プーチン政権のアジア政策 (レジュメ)

プーチン政権のアジア政策 (レジュメ)

木村 汎

2007.4.9

日亜協会

T 総論 

1.ロシアは欧米を離脱? 

(1) 「Russia Leaves the West」(D. トレーニン)

欧米とのぎくしゃく

#WTO(世界貿易機香jへの加盟交渉、難航

#チェベス・ベネズエラ大統領との間での武器売買契約

#米ロ合同軍事演習の延期

#ポーランド、チェコへのミサイル防衛(MD)配備

#プーチンのミュンヘン演説(2007.2.10)


(2) 米ロ関係 =@2つの”B”

Balance → Bandwagon (9.11) → Balance

一致点:

 @ 国際テロリズムに対する共闘

 A エネルギー資源の輸出入

 B 核軍縮(NPT条約遵守etc.)

不一致点:

 @「価値観」の相異(自由と民主主義);「主権民主主義」

 A 大国として誇り・覇権(ナショナリズム)

 B CIS(独立国家共同体)をめぐるゲーム


(3) 欧ロ関係

 @ イラク戦争反対では、ロシアは仏独と一時同じく米英に反対した。その後はぎくしゃく

  A 「ゲームのルール」遵守せず:(Pact Sunt Servanta:契約は守らざるべからず)

#エネルギーの安定供給


(4) ロシアの欧米への統合は、ピークを過ぎた。

 「幻想」(ファンタジー)と分る。

 地理、歴史、文化etc.は近接しているが、「価値観」と「ルール」が違う。


2.「ユーラシア主義」への傾斜

(1) 「アジア開発モデル」を事実上採用

 @ 政治は、独裁

 A 資源は、再国有化

 B 外交は、エネルギーを手段に(「エネルギー超大国」として)

 ×軍事力、×ャtトパワー、○エネルギー(比較優位のasset leveraging戦術)


(2) 経済的関係を深める

 ・ロシアのアジアへの貿易高は、過去3年間で、4.3%→13.4%へとシェアをのばした。

   (主要6か国では20%にも)

 ・プーチン:アジアへのエネルギー輸出を3%→30%へ伸ばすと発言(2006年9月)

 ・兵器輸出


(3) 外交:中国、インド、東南アジア、中央アジア、SCO(上海協力機・などへの接近


(4) はたしてどのていどまで本気?

・2つの見方:

 @ 牽制のジェスチャー(「言葉」と「行動」は別)

 A 本気で米国の unilateralism(一極主義) に対抗

 

・私の見方:混合物(ハイブリッド)

 ∵ ロシアは、アジア一辺倒となる「迫ヘ」を欠く→越えられない「線」があるから。

 結局、「(欧米諸国の)選択的封じ込め(containment)」、および

 「(アジアへの)選択的関与(engagement)」がミックスした政策



U 各論 

3.北朝鮮、中国、日本にたいする政策


(1) 北朝鮮 (= 「過去」のコミットメント)

 ●発言力(影響力)の喪失過程

 その理由:

   @北朝鮮自体の瀬戸際政策

   A経済関係の減少(かっては60%)

   B「ポカズーハ」(見せかけ)戦術、効力を失う。

   #プリコフスキー、#ロシュコフ、#プーチン


 ●ミサイル発射事件(2006.7.5.)

   @事前通告うけず

   A自力による探知・追跡迫ヘの欠如迄I


(2) 中国 (= 「現在」のコミットメント)

 ●目下は、「便宜結婚」

   # 経済相互依存関係=`280億j : cf. 日ロの60〜100億j

      エネルギーや兵器:「露」から「中」へ (だが、飽和点に)

      廉い労働力、消費物資、生鮮食料品:「中」から「露」へ

   # 政治:内政干渉を互いに抑制

   # 外交:連帯:「世界の権威主義よ。団結せよ!」


 ● しかし、心理:相互不信、脅威感(“junior partner”としての不満)

   #・300 kmの国境線

   # 人口格差;とくに極東


・要するに、経済的、政治的、外交的利益は、いま一致

   だが、心理的恐怖感のために、中露「同盟」のオプションなし;

   米国のほうが大事→「戦略的パートナーシップ」


(3) 日本 (= 「将来」のコミットメント)

 @ 2004〜5年における大転換

   # とくに2005年9月のプーチン発言


―3つの間違いを犯している:

   #戦争結果不動論;#国際法上の根拠なし;#問答無用



 A 転換の理由

   ・経済好調 → 自信の回復

   ・「2島先行返還論」の誤ったシグナル



 B 小泉首相の功罪

   (+) 「2島先行論」「段階的解決論」から「四島一括返還論」へ

   (+) 北方領土洋上視察

   (+) ハバロフスクや中央アジア訪問

   (−) 「日露行動計画」提案

   包括的パッケージは良し。が、「いいとこ取り」される危険に気づかず

   (−) 「対独勝利60周年記念式典」参加

   (−) 「北方領土の日」全国大会、欠席



 C 根室(前)市長の間違い

   (−) 「二島糸口返還論」:平和条約中への書き込み;期限付き、期限なし

   (−) 「自由貿易ゾーン」の提案;裁判権(主権)は?・08.17の銃撃事件が証明

   (−) 銃撃事件後の「ビザなし交流」辞退



 D 現在は無資源国として軽視、だが将来は「日本モデル」(経営ノウハウ)の魅力


4.結論


(1) ロシアの二面性(ヨーロッパとアジア)=「ユーラシア(Eurasia)性」

 # ドストエフスキー


(2) かつて「ロシア in Asiaではあるが、Asian power ではなかった」(シーガル)

  いや、「除け者」(oddman out)ですらあった(D.ザゴリア)


(3) 現在、ロシアはヨーロッパで「除け者」とされている。そこで豊富なエネルギーを武器にアジアへの参入を試みる


(4) しかし、ロシアのアジア戦略は、重大な限界をもつ


 @ エネルギーへの過大な依存;57.7%は石油・天然ガスの輸出

   「資源の呪い(resources curse)」または

   「オランダ病」の陥穽:油断、改革を怠る、インフレの発生、貧富の格差拡大


 A ロシア極東における人口の激減

    730万人(vs. 中国は1億3000万人)

   『シベリアの呪い(Siberian Curse)』

   underpopulated でなく、 overpopulated →≠フ創生が鍵


 B 中国(脅威)よりも、日本を必要。


(5) 合理的思考vs非合理的思考

 「ロシアはどこへ飛んでゆくのか?」(ゴーゴリ)

 #サハリン州の変貌(?)


(6) プーチンによる瀬踏み

 (+)「バルダイ会議」:新味:日本よりも中国、現状不満と意欲

 (−) 麻生外相「3島妥協論」(2006.12.13)?

 (+) プーチン:「ロシア産業の多元化」を要請(2007.2.6.)

 (−) 今後のロシアは「選挙の季節」へ


安倍内閣=静観+突き放しがベスト