中国の対日指向可能兵力と日本の防衛力の対比
矢野 義昭
1 対日指向可能兵力
1-1 現時点での兵力、配備、装備
2007年時点の中国軍の戦力は、陸軍160万人、18コ集団軍、艦艇674隻(潜水艦55、主要艦艇76隻)、作戦機約2580機(爆撃機222機、戦闘爆撃機2421機)が配備されている。
図表1 中国軍の現有兵力(『ミリバラ2007』等による)
区 分 |
兵 員 数 |
主要装備 |
|
総兵力 |
正規軍225.5万人 準軍隊150万人 予備役80万人 基幹民兵約1千万人 |
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戦略核戦力 |
第二砲兵 |
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ICBM 46 IRBM 35 SRBM 725 |
海軍 |
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SSBN 1隻 |
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陸軍 |
18コ集団軍 機械化歩兵師団×1 機甲旅団×12 歩兵師団×15 車両化歩兵旅団×22 車両化歩兵師団×24 機械化歩兵師団×3 機甲旅団×9 水陸両用強襲師団×2 山岳旅団×1 山岳連隊×1 |
160万人 7コ軍区 瀋陽軍区25万人 北京軍区30万人 蘭州軍区22万人 成都軍区18万人 広州軍区18万人 斉南軍区19万人 南京軍区25万人 |
MTK 7500両以上 IFV 1000両以上 APC 3500両以上 火砲 17700門以上 (うち自走砲1200門) ヘリ 375機以上 SAM 284基以上 |
|
空軍所属空挺師団×3 |
3.5万人 |
|
その他 |
特殊作戦部隊 |
1.7万人 |
|
空軍 |
戦闘機連隊× 爆撃機連隊× 対地攻撃機連隊× |
40万人 |
戦闘機 1179機 (内Su−27×116機) 対地攻撃機 1242機 (内Su−30×73機) 爆撃機 222機 偵察機 53機以上 電子戦機 4機以上 輸送機 Il−76など 約123機 |
海軍 |
北海艦隊 東海艦隊 南海艦隊 |
22.5万人 (内海軍陸戦隊 2コ海兵旅団基幹 約1万人) |
潜水艦 55隻 駆逐艦 28隻 ミサイル・フリゲート48隻 哨戒艇・沿岸艦艇 242隻 掃海艇 65隻 補給艦 163隻 大型揚陸艦 73隻 |
図表2 中国の水陸両用戦能力(『ミリタリーバランス2007』より)
種 類 |
保有数 |
兵員輸送能力 |
戦車輸送能力 |
|
LSM |
LSM |
47 |
180*1、250*2、250*5 計1930人 |
202両 |
LST |
26 |
200*7、250*10,250*9 計6150人 |
280両 |
|
LC |
LCU |
130 |
150*10 計1500人、又は戦車100両 |
|
LCM |
20 |
不明(1680人) |
不明(60両) |
|
ACV |
10 |
不明(2300人) |
不明(30両) |
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計 |
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233 |
同時9580人以上 (13560人) |
582両以上 (672両) |
注:()内はミリバラにはない推定数。ACVをロシアのポロニク級と同型とみると、兵員230人または中戦車3両を同時輸送可能。LCMもロシアと同型とみると、20隻で兵員1680人または戦車60両程度輸送可能と見積もられる。
これらを加えると兵員なら13560人、戦車なら672両程度は同時輸送可能とみられる。
1-2 2030年頃の質的水準と兵力、配備
2030年頃の戦力の質的水準は、現在の装備の質的改善の趨勢と今後の経済成長、技術水準の向上、ロシアからの武器転移の完了などの兆候から、全般に現在のロシア軍の水準か、一部はそれ以上に達すると予想される。
