にならない程便利になったと感じた。

この他に、北京南駅から天津駅まで、最高時速350kmの高速鉄道が開通した。こちらの方は、切符はすぐに購入できたが、鉄道に乗るまで30分位待った。しかし、たった28分で北京から天津に到着した。北京と天津の一体化が、ますます進んだと強く感じた。なお、片道1,000円位かかるにも関わらず、一等席も二等席も満席であった。

 

第二に、北京の空気が、澄んでいたことである。

いつも、北京空港に着くと、あの独特の匂いと汚染された白い空気に、正直うんざりしていた。筆者は、以前留学していた時、空気の汚染が原因で体調を崩してしまった事もある。

国家が強制的に、自動車のナンバー規制、建設の中止、工場の操業の停止等の措置をとっていたと言う事であるが、ここまで効果が出るものなのかと大変驚いた。10月からは、これらの規制も解除されたので、また元の汚染された空気に戻ると予想されるが、中国における環境問題の深刻さについて改めて考えさせられた。

 

 第三に、中国人が、大変自信を持った事である。

 色々な中国人と話してみて、オリンピック開催を成功させると、ここまで自信がつくものなのかと大変驚いた。北京オリンピックは、3週間にも満たないスポーツの祭典であったが、中国人の心理に及ぼす効果は大変大きかったようだ。

先進国になるには、当然、多くの困難を乗り越えなければならない。日本は、真面目で几帳面な性格の国民が、努力を続け、多くの困難を乗り越え、奇跡と言われる経済成長をし、現在の地位を獲得した。当然のことながら、すべての発展途上国が、日本のような先進国になれるわけではない。

ご存知の通り、現在、中国国内では、環境問題、三農問題、人口問題、失業問題、インフレ、バブル経済の崩壊等、多くの克服しなければならない問題が存在する。また、国外ではアメリカの金融不況を始めとし、世界経済が不況となっており、中国の対外貿易に影響を及ぼすであろう。さらに、2008年から中国における外資系企業を取り巻く外資系企業の環境が激変しており、今後中国における外資系企業の動向の予測も大変難しい。

このように、中国には、克服するべき多くの困難が存在する。しかし、今回のオリンピック開催の成功で、中国人は大変自信を持ったようで、どんな困難も克服が可能で、今後も中国経済の成長は続くと、固く信じているようであった。


 第四に、天津濱海新区に対する期待の大きさである。

 北京オリンピックとパラリンピック終了直後の2008年9月27日から28日まで、天津で夏季ダボス会議が開催され、無事終了した。

天津は、オリンピックの分会場としても成功したのみならず、ダボス会議開催にも成功し、さらに中央政府が、深?と上海に続く「中国第三の極」として発展させようとしているため、大変活気が出てきた。

つい最近まで、「大きな田舎都市」等と揶揄されていたのが、嘘のようである。

2.天津市の経済状況について

 筆者は、2008年8月から、天津市外商投資服務中心の招商代表(企業誘致代表)に任命されたので、天津市の各区の視察、天津市の外資系企業への聞き取り調査等を積極的に行っている。

 そこで、天津市に関する最新の情報を、今回から三回にわたり紹介することにする。

一回目は、天津市の経済状況の概要について、天津市外商投資服務中心の孫剣楠副主任が発表した『天津市の経済発展の総合状況』を翻訳して紹介したい。

二回目は、天津市における外資系企業の動向について、天津市人民政府外商投資弁公室の資料を筆者がまとめ、紹介する。

三回目は、中国経済の第三の極と言われる天津の天津濱海新区の最新情報について、各種資料を筆者がまとめ、紹介する。


           『天津市の経済発展の総合状況』

天津市外商投資服務中心副主任

孫剣楠

 (翻訳)古森崇史

はじめに

35年前、天津市と神戸市は中日間で初めての友好都市となり、中日両国の人民の友好と経済・貿易の交流の最も重要な扉を開きました。そしてこの後、天津は、中国の都市の中で日系企業が最も早くから最も多く投資する中国の都市の一つとなりました。


