中国の国境内における「東トルキスタン独立運動」の概況

天津日記10(2007年3月15日)

 中国では、至る所に、新疆料理の店があります。私もよく行くのですが、大変美味しいですし、店員も真面目な人が多く、(新疆の事は詳しくないので、意見等を言える立場ではありませんが、)私個人としては、新疆出身の方に対して良い印象を抱いています。

 今回は、その新疆における、東トルキスタン独立運動問題を取り上げてみたいと思います。この問題については、一般紙でも、例えば、SAPIO(2006年1月25日号P97〜99)等に、記事が載っていますので、ご存知の方も多いと思います。このSAPIOの記事では、東トルキスタン独立運動を行っている側の視点から記事が書かれていました。それでは、中国は、この問題をどのように考えているのでしょうか。一部を紹介したいと思います。


≪中国の国境内における
「東トルキスタン独立運動」の概況≫


天津市社会科学院北東アジア研究所所長補佐 楊力研究員

<翻訳>(株)大協、南開大学大学院経済学研究科 古森崇史


(1)新疆における「東トルキスタン独立運動」は、<汎イスラム主義>と<汎トルキスタン主義>の両方の思想から影響を受け出現し、発展してきたといえる。ここで、<汎イスラム主義>とは、19世紀中頃に、アフガニスタン人のマティンルーが提唱したもので、その思想の中核は、全てのイスラム国家を団結させて、統一されたイスラム政治の実体を築き上げる事である。また、<汎トルキスタン主義>運動は、帝政ロシア統治時代に抑圧されてきたタタール人により開始されたとされ、その趣旨は、中小の各アジア諸国に存在する全てのトルキスタン語系の民族を団結し、統一されたトルキスタン帝国を築き上げる事である。

 この「東トルキスタン独立運動」は、20世紀後半に発展してきたが、最近では、組織の大部分が国境外に存在し、分散して活動し、規模や影響は比較的小さくなっている。


(2)独立運動の経緯等は、以下の通りである。

1980年以降、中国が対外開放を行い、ソ連が解体され、中央アジアの各国が独立した事は、「東トルキスタン独立運動」を行う者達に捲土重来のチャンスを与えた。まず、彼らは、ばらばらになっていた東トルキスタン独立運動の組織を統一し、さらに発展させ、「統一組織・統一綱領・統一武装・統一行動」と言う目標を打ち出した。そして、その後相次いで、「イスラム真主党」や「イスラム改革党」等といった組織が出現することとなった。

1992年12月、東トルキスタン独立主義者は、サウジアラビアやトルコの援助の下、イスタンブールで「東トルキスタン民族代表大会」を開催した。大会には、中央アジア・アメリカ・オーストラリア・パキスタン・サウジアラビア・トルコ・スイス等30カ国以上の独立運動組織のリーダーが参加した。この大会で、「東トルキスタン国際民族連合委員会」が成立し、国名・国旗・国家・国章等を決めた。そして、この事は、国境外に存在する東トルキスタン独立運動主義運動を団結せしめた。

1993年4月5日、アメリカ・ドイツ・フランス・パキスタン・サウジアラビア等17カ国の東トルキスタン独立運動の組織が再び、トルコで東トルキスタン国際会議を挙行し、統一の亡命政府を建立することを決定。ルザビコンを首脳とし、独立宣言をし、国連・国際人権組織・イスラム組織等に訴え、中国に圧力を加えさせた。さらに、所謂「民族運動」と言われる組織や、ダライラマらと共に、団結行動を行った。

1996年10月、和田(新疆の都市)で新疆の十数か所の州(県)から集まった独立組織の代表者らの会議が挙行され、「イスラム真主党」の成立が宣言され、党の綱領や組織建設など7項目が採択された。これは、国境内におけて分散していた独立運動の勢力が、次第に団結へと向かった事を意味した。


(3)近年来、新疆で起きている一連の爆破テロ事件のうち多くは、これらの組織と関係がある。現在まで、中国の公安部門はすでに、アフガニスタン等でテロ活動のための訓練を受け、秘密裡に新疆に侵入した100名以上のテロリストの身柄を拘束した。さらに、テロ活動中に身柄を拘束された10名以上の東トルキスタンのテロリストも、他の国から中国に引渡しされた。

2001年の9・11テロ事件、テロ組織は、人々に憎まれ、嫌われ者となっている。「東トルキスタン」テロ組織も、そのような中で、アメリカ軍のイラク攻撃を支持せざるを得なくなった。また、ビンラディンらのテロ組織と距離を置くよう努力し、自分たちのテロリズムカラーを消すために、メンバーたちに暫く過激な事を言うのを自粛させる等、あらゆる方法・手段を採った。

南アジアのテロ組織は、急いで戦略の転換を図り、力の温存を図った。同時に、東トルキスタンのテロ組織は、再び、「人権」、「宗教の自由」、「少数民族の利益」等の錦の御旗の下、「中国政府は、この機会を利用して、少数民族を攻撃しようとしている。」等と嘘を言い、人の耳目を惑わし、国際的な反テロリズム主義者達による攻撃から逃げようとしている。


(4)中国は、長期に渡って東トルキスタンのテロの勢力によって危害を受けてきた。特に、1990年以降の、国境内外におけるテロ勢力は、独立と言う目的のために、テロと言う暴力手段を用いて破壊行動を続けてきた。彼らの行った事は、中国各地の様々な民族に危害を与え、新疆のウイグル族を含む大勢の人の反感を買った。

 各民族の人民の生命・財産及び共同の利益を保護する為、また、中国の新疆地区とその周辺の安定を確保する為、更には、国家を統一し社会の安定と現代化が順調に達成される為に、中国は、東トルキスタンのテロ組織が行ってきた暴力やテロ活動を法に基づき打ち叩いて来た。

 但し、我々の攻撃の対象は、計画を立て指揮しテロ事件に関与する極めて少数の中核となる者達だけである。騙されて東トルキスタンのテロ組織の一員になった多くの人々に関しては、教育を受けさせるなどの処置をとった。悪事から足を洗い、正道に帰る事は歓迎すべき事である。

我々が、東トルキスタンのテロ勢力を攻撃する対象は、テロ活動と言う違法な犯罪に対してのみであり、民族や宗教を対象とするものではない。あくまでも、各民族の共同利益を保護し、彼らの正常な宗教活動を保証するために行っているのである。この一連の政策は、新疆の各民族の人民を含む、全国の中国人民からの支持を受けている。同時に、中国政府は、如何なる形式のテロリズムやテロに対しても断固として反対する。


(5)全世界の皆さん、民族や宗教、地域や国、政治や社会体制が異なっても、東トルキスタンのテロ勢力の本質とそれがもたらす危害をよく知り、彼らの化けの皮をはがし、如何なる乗ずるべき隙をも与えず、共にテロ活動を撲滅させましょう。

現在、中国の国境の内外には、少数の東トルキスタンのテロ勢力が、未だ存在する。しかし、それらが、祖国の神聖なる完全な統一・新疆の社会の安定・民族の団結・社会各種事業の進歩・人民の絶え間なく続く生活面での改善等に大きな影響を与えるはずは無いと考えている。