戦略戦力は、SLBM約1千基はすべて新型のDF−31に更新され、一部は日本向けにも移動展開が可能である。ICBMも移動式固体燃料型のDF−31Aに更新され、100基以上に達し、SSBNもロシアのオスカー級4隻が配備され、常時1隻が哨戒しており、SLBMを各24基搭載している。
陸海空戦力の全般配備、軍区は、ほぼ現状と同じであるが、沿岸部各軍区間の戦力転用は容易になっている。
陸軍では現在の車両化師団や歩兵師団が、現時点でのロシア軍の重戦力師団である機械化師団並の編成装備になっており、質的には陸自師団と同等か一部それ以上の水準に達している。
特に、特殊部隊と空挺部隊の戦力は質量ともに重点整備され、戦力は倍増され、装備も現在のロシア軍並みかそれ以上に達している。特殊作戦旅団が各軍区に1コ旅団編成され、戦略的目的に運用される。またヘリ能力の向上に伴い、空中攻撃旅団が各軍に編成され、第一線師団の強襲上陸作戦に連携し、ヘリ搭載型強襲揚陸艦から発進して、海岸堡設定のため直接ヘリボーン作戦を行うことが可能になっている。
海軍は質的には海自とほぼ同等水準となり、潜水艦、水上艦艇の量的優位と地上配備の航空機、SAMの掩護により、第一列島線内の制海を概ね確保できる状況にある。潜水艦はすべて静粛化されイージス艦6隻、軽空母2隻も保有している。第二列島線から米海軍に対する進出拒否戦力を縦深にわたり展開しており、第一列島線内への米海軍、空母打撃部隊の進出は容易ではない。
水陸両用海上輸送能力も向上し、イワン・ロゴフ級LPDは2隻建造され、LSM、LSTは約150隻に倍増している。かつ民間から徴用されたRo−Ro船、貨物戦の数と能力も向上し、海上輸送能力は同時に4コ機械化師団分を輸送しうる規模に達している。なお強襲上陸部隊である海軍歩兵旅団は海軍歩兵師団に改編され、2コ海軍歩兵師団がACV、ヘリ、上陸用水陸両用戦車などを使い同時強襲上陸可能となっている。また、作戦上の必要に応じて軽戦力主体の海軍歩兵旅団として運用することも可能である。
空軍は量的には2000機程度に減少するが、質は大幅に改善され、戦闘機はすべて第四世代 機に切り替わり、第五世代航空機が百数十機に達している。第四世代機の行動半径は1500kmに達し、AWACS、空中給油機も増加され、量的優勢と相まって、空自との航空撃滅戦では西日本まで航空優勢を確保しうる態勢にある。輸送機もIl−76級(貨物50トン又は人員130名)が主力となり大型化され、2コ空挺連隊が同時空輸可能になる。
1-3 中国軍の対日指向可能兵力
7コ軍区体制は維持され、集団軍単位で運用されるものとする。各軍区の兵力規模も現在とほぼ同等である。
空挺は2030年には倍増され6コ師団、7万人規模に増強される。また特殊作戦部隊も同様に倍増し、34000人に達し、各軍区には特殊作戦旅団が編成されているものとする。
海軍の海兵旅団は2006年から2007年の間に2000人増員され、1万人に達している。2030年には2万人に増強され、各艦隊所属の3コ海軍歩兵師団に改編されているものとする。
対日侵攻時の周辺国との関係については、中国と露、モンゴル、朝鮮半島との関係は安定し、中央アジア、イスラム圏との関係も良好に維持されている。インド、ベトナム正面は緊張が続いており、台湾正面には並行して侵攻準備と恫喝のため戦力を集中しているものとする。
したがって、対日侵攻時の主力部隊は済南軍区と北京軍区となり、戦略予備として蘭州軍区の戦力を増員でき、さらに瀋陽軍区からも一部戦力を転用できる。台湾正面には南京軍区と広州軍区、更に一部の成都軍区の戦力を集中している。
対日侵攻指向可能兵力は白紙的には、済南軍区19万人、北京軍区30万人、計49万人を主戦力とし、さらに蘭州軍区22万人と瀋陽軍区25万人の3分の1、計16万人、総計65万人を指向できるであろう。本見積りでは、済南軍区と北京軍区の計49万人のみが指向されると前提する。
