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海南タイムズ 平成22年3月
「海の狂犬」と日本の安全保障
大阪国際大学名誉教授 岡本幸治
「シェパード」は羊飼い・牧羊犬のことであるが牧師や指導者を指すことがある。「シーシェパード」という名の反捕鯨組織は、環境保護団体「グリーンピース」の会員であった男が海洋生物の保護を掲げて一九七七年に設立したものである。この五年ばかりは日本の調査捕鯨船に狙いを定めて過激な海賊まがいの行動を繰り返し、環境保護の指導者面・先駆者面をしながら日本の乗組員にたびたび危害を加えている。
これに対してわが捕鯨船は防御策として放水程度で済ませてきたから、この狂犬どもをつけあがらせた。二年前には船内に乗り込んできた二人の活動家がいた。公海上であろうと、このような行為は日本の法律を適用して三年以下の懲役刑に服させることができるのだが、反捕鯨国との軋轢を恐れた日本政府は、身柄をすぐにオーストラリアに引き渡した。ところが反捕鯨のこの国は、狂犬達に適切な罰を課さなかった。
これに味を占めて、この一月に特製の小型高速船で昭南丸に衝突して大破してしまった船長が、 二月半ばに水上バイクで日本船に接近し、防護ネットをナイフで切り裂いて簡単に船内に侵入した。そして損害賠償三百万ドルを払えと言っている。新聞沙汰になるような過激行動をすればするほど、欧米の反捕鯨団体や個人から寄付が集まるので、この連中はゼニ稼ぎのためにもこのような英雄気取りの行動に出たがるのである。
一連の経過を見ていると、戦後日本の防衛体制が二重写しになってくる。国家犯罪として計画的に人攫いを行っていた隣国に対しても、永らく何の手もうたなかったこの国。領海に侵入して海底調査を行っていた潜水艦に対しては、国際法上「浮上命令を発し拒めば撃沈」が可能であるのに、領海外に出るまで哨戒機を飛ばすだけで何もしなかった優しい国。「専守防衛」の美名のもと、近隣の「軍事力万歳」国家に対して示したこのような配慮の結果、日本は力で押せば簡単に引き下がり金も差し出すぶざまな「平和」国家というイメージを定着させてきたのである。「海の狂犬」たちの言い分は「鯨を殺すのは可哀そうだ」という「動物愛護の精神」である。欧米にはこの言い分に何の疑問も持たない国が多い。ならば問うてみよ。「鯨を殺すのは可哀相だというのなら、お前さん達が毎日食べている牛・羊・豚は可哀相ではないのか。エサをやって肥らせ殺して食うのは「動物愛護の精神」にかなうのか」と。
かつて米国人は鯨を大西洋で取り尽くし、その後太平洋で追いかけ回して日本近海にもやってきた。ところが黒潮と親潮の合流で複雑な海流と霧を生む金華山沖などで遭難して鎖国日本に留置された。これが十九世紀半ばにペリー艦隊を日本に送って開国を強要した原因の一つである。彼等は油を取るためだけに鯨を殺した。その後電気やガス灯が発明され鯨油の必要がなくなってから、「鯨を殺すのは可哀相」と言い出した。
まことに勝手なものである。キリスト教文化の特色を僕はかねてから「凸型文化」と呼び、その行動原理として「自己主張・自己拡大」を良しとする特徴があることを指摘しているが(『凸型西洋文化の死角』柏樹社)、たまにはその肥大形態である「近代西洋ジコチュー文明」の発想や論理のおかしさを正面から指摘しないと、彼等はいつまでも成熟しないままで終わるだろう。「友愛」豆まきが売り物の小鳩政権よ。狂犬の扱いを誤って、統治能力の欠如を天下に曝すことなかれ。