 1980年代、日本の大塚製薬と中国医薬工業公司が、天津で、合資会社である中国大塚製薬有限公司を成立させ、天津で初めて設立された日系企業となりました。

 1990年代以降、多くの日系企業が、天津で次々と投資を行い、投資ブームが沸き起こりました。TOYOTA、松下、京セラ、NEC、シャープ、三菱商事等といった世界500強の企業に入っている日本の著名な企業も次々と天津で投資を行いました。

2007年12月末までに設立を許可された日系企業は1879社で、直接投資の契約額は、51.6億ドル(実行額は46.6億ドル)です。現在、日系企業の天津への投資量は、世界で第2位です。また、貿易に関しましても、天津にとって、日本は第二のパートナーです。2007年度は、日本と天津間の貿易総額は、11月までで、87億ドル(輸出27億ドル、輸入60億ドル)に達しています。

 

600年以上の歴史を有し、近代の中国において、著名な商工業都市であった天津は、経済を開放する事で、現在急速な発展を遂げており、それにより、再び活気を取り戻しています。

 天津市は、地理的には、環渤海の中心に位置し、北京からは120キロの距離にあり、面積は1.19万kuで、定住人口は1010万人です。中国北方最大の港湾都市であり、また中国の東部沿海において最も早く開港した都市の一つでもあります。

ここには、輝かしい近代中国商工業の発展の歴史があります。中華人民共和国の建国の初期、中国で最初に、テレビ、トラック、腕時計、ミシンといった数十種類の工業品が天津で製造されました。


今日の天津は、濱海新区の開発開放という壮大な戦略、中央政府と国家政策による支持、国際社会の幅広い注目及び天津市全体の絶え間ない努力により、経済社会や都市建設等様々な方面において、新たな段階に入り、日進月歩の変化が起こっています。


以下に、現在の天津市全体の発展状況を5つの方面に分けて紹介したいと思います。


1.GDPの急速な増大

天津は、中国の四大直轄市の一つで、中国北方最大の沿海開放都市です。中央政府は、環渤海区域の経済発展を促進するため、深?経済特区、上海浦東新区に続き、天津濱海新区の開発開放を国家全体の発展戦略の中に取り入れ、濱海新区を全国の総合改革テスト区としました。

 

 ここ数年、天津の経済は急速な成長を続けており、2007年には全市のGDPは5000億元(前年比+15%)を超え、2000年の1.5倍になり、一人当たりのGDPでいえば、6000ドル近くになりました。また、それに伴い、市の財政収入も1200億元を超えました。


 対外開放に関しては、現在までに天津市は、2万件以上の外資系企業の投資項目を許可しました。直接投資の累計額は、契約ベースで700億ドルを超えており、実行ベースでは約370億ドルです。


世界500強の企業のうち、128社が天津で投資を行いました。天津は、中国において、外資系企業の投資回収率が最も高い地区の一つとなっています。


 対外貿易に関しては、2007年度に関しては、11月までで、貿易総額は117億ドル(内訳は、輸出が68億ドル、輸入49億ドル)です。2006年、天津港は中国で4番目に、貿易額の累計が1000億ドルを超えました。


2.優位産業のさらなる発展

@電子情報、A自動車、B冶金、C化学工業、Dバイオテクノロジー・現代医薬、E新エネルギー・環境保全が、天津市の伝統的な六つの優位産業です。これらの産業だけで、天津市における工業生産額の70%を超えています。

現在、天津市における携帯電話の年間生産量は一億台を超え、中国生産量の4分の1を占めています。また、継ぎ目なし鋼管の生産量は中国で最も多く、200万トンを超えています。更に、乗用車は、生産量が40万台を超え、全国の生産量の約10分の1を占めています。

