天津市における日系企業の現状と展望

≪天津市における日系企業の現状と展望≫

(中国を考える2)

天津社会科学院客員講師 古森崇史


先日、天津市の市内・濱海新区と北京市へ行き、現地の視察や様々な中国人との意見交換等を行ってきた。天津市の変化の大きさ、特に日系企業の急増や商業用施設等の充実には、数ヶ月前まで天津市に長期滞在していた私でさえ驚かされた。そこで今回は、天津市において急増している日系企業の現状と展望について報告したい。


(1)天津市の中国における地位の回復

 天津市は、(一時期を除き)直轄都市の一つとして、長年政治的にも経済的にも中国において一定の影響力を有していたが、1992年の第14期の共産党中央委員会の政治局員に天津市の党委書記が選ばれず、山東省の党委書記等が選出されるという苦い経験を味わった。当時は、対外的にも、広東省や上海市や青島市がある山東省が注目され、天津市はあまりにも地味で、注目されていなかったので仕方ない面もあったのかもしれない。

しかし、現在天津は、深、上海に続く「中国第三の極」として世界中から注目を浴びるようになり、国際的な都市となりつつある。

また、2007年からの第17期の共産党中央委員会の政治局員に、元山東省党委書記で現天津市党委書記の張高麗が選ばれ、山東省の党委書記が政治局員に選ばれていない。この事からも分かるように、現在天津市党委書記にとって山東省党委書記という地位は通過点となった。このように、天津市は中国において、最も重要な都市としての地位を確立した。

 以上のような状況の天津市に対し、日本の企業が注目する事は、当然の趨勢と言えよう。


(2)天津市における日系企業の概要

 1984年から現在の天津市における日系企業の概要は以下の通りである。

1984~1993

@約500社の企業が投資。

A投資総額は、約2億ドル。

B電子工業関係の会社が多い。

C約半数の企業が黒字。

1993~2002

@約1300社の企業が投資。

A投資総額は、約23億ドル。

B300万ドル以上投資した日系企業は、約100社。その内23社は、1000万ドル以上投資。

C電子工業・自動車関係(※1)・医薬関係・化学工業の会社が多い。

D2002年末、天津市の外資系企業の内日系企業の割合は約9%。

E約80%の企業が黒字。

2003~

@国家発展・改革委員会の統計によると、2006年2月の時点の、天津市における日系企業の数は、2063社。(※2)

A2007年上半期、開発区における日系企業は約500社。投資総額は、48.26億ドル。開発区における日系企業の投資シェアは、23.9%。

B天津市の戴市長が、日本に訪問し、トヨタ・京セラ・関西塗料等の経営者と会見。トヨタ・京セラ・関西塗料等は、天津市への投資の意向を伝える。

C日本八大総合商社全てが天津へ進出し、本格的に投資を開始。

(※1) 2002年、国家計画委員会が、天津市を、中国における中日合作による小型高級車の生産基地と定める。

(※2)国家発展・改革委員会の資料によれば、2006年2月の時点での中国の大都市における日系企業の数は、以下の通りである。

数は、以下の通りである。

(1)上海:4843社(2)天津:2063社(3)蘇州:1550社(4)大連:1272社(5)北京:1062社
(6)青島:780社(7)深:676社(8)無:560社(9)重慶:365社(10)寧波:270社
(11)杭州:241社(12)瀋陽:230社(13)南京:203社

 特に注目すべき点は、2003年以降、天津市における日系企業が急増している事である。その主な理由は、@トヨタが天津へ本格的に進出している事とA2006年6月6日に中国の国務院が天津市を「中国の北方の経済の中心地」にすると定めた事である。


(3)天津市の日系企業誘致のための政策

 (2)で述べたように、天津市には、トヨタ及びトヨタ関係会社を始めとする多くの日系企業や欧米の企業が存在し、他の都市と同様に、税などの面で優遇している。しかしそれのみならず、天津市は、日系企業が安心して投資できるように様々な政策も実施している。例えば、日本人駐在員の家族の生活環境の向上を目的として、以下のような改善を行った。

@教育関係

 天津市には、現在、日本人のための幼稚園3ヶ所及び小学校2ヶ所が存在する。特に、小学校は、日本の文部科学省の批准を受けており、教師は文部科学省の指導のもと派遣されている。また、学校で使用する教材に関しても、日本の文部科学省から無償で提供を受けている。2007年6月末の時点において、中国において日本人専門の正規の小学校は、北京と上海と天津にしか存在しない。

 また、天津市政府は、2002年天津経済技術開発区(TEDA)に、天津に投資している会社関係者のために国際学校を建てた。日本人は、ここで中学卒業まで学ぶ事が出来る。また、この他にも、天津華苑新技術産業園、濱海新区、東麗開発区、塘沽区にも外国人対象の学校が存在する。

 このように、天津市は、駐在員の子供の教育にも最大限配慮している。

A日本人のための居住地区

 天津政府は、天津における日本人のために、現在までに、日本人居住区二ヶ所を設立した。

 一つは、河東区にある九河国際村である。この九河国際村は、天津国際飛行場の近くにある。現在天津から名古屋にはJAL及びANA共に直行便があるため、名古屋の会社との往復が多い日本人にとっては、大変利便性が高いと言える。

 もう一つは、水上公園の近くにある水上村である。水上村の周りには、南開大学、天津図書館及び天津タワー等があり、市の中心でありながらも静かで、安全な地域である。

 天津は、中国の大都市の中で最も安全な都市と言われ、日本人が、中流の中国人が住むマンションに住んでも基本的には問題はない。しかしながら、日本人の駐在員の二―ズに応じて、天津市は日本人のために日本人居住区を開設している。


(4)天津市の今後の展望

 天津市が、今後も様々な改革を続け、近い将来において、「中国における政治の中心は北京、経済の中心は天津」と言われるようになり、天津市における日系企業が更に増加する可能性は極めて高いと筆者は考える。しかし、中国投資における危険性を回避すべく、事前の調査及び企業体系について十分な配慮を行う必要がある事は言うまでもない。