海軍は、質的に自衛隊に匹敵する能力を持ち、米空母を対象とし、縦深にわたる多層の抵抗による沿岸での近接海上拒否力を重点に整備が進められるであろう。2030年時点では、距岸1000海里の第二列島線を前縁とし、琉球列島から九州西岸に及ぶ第一列島線はほぼ中国軍が海空支配権を確立することになろう。
艦艇数は今後も漸増し、潜水艦は75隻、駆逐艦、フリゲート艦は各60隻に増加する。空母は2020年代に運用に入り2030年頃には2隻程度は配備されている可能性がある。ただし、沿岸型の軽空母程度に止まる。
また中国は水陸両用戦能力の向上に力を入れており、LST、LSMなど大型強襲揚陸艦の配備が進み、倍増するであろう。また海運の発展に伴い有事に輸送船に転用可能な、Ro−Ro船、貨物戦の船腹量も経済規模の増大に比例し、3〜4倍に増大することが見込まれる。なお、対日侵攻には東海艦隊と北海艦隊が参加するものとする。また民間船舶は全面的に徴用されるであろう。
航空機は第4世代機への更新が進むが、総機数は2020年時点で2200機程度に止まる。第四世代機の行動半径は1500km程度に伸び、F−15に匹敵する中国国産のF−10が今後1200機製造・配備される。生産ペースは年間100機程度とみられ、2020年には生産を完了し総機数の55%を占めるであろう。また、ロシアとの共同ライセンス生産によりSu−27SK(F−11)を年間150機製造し、多目的又は艦載型のSu−30をロシアから年間100機程度調達を続けるであろう。2018年頃以降、第五世代機の配備が年間10機程度で逐次開始され、旧式機は年間30程度削減されるであろう。その結果2030年時点では、総数約2千機に減るが、主力機は行動半径1500kmの第四世代機に、百数十機が第五世代機になっているであろう。
空輸能力も大幅に向上する。中国はロシアと2005年9月に、Il−76輸送機を約40機、同型の給油機MIDASを8機購入する契約を締結した。空中給油により戦闘機や爆撃機の行動半径は増大するであろう。
経空侵攻能力については現在、同時兵員10100名又は貨物2400トンを空輸可能である。空挺師団の兵員数は師団スライスで約1.2万人であり、ソ連型とすれば装甲車だけでも500両程度は必要である。現状では2〜3分の1コ空挺師団、1コ空挺連隊基幹程度しか輸送できないが、2030年頃には、Il−76など大型輸送機の調達により空輸・空中投下能力も倍増し、2コ空挺連隊が同時空投・空輸可能となるであろう。Il−76は巡航速度800km/hで航続距離は7300kmに達し、兵員130名または貨物50tを空輸可能である。中国沿岸部から西日本には2時間以内に到達可能であり、リターンの時間を約6hとして、一日以内に空挺師団全力を空輸可能になると見られる。
対日侵攻時の対日指向可能航空戦力は、台湾正面の侵攻に先立ち実施される場合は、航空機の行動半径の増大、港湾、航空基地の整備などによる収容力の増大から、戦闘機はその約半数が、輸送機はその全力が集中、指向可能とする。戦闘機は約半数の1千機が指向され、内数十機は第五世代機、残りは第四世代機、輸送機は全力が対日指向されるものとする。
図表3 中国軍の対日指向可能兵力
対日指向可能兵力 |
戦闘人員 |
主要装備 |
|
経海侵攻兵力 |
機械化師団×12 海軍歩兵師団×2 砲兵旅団×2 |
18万人 (更に約31万人が増援可能) |
MTK 2900(T−98/96) IFV 1400(新型) 火砲 1860(半数が自走) 迫撃砲 910 SAM 280 |
経空侵攻兵力 |
空挺師団×1 空中攻撃旅団×2 |
||
その他 |
特殊作戦旅団×2 |
||
空軍 |
戦闘機連隊×10 爆撃機連隊×2 対地攻撃機連隊×5 |
|
作戦機 960機 第五世代機× 120機 F−10 ×360機 Su−30×120機 Su−27×300機 爆撃機 × 60機 大型輸送機Il−96など約200機 |
海軍 |
北海艦隊、東海艦隊 |
|
軽空母×2 潜水艦×45(静粛化) 駆逐艦×20(イージス艦×4含む) ミサイル・フリゲート×40 大型揚陸艦(後述)、各種支援艦 |
1-4 着上陸能力
