日本に北朝鮮「難民」は来ない
韓国国民を韓国に送るだけ
福井県立大学教授 島田洋一
脱北者一家と見られる4人が、エンジン付きボートで青森県に漂着した事件について、まず、2007年6月3日付の共同電を引いておく。
安倍晋三首相は3日、……「韓国に行きたい」と供述している4人の意向をかなえる方向で対処する考えを示した。「日本は自由を守り、人権を尊重する国だ。人道上の観点から対応することを約束する」と述べた。
一方、韓国の宋旻淳外交通商相は3日「人道主義の原則と本人たちの意思に従って処理されることになる」として、4人が希望すれば受け入れる方針を表明した。……(注・結局4人は、6月16日、韓国に向け出国した)
ここで宋旻淳が、「人道主義に立つ第三者」風の発言をしているのは、きわめて無責任であり、羞恥心の欠如を示すものに他ならない。
韓国憲法の規定では、朝鮮半島の北半分(北朝鮮)も大韓民国の一部であり、今回の4人を含め、北の住民はみな大韓民国国民である。
宋旻淳が曲がりなりにも「外交通商相」を名乗るなら、まず、自国民4人を保護してくれた日本側関係者に対し、一言ぐらい礼をいうべきであった。
そして、怪しげな援助を続けて、金正日の非人間的体制を支え、一般住民(同胞)を、自殺用の毒薬をもって大海に出る決心をするところまで追い込んだおのれの無為無策を恥じるべきであった。
北が崩壊して大量の難民が日本に押し寄せたら、といった懸念を口にする人がいるが、定義上、日本に北朝鮮「難民」は来ない。
国連難民協約にいう「難民」とは、政治的意見などのため「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者」である。
日本は、友好国たる韓国の憲法を尊重し、海を越えてきた脱北者(韓国国民)は皆、しかるべき事情聴取を経て、粛々と韓国に送り届けるという基本方針で臨めばよい。
それでは韓国が困るのでは、という人もいるかも知れない。
もちろん、韓国政府の受け入れ能力に配慮し、脱北者が日本に滞在する期間を延長したり、韓国に資金的援助を行ったりすることは可能だ。しかしそれは、韓国政府がどれだけ日本の国益に適う(少なくとも反日的でない)政策を採るかによる。
盧武鉉のように、歪曲誇張した「日本の過去」を世界に向けて宣伝するなど反日姿勢を取りつづけるのであれば、日本としても、脱北者は粛々と本国である韓国に送り届ける、韓国政府がどれだけ受け入れに苦労しようが知ったことではない、という姿勢で臨まざるをえないだろう。
北の崩壊・難民流入を恐れる中国というフィクション
中国共産党(以下、中共)政権は、大量の「難民」流入を恐れるがゆえに北朝鮮崩壊を望まないという説があるが、これは明らかな政治的ウソ(かなりの部分、中共製の)である。
金正日体制の崩壊した後、韓国による吸収統一を認めるなら、いくら脱北者を捕らえて送り還しても、大韓民国が自由主義国家である以上、アメリカ人をアメリカに、日本人を日本に送り還すのと同じで、難民協約違反にはならない、どころか、その時点における脱北者はそもそも「難民」に該当しない。
金正日体制が存在する現在でも、中共政権が、多少なりとも人権を重んじるなら、日本同様、脱北者は粛々と韓国に送り込めばよいのだ。
今年2月、北京で温家宝首相に近い研究者グループと意見交換会を行ったが、その際、中国側の一人が、「韓国政府の関係者はみな、われわれに対して、脱北者を大量に韓国に送られては困ると言うんですよ」と笑いながら発言していた。
たしかに目下の韓国側の対応はそうだろう。
しかし、中共側が、韓国の困惑に配慮して、脱北者を南に送らないというのは体のよいフィクションに過ぎない。
中共が、脱北者を北に強制送還し続けるのは、根本的には人権感覚がないからであり、政治的には、脱北者を中国素通りでどんどん韓国に行かせれば、北が出血多量で崩壊し(ちょうど東独市民がハンガリー経由で西に大量脱出したケースのように)、アメリカ・日本と同盟関係にある大韓民国が朝鮮半島を統一することになる、それはまずいという判断に基づく行為であることは明らかである。
北京オリンピックを粛々と開かせてはならない。