天津日記14(2007年6月20日)
≪日本の対中ODAについて≫
株式会社大協 企画室
中国・南開大学大学院経済学研究科 古森崇史
(1)中国における日本の対中ODAに関する書籍としては、金熙徳教授(中国社会科学院日本研究所副所長)の「日本政府開発援助」が最も有名で、日本のみならず中国の様々な論文の参考文献として挙げられており、大変影響力を持っているようです。しかし、この本は7年前に出版されたもので、内容が少し古いです。
金教授は、2006年11月に、小泉内閣の時に書いた様々な文章を集めた「21世紀初めの日本政治と外交」(2006年11月)という本を出版され、ODAについても色々と書かれています。立場などは基本的に変わっていないようですが、いくつか気になる点がありました。
例えば、≪2005年、日本政府は、2008年前後に対中ODAを停止すると明確に表示した。見た所、20年以上にわたる対中ODAは、最後の段階に入ったようだ。(同書P264)≫という記述です。ご存知の通り、日本は、対中ODAの中心である円借款供給の停止を決定したものの、無償資金協力(無償資金援助)や技術協力(技術援助)を停止するとは言っていません。金教授は、当然この事を知っているはずですから、この分野で最高権威である方が、「ODA=円借款」というイメージを持っていると推測する事が出来ます。
しかし、政府貸付(円借款)等を除いた日本の対中無償資金協力と技術協力だけで、他の国の政府貸付等・無償資金協力・技術協力の合計より大きいのです。具体的には、外務省の資料によりますと、日本の2004年度の@政府貸付等(中国側の返済額を差し引いた金額)は約5億9千万ドル、A対中無償資金協力は約5100万ドル、B技術協力は約3億2千万ドルであり、合計約9億6千万ドルです。仮に、日本の対中無償資金協力と技術協力の合計だけ見ると、約3億7千万ドルです。これに対し、他の国の、同年度の対中経済協力実績の全ての項目の合計金額を見ると、ドイツは約2億6千万ドル、フランスは約1億ドル、イギリスは約7200万ドル、オーストラリアは約3800万ドルです。よって、円借款がなくなっても、依然として日本は対中ODA供給最大の国家であるのですから、その点に関しても中国側に理解してもらいたいと思います。
それから、また、中国人の書いた、ODAに関する論文を色々読んで感じた事は、円借款の割合(約90%)について記述されているものは多いですが、GE(gland element)つまり円借款の贈与要素について記述されているものがほとんどないということです。≪杉本信行、「大地の咆哮」P80≫によれば、対中ODAの内、円借款のGEが65%位との事ですから、3兆円以上の円借款のうち約2兆円位は、実質的には贈与しているのと同じなのですから、その点もしっかりと理解してもらいたいと思います。
(2)日本では、ODAの性質は、援助であるという事になっています。この事に関し、以下のような意見も存在する事が分かりました。≪国際経貿探索(2005年7月、P17)≫によれば、≪ODAは、日本の中国に対する戦争に関する賠償としての性質は含んでいない。なぜならば、@財産の損失(日中戦争で中国が被った財産の損失額は、6000億ドルと推定される)という観点からも、A生命の損失という観点からも、ODA総額300億ドル(そのうち91%以上は有償借款)というのは、あまりにも少なすぎる(※原文では「九牛一毛」と表現されています)。≫
(3)日本の対中ODAについて、中国人が書いた論文の中には、確かに、否定的な表現が見られます。しかしながら、前述の中国社会科学院の金熙徳教授や、ODA方面のもう1人の権威である中国共産党中央党校の林暁光教授も日本の対中ODAの良い点などについてはそれなりに評価をしています。ODAが、日中両国の友好に貢献して欲しいと望むばかりです。