作戦初期における経海侵攻可能兵力は、2コ海兵師団の第一線4コ連隊基幹(戦闘員約8000人、戦車124両、水陸両用軽戦車160両、装甲車200両)をShip to shore方式で、増強された8コ機械化連隊をShore to shore方式で上陸させることが可能であり、経空侵攻としては2コ空挺連隊(3000人)、2コ空中攻撃旅団(4000人)を所要の装備とともに着陸させることができると、それぞれ見積もられる。
後続部隊として、博多・佐世保正面に青島から5.6日間隔、舟山から5.6日間隔で、また那覇正面に青島から6.2日間隔、舟山から5.0日間隔で、各波4コ機械化師団基幹が同時に増援可能となる。空からは、1日間隔で同時約2個空挺連隊基幹が増援可能となる。
なお敵が南西諸島正面に上陸する場合は、青島からの着上陸作戦は上陸行程の間隔が6.2日と長くなるため実施せず、上海から舟山列島一帯を発地として南西諸島に強襲上陸作戦を行うものとする。
1-5 対日核戦力
対日核戦力としては、JL−2×24基を搭載したオスカー級SSBNが常時1隻哨戒しており、その他に地上配備のIRBMのうち瀋陽軍区に配備された第一師団の移動式DF−3Aの3コ旅団24基と台湾正面から転用された移動式固体燃料SRBM・DF−31の一部(10コ旅団中3コ旅団約300基)の核戦力が指向されると見られる。日本に指向された核戦力は、合計348基に達する。その他、爆撃機の一部によっても巡航ミサイルなどにより核攻撃は可能である。
2 日本の防衛力との対比
我の編成、装備、勢力、態勢は現大綱の計画どおりとする。
我の情報衛星、現地在留邦人からの情報などから艦艇、民間船舶、補給品の集中など、中国軍の種々の着上陸作戦の兆候が把握され、第一次増援は作戦準備間に完了し、中央即応集団は沖縄本島に、第12旅団主力は石垣島に、うち1コ中隊は宮古島に、FSB、第11旅団は北九州博多地区に、それぞれ配備される。第4師団は佐世保、長崎地区に集中配備される。ただし、第2次増援は敵侵攻に間に合わず、増援できないものとする。
西部方面隊の普通化連隊も九州に拘置される。なお、西部方面隊地対艦ミサイル連隊の半数と全国から集中されたAHの半数が南西諸島に集中されるものとする。
なお中国軍の攻撃ヘリは現在39機であり、ほとんど増加していない。今後の推移は不明であるが、経空侵攻能力は重視しており、今後空中攻撃旅団などを編成するとすれば、少なくとも80機程度に倍増することは見込まれる。一応80機と仮定した。
2-1 敵が九州、博多正面に戦力を集中した場合(我は南西諸島配備以外のWAと第1次増援)
人員/主要装備等 |
自衛隊 |
中国軍 |
戦力比(中国軍/自衛隊) |
|
地上戦力 |
師団数(スライス) 戦闘人員 戦車 火砲、MLRS(迫撃砲除く) AH SSM 地対艦ミサイル |
3.5 4.0万人 166 166 55 − 18 |
15.5 18.0万人 2900 1860 80 77 − |
4.4 4.5 17.5 11.2 1.45 |
海上戦力 |
潜水艦 軽空母 駆逐艦 フリゲート、ミサイル艇 |
16 − 50 15 |
50 2 40 40 |
3.1 − 0.8 2.7 |
航空戦力 |
戦闘爆撃機 爆撃機 |
200 − |
900 60 |
4.5 − |
着上陸当初の総合戦力比
着上陸当初の戦力比としては、我は変わらず、敵は4コ機械化師団、2コ海軍歩兵師団、1コ空挺師団、2コ空中攻撃旅団、2コ特殊作戦旅団のみとなり、兵員が14.2万人、戦車1150両、火砲が720門、AHが80機程度となる。
|
人員/主要装備 |
自衛隊 |
中国軍 |
戦力比(中国軍/自衛隊) |
地上戦力 |
師団(スライス) 戦闘人員 戦車 火砲、MLRS(迫撃砲除く) AH |
3.5 4.0万人 166 166 55 |
7.0 9.2万人 1150 720 80 |
2.0 2.3 6.9 4.3 1.5 |
敵が戦力を九州正面に集中した場合、着上陸侵攻当初の戦力比では、我が防御すれば敵の後続来着前に撃破できる可能性があるが、後続の重戦力上陸後の防御戦闘はかなりの困難が予想される。
