謀略戦争に備えよ

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謀略戦争に備えよ

帝塚山大学名誉教授 伊原吉之助

ゲベルスも顔負けの事態

  かつてナチスの宣伝相ゲベルス曰く、「大衆は馬鹿だから、大声で百遍繰り返せば信ずる」。今や中国人曰く、「中国人は情報封鎖されているから、政府が三遍言えば信ずる」。私曰く、「お人好しの日本人は、大衆はおろか、高学歴の知識人も簡単に騙される」

  日本の新聞の台湾記事を見ていて、つくづくそう思う。野党の中国国民党系メディアが流す謀略情報を受け売りする記事が少なくない。

  台湾情報に限らない。関西から眺めると、東京の記者たちは、中国の謀略宣伝にいかれている人が少なからずいる。朝日新聞社に支局を置くニューヨーク・タイムズの東京発記事は、日本を貶める与太記事を連発している。


「謀略戦」を忘れた戦後日本

  支那事変が始まった時、私は小学校二年生。当時「銃後の戦い」と言われたのが思想謀略戦だった。それが敗戦で忽ち悔い改め、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼してわれらの安全と生存を保持しようと決意」する(新憲法前文)。この諸国民とは、第二次大戦の戦勝国、つまり連合国のことだが、米ソが睨み合う東西冷戦によって大前提が崩れてもこの前文を改めようともせず、いまなお後生大事に護持している。憲法を守るつもりなら即座に修正が必要な筈だが、いまだに護持しているところを見ると、憲法を「飾り物」としか考えていないのではなかろうか?


米中鮮の謀略の渦

  戦後の日本で謀略が猖獗を極めていることは、改めて指摘するまでもなかろう。

  第一に、米軍の占領が日本国民への洗脳だった。この効果はいまだに続いていて、日本の新聞は「支那事変」「大東亜戦争」とはいわず、「日中戦争」「太平洋戦争」という。占領下の検閲をいまだに引きずっているのだ。

  第二に、中共が日本を中国の属国にしようと、戦後早い時期から対日謀略工作を始めて現在に到っている。インターネットで流れた「第二期対日解放工作要領」を見よ。

  第三に、北朝鮮が朝鮮総連を通じて好き勝手やっている。日教組と結んで日本の子供たちに自虐史観を刷り込んでいるし、朝鮮総連傘下の「科協」(在日朝鮮人科学技術協会)を通じて日本の科学技術情報を大量に盗み出している。

  これら三国(に限らないが)は、日本の政治家まで抱き込み、売国行為を繰り返させたことは、一々指摘するまでもなかろう。国民の拉致を放置したのも、彼らが警察の捜査を阻止したからだ。


謀略の手は政府中枢に及ぶ

  自由民主国は、「思想言論結社の自由」があって開放的なので、外国の手先が入り込みやすい。フランクリン・デラノ・ローズヴェルト大統領の政府には、ざっと二百人のソ連スパイが高層に入り込んでいたとされる。以下の二冊を参照されたい。

  コーネル・シンプソン『国防長官はなぜ死んだのか』(成甲書房)

  ジョゼフ・マッカーシー『共産中国はアメリカがつくった』(同上)

  クリントンがアーカンソー州知事時代から中国人民解放軍の政治資金を得ていたこと、大統領になってからはFBIの目を避けて民主党が中国の政治資金を得ていたことは、コックス報告(インターネットで七百頁の報告書が見られる)や、伊東貫『中国の「核」が世界を制す』(PHP研究所)で判る。


報道の分析能力を鍛えよ

  今発売中の『諸君!』二月号の巻頭に、伊藤隆・櫻井よしこ・中西輝政・古田博司四氏による「『冷戦』は終っていない!」という6時間に及ぶ「激論」記事が載っている。これによると、知識人とは謀略に弱い存在だという。観念を相手にするので、観念をうまく操作されれば手もなくいかれてしまうらしい。例えば、共産主義者でも何でもない南原繁が、いかに簡単に毛沢東礼賛者にさせられたことか!

  今、日本は「お人好し」から脱皮しかけているが、戦前から続く「対日謀略工作」の概略を、この激論記事で承知しておくべきである。このままでは我々は、亡国のため税金をせっせと払っていることになりかねない。