WTO加盟から5年後の中国 天津日記8

天津日記8(2007年2月15日)

≪WTO加盟から5年後の中国≫

株式会社大協 企画室

中国・南開大学大学院経済学研究科 古森崇史


中国では、WTOに加盟した事を「入世」 と書きます。2006年12月11日で中国のWTO加盟から5年が経ちました。以下のように、WTO加盟後中国では着実に各業種の開放が進んでいます。

(資料)
2004年12月11日(orまでに)証券、建築業、教育関係、倉庫関係等
2005年12月11日(orまでに)保険業、配達サービス等
2006年12月11日(orまでに)銀行等
2007年12月11日(orまでに)交通、通信等

中国のWTO加盟関係について、何点か述べさせて頂きたいと思います。

第一に、中国WTO加盟悲観論の人は、5年前WTOという外圧によって、中国経済は破綻すると述べていました。確かに、中国では、貧富の差を表すジニ係数が、1980年は0.2以下だったのに、1990年は約0.3、1997年に約0.4、2003年には0.46と増大し、現在は0.5を越えたと言われており、WTO加盟後も依然として、貧富の差が最も大きな未解決の経済問題である事は間違いありません。しかし、この5年で中国の都市部周辺はもちろん、農村の家庭にも冷蔵庫・テレビ等が急速に普及しつつある事等からも分かるように、「全体の底上げ」は順調に達成していると言えます。

第二に、2006年12月の銀行業の開放を始めとする金融関係の開放も、大きな出来事です。私の周りでは、現在ほとんどのクラスメートが就職活動の最中ですが、多くの人が「今年は良かった。外資系を始めとして金融関係の仕事が去年より多くあって、何とかいい仕事が見つかりそうだ。」と言っています。外国の金融機関にとって、中国市場は魅力的に見えるのかもしれません。ただし、中国の金融関係の仕事は、本当にリスクが高く難しい仕事だと思います。株式関係で言いますと、多くの素人でない専門家(組織)が、株式投資の失敗をしています。あまり情報も無いのに中国株の投資をする日本人が増えているようですが、本当に危険な事です。

なお、上海に進出している日本の某都市銀行は、例年よりかなり多い30人〜40人位の新卒中国人を採用予定のようですが、7000人以上の履歴書が銀行に送られていると聞きました。収入なども含めた入社後の待遇を友達に聞くと、大変良い条件で、他の日系企業とは一線を画するものです。ですから、おそらく採用される中国人も他の日系企業とは全く異なる優秀な人材になると思います。

第三に、知的財産権の問題です。ご存知の通り中国企業の「ブランド力」は低いです。実際、2005年に公表された世界のブランドベスト100に中国の企業は入っていません。このような中国で、高所得者層が、ブランド商品をどのように考えているのかについて、我々外国人にはまだまだ分からない点が多いです。

私が、個人的に現在注目している事の一つは、天津の伊勢丹の一階に最近できたエルメスの製品を、今後どれぐらいの中国人富裕層の人達が買うかです。上海ほど発達していない「天津レベルの都市」で、本物のブランド品がどれだけ売れるかを通して、「天津レベルの都市」におけるブランド商品の市場への戦略が見えてくるはずだと考えています。