2-2 敵が南西正面に全力を集中して着上陸侵攻した場合
人員/主要装備等 |
自衛隊 |
中国軍 |
戦力比(中国軍/自衛隊) |
|
地上戦力 |
師団数(スライス) 戦闘人員 戦車 火砲、MLRS(迫撃砲除く) AH SSM 地対艦ミサイル |
1.0 0.8万人 14 24 55 − 18 |
15.5 18.0万人 2900 1860 80 77 − |
15.5 22.5 207 77.5 1.45 |
海上戦力 |
潜水艦 軽空母 駆逐艦 フリゲート、ミサイル艇 |
16 − 50 15 |
50 2 40 40 |
3.1 − 0.8 2.7 |
航空戦力 |
戦闘爆撃機 爆撃機 |
200 − |
900 60 |
4.5 − |
着上陸当初の戦力比
着上陸当初の戦力比としては、我は変わらず、敵は4コ機械化師団、2コ海軍歩兵師団、1コ空挺師団、2コ空中攻撃旅団、2コ特殊作戦旅団のみとなり、兵員が14.2万人、戦車1150両、火砲が720門、AHが80機程度となる。
|
人員/主要装備 |
自衛隊 |
中国軍 |
戦力比(中国軍/自衛隊) |
地上戦力 |
師団(スライス) 戦闘人員 戦車 火砲、MLRS(迫撃砲除く) AH |
1.0 0.8万人 14 24 55 |
7.0 9.2万人 1150 720 80 |
7.0 11.5 82.1 30.0 0.7 |
敵が戦力を南西正面に集中した場合、着上陸侵攻当初の戦力比ですら、我は十数分の一の劣勢となり、海空劣勢もあり、我の守備兵力は早期に撃破され、かつ増援もできず、敵占領地の奪還は困難になるであろう。
したがって、敵が九州と南西諸島の両正面に上陸する場合も、当初南西諸島に第一波4コ機械化師団、2コ海軍歩兵師団基幹を上陸させ、第二派以降をもって九州正面への侵攻を図ることになろう。九州、南西諸島への同時上陸は公算が低い。
参考:検討の前提
(1) 人口と経済規模、兵員数と国防費
人口は『世界国勢図会2006/7』によれば、2010では13.54億人、2030年では14.46億人、2050年では13.92億人と予想され、2010年から30年までは年率0.30%で伸びるが、2030年以降は年率0.19%で減少すると予測されている。また、高齢人口の比率も2010年には8.3%だが、20年には11.9%、30年には16.3%と予測され、2030年頃に人口はピークに達し、かつ2020年以降急速に高齢化する。
したがって2030年頃の兵力は、人口が規模が1.1倍に増加するものの、高齢化も進み、徴兵適齢人口はほぼ現状程度とする。ただし、中国軍が重視している特殊作戦、経空侵攻能力、両用作戦能力、C4I能力に関連する部隊は倍増されると前提する。
経済規模については、種々の見方があるが、楽観的な見通しでは、中国は今後30年間実質平均5%の成長を続け、実質GDPが2015年頃には米国を超え、2030年には1990年時点のドル購買力平価で23.0兆ドル相当に達し、そのとき米国が16.7兆ドル、日本が3.5兆ドルになると予想する例もある(米国の中国経済専門家Augus Madison)。しかし、中国は今後名目で2010年までは15%、20年まで12%、30年まで10%の成長を維持し、2030年時点で名目GDPが米国46.0兆ドル、中国36.0兆ドル、日本8.2兆ドルと予測する例もある。元とドルの交換レートが元高に振れれば中国の名目GDPはドルに対し更に増加する。しかし、中国の物価上昇率を考慮すれば実質成長率は低くなる。また成長途中でのバブル崩壊などの調整は避けられないとの見方も多い。以上を考慮し、上記見積りの中間程度が妥当と見られ、2030年頃に米中の実質GDPがほぼ同等になる程度と見ることとする。
