体制批判をされる国とされない国の間-岡本教授の時論・激論

> コラム > 岡本教授の時論・激論


海南タイムズ  平成22年12月


体制批判をされる国とされない国の間


大阪国際大学名誉教授        岡本幸治


  最近新聞で珍しくミャンマー(ビルマ)の記事が大きく取り上げられた。軍事政権が選挙を実施し勝利した。これは「できレース」であり、結果がこうなることは予想できたというのが大方の後知恵解説である。ともあれ、その結果に軍政は自信を深めたのか、長らく自由を拘束され選挙運動も行えなかったスーチー女史が軟禁を解かれ、民主化運動を始めることを許されるようになったらしい。


  彼女はビルマ独立運動の指導者であったアウンサン将軍の愛娘で美人である。英国人と結婚して英語も使えるので、直接欧米メディアのインタビューに対応することもできる。


  そのためもあるのだろう。かねて欧米では女史の民主化運動を弾圧してきた軍政に対して厳しい経済制裁を加えており、わが日本政府もこれに同調して、アジア諸国に気前よく提供してきたODAも、この国には人道的支援のみに限ってきた。


  先年関西のアジア研究者と共に現地日本大使の紹介で軍政幹部と面談した時、彼等は英国植民地期以降続いている深刻な少数民族問題について言及し、最優先課題である国内統一と治安維持のためには、安易に西欧型の民主体制を採用できないことを説明した。  実はこの国の軍政担当者達は日本に対して極めて好意的であり、日本との関係を強化したいと願っている。女史の父は日本がビルマ独立の指導者として海南島で厳しく訓練した三十人の独立志士の一人であり、彼等は独立後も軍政の中心的指導者であったから、日本に対して格別の好意を寄せていたのは不思議ではない。


  戦後日本の歴史教科書は戦争勝者である連合国の歴史観に忠実に従って、大東亜戦争はアジアに対する日本の侵略戦争だと教えて来たから、ビルマの独立に日本が決定的な貢献をしたなどということは教えていない。そのために指導層の好意的日本観の背景がわからず、軍政は悪であり、ともかく民主化をやれと尻を叩くのが正しいことだと信じ込んでいる者が多い。こうして日本を含む先進国がミャンマー支援を怠り軍政批判を繰り返している間に、さまざまな経済的軍事的支援を行って今や最大の影響力を行使するようになったのが中国である。かつて学生が軍政批判を強めて大規模なデモを行おうとした時、無慈悲にそれを弾圧した中古戦車も中国からの贈り物だ。


  ここで問題にしたいのはミャンマー情勢ではない。一党独裁下にあり、金儲けの自由化はあるが言論報道思想の自由は大幅に制限され、民主化を主張しただけで国家転覆罪というおぞましき罪名を与えられ監獄入りをさせられる国が近隣に存在している。その政治体制を批判しないのは一体なぜなのかを考えたいのだ。スーチー女史の軟禁場所は僕もその前まで行って見たが、広大な敷地を持つ豪邸であり使用人を何人も使っている。しかしノーベル平和賞の対象となった中国知識人は、寒気厳しい満州の監獄で呻吟している。


  西欧型民主体制でないからというので批判する際に、相手から不利益を蒙る心配のない弱小国には厳しく、仕返しを食らう危険のある大国には体制批判を差し控える。ご都合主義のこの二枚舌外交を演じている国の一つが日本なのである。臆病国家からの脱却を目指す前に日本が脚下照顧して学ぶべきイロハは何か。国際政治は軍事力を含む力が大きくモノを言うこと、日本が近隣諸国から侮られたくなければ力を備えること、そして平和外交もその基盤の上に成り立つと知ること、以上。