 ここ2年は、国内外の世界レベルの多くの産業の基地が、天津に開設され、それに伴い、大型石油化学、航空等の領域の産業が、新しい優位産業として、盛んになってきています。


(1)大型石油化学産業について

 天津は、既に、国家級の石油化学産業の基地として定められており、現在沿海部に80kuの濱海化学工業区を開設する事を予定しています。

現在既に、世界500強の企業に入っている石油化学等の方面の企業が、100万トンのエチレンや1000万トンの製油等のプロジェクトを建設し始めており、総投資額は、20数項目で1000億元以上です。

多くの中国ならびに外国の多くの投資者が、中国のヒューストン・天津に化学工業発展の未来図を描いています。


(2)航空宇宙産業について

 全世界が注目する投資規模が70億ユーロを超える飛行機の製造基地も、正式に竣工され、2009年には、ここで製造された飛行機が飛び立つ予定です。天津は、アメリカのシアトル、フランスのトゥールーズ、ドイツのハンブルクに続き世界で4番目に大型飛行機の全ての工程の製造を行える都市となりました。

 

天津市の計画では、100kuの現代的な臨空産業区を開設し、国家民航総局によって、中国で唯一の国家民航化学技術産業化基地が竣工される予定です。

このような流れの中で、天津は、世界各国の航空産業の重要な移転先となりつつあります。天津の良好な投資の未来図は、海外から投資を呼び込むだけではなく、今年からは、中遠、中鋼、中国一重等といった国内の多くの国営大企業も、次々と生産基地を天津に移転させます。この他に、物流関係の企業や研究開発基地も天津に次々と設立されています。


(3)造船産業について

2007年6月、中船重工は、天津に華北地区最大の造船所及び船の修理工場を建設する事を決定しました。これにより、天津における1年あたりの造船能力は、300万トンに達する事になります。


3.都市のインフラ整備

近年、天津でインフラ建設が進んでおり、ここ5年間に、天津市の固定資産投資は年平均21%増加しました。年平均の投資規模は1300億元を超えています。具体的には、以下の通りです。


(1)港の建設

 南疆バルク物流センターや北疆コンテナ物流センター等に取り囲まれる形の天津港に、今後30万トン級の原油埠頭、25万トン級の船舶用の水路、多くの10万トン級のコンテナバース等が開設される予定です。今年の、天津港のコンテナ取扱量は、700万TEU (予測)を突破し、中国北方で始めて、運送貨物取扱量が3億トンを超える港になる見込みです。


(2)空港の建設

 天津濱海国際飛行場は、今年30億元を投資し、11万uのターミナルビル及び滑走路を新たに建設する予定です。飛行場の総合的な能力は、国内の大型飛行場の上位になる予定で、2010年前後に天津濱海国際飛行場は、華北地区で2番目に旅客取扱量が1000万人以上の大型飛行場になる予定です。


(3)道路及び橋の建設

・京津都市間軌道交通(北京−天津の交通幹線)

120億元の投資を行い、全長115kmの交通幹線が今年竣工し、来年運行及び営業を開始し、北京と天津の移動時間が30分以下となる予定です。

・高速道路

第二京津塘高速道路が、今年中に開通する事が出来る条件を備える予定です。

・地下鉄

天津では、地下鉄第1号を基礎として、さらに5つの線路を建設中しており、2010年には、線路の累計が130kmに達する予定です。これにより、国内の都市の中ではトップレベルになります。


様々な基礎工事の完成に伴って、交通の流通経路が増加し、大幅に便利になりました。

去年までで、天津港と世界180国と400以上の港が貿易関係で結ばれており、年間商品取扱量は3.1億トンに達し、コンテナ取扱量は710万箱に達し、天津濱海国際飛行場の旅客量は、昨年、1日あたり平均1万人を初めて超えました。