中国の国防費については、実際の額は公表額の2〜3倍とみられており、対GDP比も2006年度公表比率1.3%の2〜3倍の2.6%から4%に上ると見られ、イラク戦の戦時下にある米国の比率とほぼ等しい。『ミリバラ2007』でも、中国の実際の国防費は1040億ドルに達していると見積もっている。DIAは、中国の国防費は2025年までに3倍以上に増加する可能性があると見積もっており、2030年頃には米国に匹敵する3千数百億ドルの軍事費に達すると見られる。今後国防費の対GDP比率がさらに高まれば、米国を上回る可能性もある。
(2) 軍事力の質、技術的水準
現在中国は毎年2000億円規模の武器をロシアから供給されている。EUからの武器技術供与が停止されているため、現在の武器供給源はロシア以外にはイスラエルしかなく、その状況は基本的に今後とも大きな変化はないであろう。場合により欧州からの武器輸出、武器技術供与が復活する可能性もあるが、中国の軍事力強大化にともない警戒感が広がり、本格的再開は望めないであろう。
そうなればロシアの武器技術科の水準が将来の中国軍の武器技術水準を基本的に規定することになる。ロシアの武器生産力では、現在開発され配備が開始された最新のものが、軍全体的に行き渡るまでに30年程度を要する。輸出される武器は一時代前の武器であり、中国向けの武器は30年後でも現在の最新のロシアの武器の水準を大幅に超えるとは考えられない。したがって、2030年の中国の武器の水準は現在のロシアの武器の水準に準ずると見られる。
ただし、中国は国家を挙げて、研究開発要員の養成、教育訓練などの人材育成、先進国からの非合法の技術情報の入手、経済成長に伴う両用技術の転用などに、鋭意力を注いでおり、その技術的進歩は加速されている。一部には既に航空機技術はF−10にみられるように、F−15、Su−27レベルに達しており、F−22Aラプター級の開発も5年程度で完了するとの見方もある。ネットワーク中心の戦いの中核技術であるC4I分野でも、世界企業の進出に伴い生産技術を習得し、急速にレベルを向上している。宇宙開発、潜水艦建造などにも注力している。その実力は侮れない。
少なくとも、経済が急成長し国防費が米国並みに増大し、かつ優秀な人材と研究開発予算を軍事分野に優先的に集中投下できる体制をとる中国の軍事技術水準は、2030年時点では自衛隊並みかそれ以上に到達し、一部では現在のロシアの水準を凌駕する可能性は高いと見るべきであろう。
本分析では、2030年時点での中国軍の質的水準は、全般的には現行のロシアの水準に達し、一部はその水準を超え、2030年時点の自衛隊と同等かそれ以上の水準にあるものと前提する。
(3)見積もりの前提となる海空戦闘とその他の全般作戦様相
世界的には、中東正面でイランとイスラエルが交戦状態となり、米軍がすでに軍事作戦を展開している。作戦の短期集結の見込みはなく、米軍主力は中東正面に転用されている。南西諸島の駐留米軍は、空軍、海兵隊とも平時から主力がすでにグアムに移転しており、残余の部隊も中東正面に転用されている。基地警備部隊、後方支援部隊と司令部機能は残っているが、実戦部隊はいない。
中国軍は潜水艦隊と戦略爆撃機を展開し、米空母部隊に対する縦深にわたる接近拒否戦略発動の態勢をとりつつある。中国側の戦略核部隊も活動を活発化させており、米国政府は中国側の意図を慎重に判断中である。米政府は、対日本格来援については決定をまだ下しておらず、米空母部隊の来援時期は未定である。
航空兵力については、大阪まで上海、青島、瀋陽から概ね1500kmであり、敵の主力戦闘機の行動半径は大阪から岡山上空に及ぶ。第五世代航空機はさらに行動半径が長く、空中警戒監視、空中給油能力も備えている。そのため、空自戦力との質的差はほとんどないが、量的には、我の主力戦闘機総数約300機の3分の2の200機が集中しうるため、敵が900機と約4.5倍優勢である。航空撃滅戦を行ったものの次第に劣勢となり、九州上空まで航空優勢は中国側に奪われた。先島諸島には我の航空戦力の一部推進がされていたが、我の航空部隊は奇襲攻撃を受け早期に撃滅されており、航空状況は敵が圧倒的に優勢となっている。
海上では、敵は北海艦隊と東海艦隊、全兵力の3分の2を集中し、我は自衛艦隊全力で対処しているが、中国側の防空体制と潜水艦戦力、艦艇、地上配備対艦攻撃機からのミサイル攻撃などに阻まれ、琉球列島以西の東シナ海、九州西岸から対馬海峡付近までの制海権を奪われている。
