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海南タイムズ 平成22年5月
「平和憲法」を輸出商品に育てる会、万歳!
大阪国際大学名誉教授 岡本幸治
五月三日の憲法記念日を前にして小学校時代の友人から手紙が送られてきた。彼の願いは、憲法第九条を見事に墨書したある書家の作品を世界各国の指導者に見せて日本の誇りである平和憲法を世界に広めたい。そのために国連で展示できるようにしたいのだが、何かいいアイディアはないかという相談であった。彼は善良且つ熱心な共産党支持者で、最近は共産党ご推奨の「憲法九条の会」の活動に熱心に取り組んでいる。
この憲法の原案は占領を始めて半年も経たぬ内に、占領軍民政局が僅か一週間で作成したものだが、マッカーサーは日本の自主憲法であるという体裁を整える必要があって、占領政策に批判的な人物は公職追放にした上で国会の審議にかけた。当時の議事録を見れば分かることだが、この時第九条に関して、これで日本の安全が守れるのかと批判したのは保守派ではない。なんと共産党・社会党の議員である。
ところが間もなく米ソ対立の冷戦が激化した。親左翼の占領政策は親保守に大きく転換して左翼勢力は反米となった。米国の対日初期占領策を法典化した「平和憲法」は日本の誇りでありこのお陰で戦後日本は一度も戦争に巻き込まれることなく長い平和を享受できたと、左翼は主張するようになった。現政権の一角を占める社民党の女党首も、しばしば「第九条が戦争の抑止力として機能してきた」と主張している。手紙を送ってきた善良な友人も同類で、第九条が世界に広がれば世界平和が実現すると固く信じている。
以下は彼に対する返事の大意である。立派な書家による第九条の墨書を展示しても、それで国連加盟国の政策が変わる可能性は二百%ないと断言できる。しかし君がこのような独りよがりの「マスターベーション平和主義」あるいは「オカルト平和教」の信者ではなく戦争のない世界の実現を本当に願っているのならば、遠いニューヨークまで出かけずともすぐ近くでやれることがある。すべからく「隗より始めよ」。
まずは「偉大なる将軍様」の君臨される隣国(近頃羽振りの良い大中華帝国の下賜金によって作られた上海万博の北朝鮮記念館の表示に従えば「人民のパラダイス」である国)を宣伝通りの楽園にするために、「島夷」日本のささやかな献上品としてその第九条墨書を奉呈し、この文章を偉大なる共和国憲法に採り入れることを献策する。さすれば、ひたすら「友愛」を旨とする平和日本、力不足をカネで補うことに得意なこの国は、さっそく莫大なる献上金を奉納することユメユメ疑いなし。核開発に資金を費やして忠良なる一部の人民を飢えさせることもなくなる。パラダイスから抜け出す「脱北者」という名の倒錯者もいなくなり、脱北要人黄某を暗殺するために脱北者を装った暗殺者を韓国に送りこむ手間も省ける。かつて李朝時代に「小中華」を誇りとされたお国の栄誉と平和と繁栄は、憲法第九条の採用によって簡単に実現する。それによって「朝日関係」は子々孫々まで揺るぎのないものとなり、「朝日」を初めとする我が国の新聞も歓喜して、以前そうであったように「偉大なる将軍様」の礼賛で頁を埋めることになりましょう、と。
個人独裁のこの国は鶴の一声で事が決まる。小さな軍事基地をどうするかで右往左往するどこかの首相と異なり決断はす早い。これに成功すれば、お次は一党独裁の「大中華」にとりかかる。アニメに続く新輸出商品を開拓する大先覚者「憲法九条の会」万歳!