参議院の根本問題を考えてみよう-岡本教授の時論・激論

> コラム > 岡本教授の時論・激論


海南タイムズ  平成22年7月


参議院の根本問題を考えてみよう


大阪国際大学名誉教授   岡本幸治


  参議院選挙を目前にして票の行方がどうなるかに国民とマスコミの関心が集中しているが、戦後日本は今や最大の転換期にあるのだ。目先の問題ばかりではなく、たまにはもっと根本的な問題を考えてみたい。参議院はそもそも莫大な税金を使って維持する必要性のある存在なのか、という問いがそれである。


  世界を見渡せば、民意を反映させるための組織である議院は一つしかないところも多い。二つ設けている場合にはその機能や役割を異にしている。米国の上院は各州から平等に二名の代表から構成されている。人口に応じて議席を割り当てれば小さな州の民意が無視されて不満が高まり「合州国」である連邦制国家の基本に亀裂が走るので、個人平等ではなく州平等の構成をとっている。英国の貴族院は、選挙ではなく基本的に国家功労者と認定された者から構成される。戦前の日本(帝国憲法下の日本)も基本的に英国型を採用した。その時の風の吹きようで簡単に移り変わる民意を反映する下院のみに国家の大問題を委ねるのは、必ずしも適切ではないという考えが基本にある。


  さて戦後の日本は日本国憲法下で戦前と同様に二院制を採用したが、上院である参議院の中身は戦前の貴族院とは大きく異なり、下院の衆議院と同じくすべて選挙で(その時の民意で)選ばれることになった。民意に基づく西欧型民主主義の政治とは、実際には政党政治を意味する。戦後しばらく続いた過渡期においては、参議院には衆議院と異なり党議に縛られない自由な議員が多くいた時代があった。ところがやがて政党政治が浸透し選挙が政党間の争いという形に落ち着くと、任期の相違や任期途中の解散の有無といった制度上の相違を除けば、 衆議院と参議院の違いが曖昧になった。参議院議員が衆議院議員よりも質的に高いとか、より大局的・長期的な観点から国政のあり方を考えているというような期待は、非現実的になったのである。


  しかし二院があるから同じ法案が同じようなレベルの質疑によって審議される。国政の執行に集中すべき大臣は、変わり映えのしない両院での議員の質問に答える義務がある。近頃は国際的懸案が多く、大臣が直接海外に出て交渉に当たったり国際会議で意見を述べる必要も多くなったのに、「衆議院のカーボンコピー質問」に「カーボンコピー応答」をするために時間をとられる。そもそも議会の存在意義(間接民主主義の積極的意義)は、普通人よりは質の高い優れた人材を選んで(選良)、国民生活にも直接影響を及ぼす国政審議に質の高さを維持することにある。民主主義のもとでは金科玉条、決して批判の対象とならない「民意」なるものは、実際には状況次第で簡単にその向きを変える移り気な存在である。昨年民主党に日本の民意は圧倒的な支持を与えたが、その結果誕生した鳩ポッポ政権の成り行きと民主党支持率の変化は説明するまでもないだろう。


  参議院には、制度上解散があり民意をより反映しやすい衆議院とは異なる機能が期待されているが、その期待は満たされているか。票を集めやすい有名スポーツ選手、芸人、俳優などを選良候補とする参議院は、衆議院よりレベルの高い審議をすると期待できるのか。盲腸的存在に過ぎない参議院ならば、これこそ大急ぎで、民主党得意の「仕分け」の対象にしなければならないのではないか。