このような条件下で、舟山列島と青島では海軍歩兵部隊が強襲揚陸艦を主体とする水陸両用作戦のための準備を行っている。徴用された貨物船、Ro−Ro船も集中をおおむね完了し、物資の搭載が始まっている。陸軍部隊も港湾に集結中であり、輸送機が空挺師団搭載のための空港で準備中である。一部の内陸地域の戦闘爆撃機が前方基地に展開を開始した。
倍増した特殊部隊約3.4万人のうち2コ旅団基幹の約1万人は本格侵攻に先立ち潜入し、目標の偵察、米軍基地の海空基地施設の破壊、擾乱工作、心理戦などを沖縄、西部九州地区を中心に同時多発的に行っている。第二砲兵のミサイル基地も活動が活発化し、近海へミサイルを射ち込み恫喝するなどの行動に出ている。
以上のような様相を着上陸侵攻直前の状況とする。
(4)敵の着上陸侵攻能力見積もり
経海侵攻能力については現在、同時に兵員約13600人、戦車・装甲車・車両482両、約1コ海軍歩兵旅団規模であるが、これが倍増されかつ編成装備も増強されて、2コ海軍歩兵師団、4コ連隊第一派が同時強襲上陸可能になっている。
1コ海軍歩兵連隊が先導する1〜2コ機械化師団の上陸には、過去のソ連軍の実績値などから、イワン・ロゴフ級強襲揚陸艦LPD1隻を含むLST、LSMなどの大型揚陸艦艇約10隻、ACV約10隻、小型揚陸艦艇数百隻、Ro−Ro船、LASH船約10隻、5千トン級貨物船70隻程度が必要になるであろう。
このうち、小型揚陸艦艇は緊急増産が容易であり、Ro−Ro船、貨物船は民間から必要数を徴発することができる。ACVは2007年ミリバラによれば、中国はまだ10隻しか保有していない。今後数十隻規模に増強されるとみられるが、不足分は小型揚陸艦艇でも速度は落ちるものの代替は可能である。
大型揚陸艦艇の保有数が同時揚陸能力のネックとなるが、2007年時点でも中国軍はすでに73隻を保有しており、将来はLPD数隻を含む150隻に倍増していると見積もられる。最も建造、訓練が困難な大型揚陸艦艇の数が150隻程度になれば、白紙的には各1コ海軍歩兵連隊に先導された計15コ機械化師団の同時揚陸能力があると見積もられる。
しかし先導できる海軍歩兵連隊の数は、2コ海軍歩兵師団では同時第1派4コ連隊程度である。海軍歩兵1コ連隊が後続1コ機械化師団主力を先導するとすれば、4コ機械化師団が同時上陸できるだけの4箇所の海岸堡が、4コの海軍歩兵連隊により確保できるとみられる。それに連携して空挺連隊、空中攻撃大隊、特殊作戦旅団も、港湾、空港の奪取、要域確保、破壊、襲撃などに使用されるであろう。
海軍歩兵師団、空挺師団などで海岸堡又は港湾を確保した後は、Ro−Ro船、貨物船等により、後続の機械化師団等を上陸させることは容易になる。各海岸堡では、揚陸艦艇、貨物船などを本国発地との間で往復させ、後続部隊としてさらに2コ師団を逐次に揚陸でき、計2コ軍団、12コ師団基幹が独立した4コ正面に上陸可能と見積もられる。
最終的に2コ海軍歩兵師団に先導された12コ機械化師団基幹が上陸し、それに連携して2コ特殊作戦旅団、1コ空挺師団、2コ空中攻撃旅団が指向されることになろう。
(5)前提とする敵の可能行動とその場合の上陸行程
敵上陸侵攻の可能行動として、以下の3つの場合を想定する。
● 全力で南西諸島に着上陸侵攻する場合(E−1)
● 南西諸島と九州地区に同時着上陸侵攻する場合(E−2)
● 全力で九州地区に着上陸侵攻する場合(E−3)
敵の可能行動の採用公算の順位は、以下の理由からE−1が大と判断する。
@じ後予想される米海空軍の反撃に対する、東シナ海と中国沿岸部の防護体制を早期に確立できる。
A台湾侵攻作戦時の台湾西岸を北翼から奪取するための拠点として先島諸島を早期に確保できる。
B海空の優勢化で安全確実に着上陸作戦を遂行できる。
上陸部隊の発進基地は青島と舟山とする。また南西諸島の場合は、那覇地区と石垣島に、九州の場合は博多地区に侵攻するものとする。
