鳩山理念と右下がりの関係-岡本教授の時論・激論

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海南タイムズ    平成22年4月


鳩山理念と右下がりの関係


大阪国際大学名誉教授  岡本幸治



  政治家とくに上に立つ政治家が政治理念を提示するのは、今日のような変動期においては極めて重要なことである。変動期というのは、内外の環境変化によってこれまでのやり方が通用しなくなり、人心不安定となる時代である。その時政治家が国家の進むべき大きな展望を指導理念として示し国民を鼓舞するのは、大いに意義のあることなのだ。


  「五五年体制」のもとで万年与党として君臨してきた自民党は、予算配分権を武器として人心収攬の得意な「政治技術者」を多く生んだが、保守党としての理念を示し国民の信頼をつなぐ知的作業をどこかに置き忘れてきた。「人はパンのみにて生きる者に非ず」。民主党が平成二十一年の総選挙で圧倒的な支持を得た理由の一つは、民主党には変動期の日本を導く清新な指導理念があると思われたことにある。


  鳩山首相は「地球は生きとし生けるものの命を育むところである。日本列島も例外ではない」という考えをお持ちらしい。なるほど、「日本列島は日本人のためだけのものではない」という発言や、防衛大学卒業式の最近の訓辞で東アジア共同体推進の重要性に力こぶを入れているのは、そういう理念の産物かと合点がいった。彼がカネと利権と実利の提供しか念頭にない政治屋とは異なる人物らしいことはよくわかった。


  しかし、である。政治家とは、理念・哲学を現実に当てはめてよりよい結果を生み出すことを期待されている「実業家」である。単に美しい理念を語るだけの口舌の徒ではない。現実とは無関係に理念の壮大さで評価される思想家・哲学者でもないのだ。


  衆望を担って日本国の総代表となった鳩山理念をこの点を踏まえて見直すと、その出発点のところで甘さが目立つ。「地球はあらゆる命を育むところ」という大前提も実は一面的である。地球は大噴火・地震・津波を起こし一瞬にして多数の生命を奪い去る恐ろしい存在でもあるという認識が欠けているが、それは不問にしておこう。


  彼が指摘するように地球には実に多様な生命が存在し、母なる地球の薄い表皮の上で、バイキンも含め懸命に子孫を守り育てている。共生もする。「縄張り」を作って外部からの侵入者とも戦う。おのれの命をかけて縄張り荒らしと戦う鳥・魚・獣の親がいるので、その子や仲間の生命が守られ地球の多様な生態系が維持されてきたのだ。


  強い牙も爪もないヒトは、ご先祖の猿時代から、縄張り(群れ)を作り外敵から身を守らないと生存できなかった。ヨワイ人間が生命保存と継承のために設けた最小の縄張りは家族である。それがムレてムラを作り、村が併合連携拡大して作られた最大の縄張りが現代の国家なのである。小は家族から大は国家に至るまでの縄張り共同体は、構成員の安全財産諸権利を保護する上で、未だに重要な役割を果たしている。


  ところが、家族共同体の絆を更に弱め、日本国の縄張り荒らしの前歴が多々ある敵性国家の永住者に安易に国籍を与え、外国にいる彼等の子供にまで貴重な税金をばらまくが外国居住の日本人子弟には金を出さない民主党法案を見ると、物事の一面しか見ることのできないおぼっちゃま上澄み理念の欠陥が、見事に露呈してきたという印象を受ける。


  支持率に回復不可能な打撃を受ける前に、基本理念からの鍛え直しをお勧めする。