4.総合的な改革

国務院は、天津濱海新区を全国総合改革テスト区とする事を許可し、濱海新区に開発開放という最重要な任務を推進させています。これは新区に対する最大の政策です。

 

2006年9月、天津市は濱海新区総合テスト区全体のプランを制定し、発表しました。主に、9つの方面の内容が盛り込まれており、すぐに国務院の正式な許可を得ました。


2007年から、天津市では(1)金融、(2)科学技術、(3)海外との経済関係、(4)土地及び(5)行政管理体制の5つの方面での改革が進められ、既に一定の成果を収めています。


(1)金融について

・金融改革

2006年1月、全国で初の株式制の商業銀行である渤海銀行が設立され、既に他の地方においても支店等を開設しています。

天津市商業銀行は、天津銀行と名前を変え、多区域における経営許可を取得しました。

総額200億元(第一期の募集が61億元)の渤海産業投資基金とその管理会社は既に成立しました。

このように、金融改革は順調に進んでいます。

・外国為替管理体制の改革

 国家外国為替管理局は、新たに7項目の外国為替管理制度の改革を許可し、天津でまず試験的に改革が行われています。濱海新区は、中国国内において初めて個人の直接対外証券投資業務が許可されたテスト区域です。


(3)海外との経済関係について

 中国の中央政府は、天津において、現在全国で最大の保税港区である東疆保税港区の開設を許可しました。この区域は、将来中国国内において条件、政策、効率、税関の手続き等の面で最も優れていてかつ最も解放された区域となる予定です。


 この他、土地改革、税収改革、科学技術改革等の各方面でも様々な試みがなされています。


5.国際交流の増加

ここ数年、文化や体育の方面での国際交流が急増しています。天津は2008年オリンピックの分会場の一つという役割を担うだけではなく、去年9月に2007年女子サッカーの試合会場になりました。

このために建設された8万人が収容できる天津オリンピックセンターの中には、現代的な体育施設が、次々と竣工されています。


 この他に、我々の積極的な申し立てにより、天津市は2013年の第六回東アジア競技大会の主催権を獲得しました。


全世界が注目するダボスフォーラムも2008年9月に天津で開催され、全世界1000社近くの多国籍企業の代表が、天津に集まります。

 

 天津市の急速な発展は、全世界の注目を集めており、2007年の旅客輸送量は24%増加し、貨物取扱量も31%増加しました。環渤海区域から世界に向けての高級旅行市場を推進するプロジェクトも現在進行中です。


おわりに

中央政府の、天津に対する都市としての最新の位置づけは、「@経済の繁栄、A社会の安定、B科学技術・教育の発達、Cインフラの整備及びD優れた環境が備わっている国際的な湾岸都市を建設し、北方の経済の中心でありながらエコ都市となる事」です。


先日終了した天津市の第9回党大会において、今後5年間の天津の発展に関する素晴らしい未来図が描かれました。天津市は、濱海新区を更に開発開放し、また科学の発展を実現し、それにより調和が取れた社会を実現するために、全国に先駆けて更に発展する予定です。


天津の今後5年の目標は、まず、経済発展をし、一段階上のレベルに到達することです。具体的には、天津市のGDPを8000億元にし、一人当たりのGDPを8000ドルにさせることです。

そして、新しい次元での開発開放を実現し、人民の生活レベルを更に上の段階まで引き上げることで、調和のとれた社会実現の新しい局面を迎え、それにより都市建設も新たな段階に入り、エコ環境もさらに新しい段階に到達する事が目標です。


皆さん、今日の天津は、日に日に魅力が増加し、日に日にビジネスチャンスも増加しています。発展中の天津は、新しい開放ブームを迎えています。この新しい開放の過程は、我々に利益をもたらしてくれるでしょう。そのためにも、手に手をとって、共に発展を目指しましょう、共に輝かしい未来に向かいましょう!


(注)孫副主任の原稿は、2008年1月に作成されたものである。

(2008年10月20日)