海上輸送距離は、博多までは舟山列島から約1050km、青島から約1100kmである。那覇までは舟山から約780km、青島から約1330km、先島諸島石垣島までは舟山から約790kmである。海上輸送部隊の速度は約18ノット、33km/hとする。ただし、ACVについては70ノット、130km/hとする。海上輸送に要する日時は、博多まで舟山から32h(1.3日)、青島から33h(1.3日)、那覇までは舟山から24h(1.0日)、青島から40h(1.6日)、石垣島までは舟山から33h(1.3日)となる。
以上の前提で上陸行程を4本の経路ごとに見積もる。
◎ケースT:舟山から那覇・石垣島
舟山から那覇・石垣島までの輸送時間はともに1.0日となる。その場合、舟山をH−24hに発進し、H時に4コ機械化師団+2コ海軍歩兵師団基幹がPort−to−Shore方式により強襲上陸作戦を行う場合を検討する。
第1派海軍歩兵連隊がACV、ヘリ、水陸両用戦車などを併用した直接達着による強襲上陸を行うが、上陸に要する時間は約1日とする。その際、これに連携してそれぞれ1コ空挺連隊と各1コ空中攻撃旅団が経空侵攻し、海岸堡設定を支援するとともに、ACVを活用して奇襲分散上陸を行う。同時に空挺部隊の一部と特殊作戦部隊が那覇の港湾・空港、下地島空港、石垣港等の主要空港、港湾を主力上陸に先立ち、又は同時に奪取する。第1派海軍歩兵連隊は正面、縦深各10数キロの海岸堡を計4箇所設定する。
設定された海岸堡の掩護下に4コ機械化師団主力の第一派8コ連隊は、強襲揚陸艦艇、ヘリ、応急埠頭又は奪取した港湾を使用し、可能な場合Ro−Ro船、LASH船、漁船などを併用しつつ強襲上陸する。その後、海岸堡の拡大に伴い貨物船などを奪取した港湾の埠頭に直接達着させ、後続兵站部隊も含め約1日で全師団の上陸を完了する。
その後、輸送船団は直ちに発進基地に引き返す。それぞれ舟山にはH+2.0日に帰還する。帰還後第2派の搭載を2日間で終える。その後再び輸送し後続4コ機械化師団が那覇、石垣に上陸する時期はH+5.0日後となる。
◎ケースU:青島から那覇
同様に海上輸送に要する日数は1.6日であり、第1派上陸後に第2派が上陸するまでは、強襲上陸1日、帰還1.6日、搭載2日、2回目の輸送1.6日となり、H+6.2日後となる。
◎ケースV:青島と舟山から博多
海上輸送に要する日数は、ともに1.3日となる。第1派上陸後に第2派が上陸するまでは、強襲上陸1日、帰還1.3日、搭載2日、2回目の輸送が1.3日となり、H+5.6日後となる。
◎ケースW:舟山から那覇・石垣島と青島から博多を併用
この場合はケースTとケースVの併用となり、第2派は第1派上陸後、那覇・石垣島正面は5.0日後、博多正面は5.6日後となる。
以上の4通りのケースを比較すると、青島正面から那覇に着上陸させるケースUは行程が最も長く、非効率かつ危険性も増大する。また海空の優勢確保も日本本土に近くなり、より困難となる。このため、南西諸島への着上陸侵攻は、舟山列島、上海地区の港湾能力が同時発進4〜6コ師団規模の能力があれば、舟山正面から集中して上陸部隊を発進させるほうが効率的である。以上から、本状況では、舟山正面から集中して那覇、石垣正面の南西諸島への上陸作戦が行われるものとする。
敵の可能公算の優先順位上もE−1の可能性が高いと見積もっており、その場合に発地は舟山地区となり、上陸行程はケースTが該当する。
また、博多正面への上陸については、行程上舟山も青島もほぼ同等であり、両地域からの同時発進により上陸侵攻するほうが、斉南軍区、北京軍区、各軍区ごとの部隊集結、搭載が可能となり、また港湾の能力も広く使用できるため、効率的である。これらから、E−3の九州、博多正面への集中上陸の場合は、舟山、青島両発地とも各軍区ごとに使用するとみられる。
なお、第3派の4コ師団、計12コ師団、2コ軍団基幹の上陸完了は、E−1の南西諸島集中着上陸の場合はH+11.0日後、E−2とE−3の場合はH+12.2日後となる。
じ後は内陸地での作戦に移行することになろう。
なお、以上の上陸戦力以外に、中国本土には約31万人の増援兵力が控置されており、輸送力と海空優勢が確保されれば、随時増援が可能となる。